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出会いましょう、新しい世界と共に

第三十話 天へ向かうな

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…長きにわたるテスト期間が終わり、結果が発表されて無事に補習を逃れた者たちは天に召されたように穏やかに眠りにつき、逆に補習が確定した者たちは地獄へ向かうかのように悶絶したかのような顔で倒れこむという、極端な光景が広がっていた。

「…まぁ、こっちも何とか逃れたから寝たい方だけど…異様な光景過ぎて、寝にくいなぁ」
【かなり極端ですよね、この光景】

 なお、友人のルンバたちに関しては、残念ながら地獄へ向かうことが確定したようで、倒れこんでいる者たちと一緒の場所に埋葬されていた。
 テスト対策の勉強会なども行われており、一緒に参加して挑んだというのに…あと一歩のところで、落下してしまったようである。


 とにもかくにも、天国と地獄の光景は放置しておくとして、あとは夏季休暇までのわずかな間の、気楽な軽めの授業を数日ほど残すだけである。
 終えてしまえば夏季休暇として一か月半ほどの期間が…馬車での帰郷の時間が馬車で一週間ほどと考えると、そこまで長くはないのかもしれないが、十分遊ぶだけの時間は確保されるだろう。

 でも、ただメダルナ村へ帰郷して過ごすだけというのも、物足りない様な気がしなくもない。
 前世のように交通機関が恐ろしく発達しているわけではないので、気楽に海や山へ向かうということはできないが…それでも、長い休みの間にちょっと遊べる場所が欲しいだろう。


「貴族側の学園の生徒だと、帰宅せずに周辺諸国漫遊旅行とかするらしいけれどね。うーん、そこまでの旅費はないし、流石にその規模はやる気も出ないか」

 お金があればそんなことが出来るのだろうが、大規模すぎる旅行というのも何か違うもの。
 平穏な生活の中で、ちょっとだけ刺激的なものが欲しいだけで、奮発しまくるようなものは必要ないが…それでも、ちょっともやっとするかもしれない。

【あ、お金ならありますよ、旦那様】
「え?」
【聖女様のお手伝いや、魔獣としての研究などのお手伝いも行って、地道にお金を蓄えていますからね。狩ってきた獲物から剥ぎまくった素材を売却しても一気に大金が入りますし、不自由はないですよ】
「…稼いでいたのか」
【旦那様のお嫁さんになる以上、一定の財力はあったほうが良さそうですからね!!万が一、旦那様がご病気になられてもお金に糸目をつけず法外な治療費でも対応できるようにしたり、家を買うようなことがあれば旦那様の望む豪邸を購入できるようにと思い、将来を見据えての貯蓄は万全にしているのです!!】

 きらきらと笑顔を輝かせながら、そう告げるハクロ。
 密かに授業に混ざる傍ら、裏では稼いでもいたようで、なんとなく申し訳ない気持ちが沸き上がる。

 でも、稼いだといっても貯蓄に大半を回しているらしく、自由に使うお金はある程度の制限をかけてやりくりをしているらしい。

【いくつかの商会に投資もしていますからね。お店でその商会の属する系列店であれば、割引もされるなど、消費しても問題ないようにもなっています!!】
「すでに投資にも手を出していたのか…」

 インターネットもないのに、株式投資のようなことをやっているハクロ。
 しかも、色々と考えてやっているらしく、少しどこにどれだけのことをしているのか教えてもらったのだが、一つも損しているどころか、返ってくる利益を見るととんでもないものになっている。

 これ、もしも異世界じゃなくて前世の世界と同等のものがあり、投資家として動いたら相当ヤバいことになっていたような…うん、まぁ、そんなことはないとは思いたい。
 あり得そうなので否定しきれないが、そう物事は簡単に動くはずはない…よね?


【とりあえず、これで休暇中でもちょっと豪遊してどこかへ遊びに行けますよ】
「規模がヤバい様な気がするんだよなぁ…うわぁ、長期的な目で見ると、下手すると一貴族家波になるような…流石にそこまでない…のか?」

 自信満々に言われつつ、ならばこの際お言葉に甘えて余計なことを考えないほうが幸せかと思い、思考を切り替えることにする。
 考えても無駄ならば、いっそ別の考えをしたほうが楽だろう。

「そうなると…あ、そうだハクロ。村まで帰郷するのは決めているけど…村からつながる馬車便の一つで、プチ旅行みたいなことやろうか?」

 いくら辺境の地とはいえ、ド田舎であっても多少の交通はある。
 そして辺境だからこそ、他の場所へ向かいやすいというのもあって、いくつか面白そうな場所へ向かう馬車もあるようなのだ。

【プチ旅行…良いですね、旦那様と一緒に行けるなら、どこでも大賛成です!!】

 ハクロも賛成してくれたので、プチ旅行を決定する。
 どこへ向かうかは、より詳細なルートの一覧が確か馬車便用の掲示板が村にあったはずなので、実行は帰郷してからになるけれども、それでも夏季休暇中の楽しみができたのは間違いない。

 地獄のテスト習慣を乗り越えた先にあったのは、天国のような楽しみの日々であった…



「しかし、本当に投資とかだけでここまで稼げるのか…」
【他に、服を作って販売もしていますよ。蜘蛛の魔獣なので…最近学会でアラクネとしての名称が付いた私の糸で作った衣服は、人気があるようですからね】
「そうなの?」
【頑丈で汚れにくく、質感も良いのが口コミで広がったようです。真似できない性質も多いようで…偽物も出回りかけましたが、すぐにバレる程度だったそうで問題もありません】

 へぇ、偽物もねぇ…それが出るほど人気が出ているのは驚かされるな。
 でも、彼女の糸で作った服は確かに着心地が良いし。デザインとかも悪くはないので、万人受けしてもおかしくはないかもしれない。

【ちなみに、旦那様の衣服はさらに特別製で、剣で切りかかれたり殴られたりしても、逆に剣をへし折り、拳を砕くようになっています!!】
「そんなことされる機会、あるのかなぁ…」

…並大抵の鎧よりも丈夫らしいが、そんなものに巻き込まれる機会はないと思いたい。
 いや、誘拐事件の例があるから何とも言えないけど…値段付けたら、相当ヤバそう。

 
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