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ver.1.0 ~始まりの音色~

ver.1.0.2-16話 たまにはかなり、真面目っぽい戦闘を

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【ガウガウガァァァッ!!】

 咆哮をあげ、瞬時に地面を蹴り飛ばして跳躍してくるファイターレオパルドのリン。
 二足歩行の格闘家の豹というだけあって、その飛び方は綺麗な放物線を描きつつ、的確に僕らを狙ってくる。不意を打ってくるような攻撃であれば避けることは叶わなかったはずだ。
 だがしかし、正々堂々とした真正面からの勝負だからこそ不意打ちにはならず、一直線に突っ込んでくるのであれば相手の攻撃の軌道は読みやすい。
 軽く横に逸れて攻撃を‥‥‥と思ったが、それでも甘くはなかった。


バシィッ!!
「っ、尻尾か!!」
【ガウッ!!】

 避けたつもりが尻尾の方が伸ばされていたようで、直撃し軽くダメージを負わされる。
 重い一撃ではないのだが、それでも尻尾も鍛えているのかダメージは受けており、HPが減少するのが目に見えた。

「とはいえ、そっちも油断大敵だ!」
【ガウ?ガッウッ!!】
【シャゲシャゲェェェ!!】

 何?と首をかしげる動きをしたようだが、直ぐに理解したようでばっと後方に飛ぶと、先ほどまでいた足元からマリーが素早く現れて体当たりを仕掛けて来た。
 それを避けたようだが、その避ける動きは予想済みであり、着地地点へめがけて爆裂薬を投げておく。


ドカンドッカアン!!
【ウガァアァゥ!?】

 見事に直撃したようだが、それでもダメージは浅いようだ。爆裂薬が炸裂する前にすぐに回避行動をとって爆発の衝撃を避けたらしい。
 マリーの素早い動きでわざと回避させ、回避させた先で爆発させてダメージをと思ったが、そうやすやすとやらせてくれないようだ。

【ガウウウウウウウッ!!】

 っと、再び咆哮したかと思えば、足を急に地面に素早く叩きつけ始め、超高速ズドドドドッっと凄い音を立てて足踏みをする。
 何をする気だと思えば、じわりと足が発光してすぐに動きを止めて、僕らの方へ蹴り上げて来た。

【ガウガァァァ!!】
ドバッツ!!
「っとぉ!?」
【シャゲェ!?】

 届かない威力の蹴りかと思えば、その勢いが目に見える刃のように吹っ飛んで来た。喰らうと不味いと思って慌てて避けると、直撃した地面が抉れていく。

「何かのスキルか‥‥‥遠距離攻撃手段を持っているとは厄介だな」
【シャゲェ】

 格闘家というだけあって接近戦を主体にするかと思っていたが、ネームドモンスターだけあって遠距離攻撃手段も確保していたようだ。
 スキルのようだが、蹴りがそのまま刃のように飛んでくるとは凶悪すぎる。

 そして隙を見せない、相手の考える暇を与えないというかのように、続けて蹴りを入れてくるリン。

【ガウガウガウガウ!!】

 跳躍して物理での攻撃を狙い、外れれば蹴りを飛ばしてくる。マリーの攻撃での誘導も多少は効果があるのだが、それでも決定的な一撃を与えられない。
 真珠化の魔眼や毒液などで硬直やダメージを狙うが、そういう攻撃手段は見ぬくようで回避し、すぐさま攻撃へ転じてくる。

 避けつつ受けつつ、このままだとHPの量からいって僕の方が先に力が尽きそうだ。そもそも錬金術師は道具頼りな面が多いので、手持ちの攻撃用の爆裂薬などが尽きれば負けるも同然。
 でも、こういう正面からの戦いというのも悪くはないと思う自分がいることにふと気が付いた。のんびりとした過ごし方もいいけれども、やっぱりアルケディア・オンラインというゲームの中だからこそ、現実ではできないような戦い方が出来て、楽しく想えてしまうのだ。

「だけど、楽しんでいたら先に負けるだろうし、こういう戦いで負けたくもない。絶対に勝つぞマリー!!」
【シャゲェ!!】

【ガウガァァウ!!】

 僕の言葉に答えて叫ぶマリーに、戦う意思を見てますますやる気をたぎらせてくるリン。遠距離での攻撃から接近戦へ切り替え、蹴りや拳を食らわせようとしてくるので、なんとか回避を試みる。
 でも、やっぱり尻尾や格闘術の熟練度などに差があるせいで、避ける事が出来たとしてもダメージが蓄積してくる。
 なので、負けが濃厚になりそうだが…‥‥それでも、負ける気というのはない。
 そしてこういう正面からの戦闘にしてくるのであれば、こっちだって無策ではないのだ。

「マリー、アレ・・をやるぞ!!」
【シャ、シャゲェッ!!】

 正面からの戦闘もいつかはあるだろうと予測していたので、実は密かに試していたことが合った。
 人の腕ほどの太さとかなりの長さを誇るマリーだが、全体の重さはそう重いわけではなく、だからこそやれる無茶苦茶な戦闘手段。

 合図と共にマリーが跳躍し、僕の右腕に一気に絡みつく。
 その様子に一瞬リンは何事かと思って警戒して距離をとったが…‥‥それは意味をなさない。なぜならその位置でも十分射程範囲だからだ。


