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出会いましょう、新しい世界と共に

第十八話  守りの手は広々と

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―――王都の中にある貴族たちの住まう区画である貴族街。
 その区画の一角…ある貴族の邸宅の周囲は、聖女の手によって派遣された騎士たちが囲んでおり、逃げ出すものがいないか、その他怪しい情報がないかと見張りや探りだしが行われていた。
 襲撃を受けた下手人の手下たちに関しては全員捕縛済みであり、動くこともできないだろう。

 そんな中で、今回の誘拐事件に関する情報が整理できたが…かなり迷惑な私怨によって巻き込まれた形だったことが判明した。



今回の犯人は結局何をしたかったのか。
一体何者だったのかということが疑問だったが、色々と確認したところ、下手人の正体は、ゲドン子爵という人物だった。

 元々は子爵家ではなく、王家に関連する公爵の位を持っていた貴族だったらしいが、磨くことがなければ腐り果てていくのか、引き継いだゲドン自体の資質が最悪だったようで、様々なやらかしがボロボロとこぼれ落ちまくって、結果として十数年前に爵位を落とされた人物のようだ。

 公爵位にある人物が爵位を下げられるのは相当なやらかしが原因のようで、何があったのかという詳細まではわからないが、そこまでやるならいっそのこと剥奪したほうが世のため人のためになったのではないかと思うのだが、事はそううまく運ぶことはない。
 まともなところは完全に平民落ちまで徹底することを望んでいたようだが、一部では愚か者には愚か者なりの使いよう…自身の危険が迫ったときのトカゲの尻尾切りとしての尻尾役や生贄的なものなどに利用できると思った人たちがいたようで、その人たちの手助けによって、しぶとく貴族の位にしがみつくことはできたらしい。

けれども、いくら貴族としての立場を維持できたとしても、公爵と子爵では規模も権限も異なっており、腐っていたがゆえに強い選民思想なども持っていたゲドンにとっては、平民に堕ちずとも以前の生活から変わり果てたことがつらかったようで、自業自得なのに何をどうしてか逆恨みのように、王家に対して復讐を考えていたようだ。
 ただ、愚か者であっても悪事を働くだけの頭脳はあったからなのか、下手に手を出せば国家転覆罪、王家反逆罪等の罪に問われることは流石に理解していたからこそ実行することはできなかった。
やれば破滅の可能性がある、それでもどうにかしたいとくすぶっていたようで…そんな逆恨みのような復讐心を抱えていたところに、ある日、転機が訪れた。

 その転機とは、ある魔獣が新たに王都に入ったという情報。
 聖女の結界によって並大抵の魔獣は王都内に入ることはできず、それなのに入ってきたということは聖女の許可を貰ったということ。 
 何かしらの理由があって許可がもらえたということであり、その情報を耳にしたゲドン子爵は興味をもって調べたそうだ。

 最初こそは、魔獣であればいっそのことどうにかして暴れさせるようなことが出来れば、王都内に損害を出して自身の爵位を落とした王族たちへ対しての少しでもうっぷん晴らしができるだろうと思ってのものだった。

 しかし、ハクロに関しての情報を入手していき…そこで、並大抵の魔獣ではないということが分かったので、方針を変更したそうだ。

【キュル…昔、王族がかかった魅了対策でそんなたやすくなびくようなものじゃなくなったのに、王子が私に対して求婚してきた情報からですか】
「そのようね…魅了に対策している王子が即求婚するほど落とされるのはどういうことだということで、調べて貴女の美しさを知ったようね」

 魅了対策していた王族すら簡単に恋に落ちるほどの美貌の持ち主。
 魔獣という名だけで単純に暴れさせるだけの獣としか利用価値を見ていなかったのだが、容姿の部分の利用価値が高いのであれば、むしろ自分の欲を満たすために使いたい。
 
 まともに暴れさせたとしても、それはいつか討伐可能な人が出るだろうし、そこまで長続きしない可能性がある。
 けれども、自分の性欲のはけ口としてそばに置くことが出来れば、討伐されることはなく、より長く楽しめるのではないかと…思ったよりも下衆な方面へ思考が働いたようだ。

 だがしかし、そうたやすく利用できるわけではない。
 実力もあるだろうし、落とされた王子とはいえそちらはそちらで顔面偏差値も高いのに、そうたやすくなびかなかったということは、直接出向いて従うように命じたとしてもうまくいかない可能性が大きい。
 権力や金があっても流石に限度はあり、何かしらの言うことを聞かせるための枷が必要になると考え…そこで見つけ出したのが、ルドだったようだ。