【シャゲェェェッ!!】
ぐいいいいいいん!!
【ガ、ガウウ!?】

 腕に巻き付いていたかと思えば、あっと言う間にそこから体を伸ばして伸びて来たマリーにリンが驚愕するのだが、その驚愕で防御に隙が出来上がる。
 伸びた体の先でマリーが頭を向け、防御が緩んでいたお腹に頭突きを喰らわせた。

ごっすう!!
【ガゴッブ!?】

 強烈な頭突き攻撃に、思わず前かがみになるリン。
 ダメージはそこまで重くもないはずだが、それでも油断したお腹への一撃は効いたらしい。

‥‥‥ちょっと某ゴム人間の攻撃手段を真似した遠距離攻撃手段ではあったが、これはこれで実践でもつかえたようだ。重くもないマリーを、僕の腕を支柱にして進む方向を定め、一気に飛ばす拳ではなく蛇の頭。
 正拳突きではないが、それに近い一撃が出来ただろう。惜しむらくは頭の硬度がすごいあるわけではないので、理想としては鋼鉄のヘルメットでの頭突きなのだが、それだと今度は重くて伸びにくくなる欠点が生じ、未だに課題が多すぎる攻撃手段である。

 でも、これで多少は動きを鈍らせたのであれば、相手はすぐに攻撃ができない。だからこそ、こちらが素早く動き、一気に勝負を決めるべきだろう。
 すぐさま接近し、リンがカウンターを狙おうとしているような動きを見せるが、殴るわけではない。
 懐から爆裂薬を再び取り出すが、こちらは先ほどの投げていたタイプとは異なり、粘着する爆弾のようなものである。

―――――
『粘着式爆裂薬』
制作評価:7
効果:毒液を混ぜ込んだ粘着液をたっぷりつけた、特性の爆裂薬。至近距離からの爆発を相手に浴びせつつ、大きな爆発ダメージを与えることが出来る。まだまだ改良の余地があり、一つの爆弾としての原型になっているだろう。
―――――

 結構制作評価が高いお手製の爆裂薬で、カウンターを狙う拳へペタッとくっつける。そしてすぐさま僕らは後方へ飛びずさりつつ、普通の爆裂薬を取り出して投げつける。
 これが着火剤となり、直撃と共に爆発した瞬間、粘着していた爆裂薬も爆発した。

ドッカン、ドッガガァァァァアァン!!
【ガウガアアアアアアアアアア!?】

 あっという間に爆発の煙に包まれ、悲鳴を上げるリン。
 周囲に猛烈な爆発の副産物である土煙が舞い上がって包み込んで見えなくなるが、直ぐに煙が晴れてくる。
 見れば、あの凄まじい爆発の中を耐えきったようで、なんとかリンが立っていた。

「‥‥‥結構タフだね。今のがとっておきだったのに」
【ガウ‥‥‥ガウッ!】

 フラフラになりながらも僕の言葉を理解しているのか、堂々と答えるリン。
 けれども、限界になっているのを理解したようで、構えを解いた。

【…‥‥ガウガウッ!!】

 そしてお手上げというようにポーズをとったが‥‥‥これは、降参したのか?

―――――
>ファイターレオパルドのリンは、己の追い詰められ具合を感じ取り、負けを認めた。
>自身の降伏を行い、この場の戦闘はハルの勝利となる。
>…‥‥条件達成。『正面から堂々と挑み、討伐し切らずに負けを認めさせる』というテイム条件が満たされました。
>仲間になりたそうに見ているが、どうする?
―――――

 どうやらまだやれそうだが、僕らに追い詰められていることを理解して、潔く負けを認めたようだ。正々堂々とした格闘家だからこそ、正面からの戦闘に満足したらしい。
 しかも、どうやらテイム条件を満たしたようで、低い確率を潜り抜け、テイム可能になったらしい。

「んー、ファイターレオパルドのテイムかぁ‥‥‥」

 戦闘面においてはちょっと相性が悪いが、それでも惹きつけたり大きく相手を削る際に、何かと前衛に出てくれる仲間がいたほうが確かに心強いかもしれない。
 テイムモンスターが増えるのも悪くは無いし、出来そうならばやるべきか?

「マリー、別に良いよね?」
【シャゲェ!】

 大丈夫だというようにマリーも返答したので、僕らはその申し出を受け入れることにした。

【ガウガァァウ♪】
―――――
>テイム成功!ファイターレオパルドの『リン』が仲間になった!!
>リンのステータスが表示されます。
名前:『リン』
種族:『ファイターレオパルド』Lv.15
HP:10/120、MP:4/60
ATK:95、INT:50
DEF:75、MEN:80

「称号」
『ネームドモンスター』『格闘家』『飛翔脚』

「称号説明」
『格闘家』
・素手での戦闘を何度もした者に付く称号。物理攻撃が30%向上する。
『飛翔脚』
・格闘系の技を使いこなす者の中で、蹴りに関して卓越したものに付く称号。この称号が付くと蹴りの衝撃が飛ぶようになり、蹴る技の威力が増加する。
―――――

 あ、スキルじゃなくて普通に称号として付くほど極めた結果だったのか、あの蹴り。
 というか攻撃力が3ケタになりそうなほどで、まともにぶつかり合ったら結構不味かったかもしれない。直撃を避けていたのは良い判断だったのか。
 とにもかくにも、新しいテイムモンスターが増え、今後の生活で色々とやることが増えて一層楽しめそうだと思うのであった…‥‥

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