「…違法な魔道具で彼を拘束、目の前で奪う楽しみも持ちつつ、色々とやる気だったようね。あらあら、最悪な女の敵ねぇ」
【キュルル…旦那様を酷い目に遭わせた、その時点で抹殺レベル】

 聖女クラウディアの言葉に対して、同意してうなずくハクロ。
 彼女の蜘蛛部分の背中には、落ち着いて精神的にも癒すために寝かされたルドが寝かされており、落ちないように少しだけ糸で体に結ばれている。

 失いかけた、自身にとっての大事な番の温かみを感じつつ…今は、この突撃した屋敷から抜き出しまくった情報を整理して、後始末を付けなければいけないだろう。

「見つけた計画書の中には、言うことを聞かせられないようであれば、暴れさせるプランもあったようだし…王家への反逆の意思があるから国家反逆罪が適応されるかしら。でも、いいのかしら?」
【キュル?】
「強制捜索中の不慮の事故で、亡き者になったって処理も可能なのに、あっさりと引き渡す方へ動こうとしているのが意外だと思ってね」
【…本当は、旦那様を傷つけ、痛めつけ、苦しめたのだから私の手で屠ってやりたいです】

 黙って突撃し、そのまま葬ることもできた。
 けれども、それではダメなのだ。

【人の中で生活する以上、人には人の法律がありますので、出来るだけ従ったほうが良いと思いますし、いくら感情では裁きを下したくても、感情のままに動くと、下手すると人から討伐対象にされかねない危険がありますし…それに…】
「それに?」
【生きているとはいえ、活け造り・・・・にしたのですが…このまま普通に命を奪うだけでは味気がないので、人ならば人の手で裁かれたほうが良いかな判断しました。人を見下すような人が、結局は人の手で裁かれるというのが、こういう人には効果的だと思いますからね】
 
 邸の庭のほうで転がされている、ゲドン子爵だったもの・・・・・
 いまだにびくびくと痙攣した状態で蠢いており、そのような身になりながらも息があるのは不思議な状態であった。

【キュル、私のとても大事な、大切な、大好きな旦那様を…ルドを傷つけたことへの怒りは天より高く谷よりも深いのです。だからこそ、あっさりと死を迎えさせては、意味がないので、ここはギリギリまでやってから、人の手を借りることにしました】

 自身の手ですぐに裁くことはできる。でも、それでは意味がないのだ。
彼が、ルドが受けた痛みは計り知れず、だからこそ、徹底的に骨の髄どころか魂の全てを持って償わせなければ腹の虫がおさまらない。
 そう思い、今回の襲撃では誰一人命を奪うことはせず、ぎりぎりのところですべて踏みとどまったのである。

大半が今後物理的な意味合いでもまともな生活を送れないほどになったのだが…そんなことはどうでも良い。
 彼女にとって大事なのはただ一つだけ、番であるルドだけなのだから。

【キュルル…旦那様、ゆっくり眠ってください。起きるまでの間に、全部終わらせてあげますからね】

 体を捻り、そっとやさしくルドを撫で上げて、そう口にするハクロ。
 聖女の治療魔法によって傷がすっかりなくなったが、外側の部分だけ。
 
 肉体が治癒されても、結局は精神のほうは本人次第な部分があり…それも考えて、今回の愚物どもには地獄を見せてあげたいのである。

「すでに十分な地獄を見せているとは思うわね。というか、活け造り状態ってどうやってやったのかしら?」
【結構簡単ですよ?人じゃないものでしかやったことがなかったですが、鮮度を保つには生きている方が何かと都合が良いので、生かし続ける保存方法として、川で知り合ったイタチの魔獣さんに伝授してもらったのです。私に刃は無いですけれども、糸で似たようなことが出来ますので、今回初めて人間で実践しました】
「今までに誰かでやっていたら、それはそれで大問題だったわね」

 使うと中々都合の良い技術だが、こうやって人相手に使うとは思わなかった。
 世の中、何を学んで役に立つかはわからないものである。


 とにもかくにも、今回の元凶であった子爵は二度と人の身にはなれなさそうな状態にされた時点で相当な罰なのだが、この後は王都内の衛兵に引き渡されてからの裁きが待っている。
 貴族たちも無法地帯というわけではなく、しっかりと犯罪を裁くための機関が存在しており、そちらへ引き渡されて判決を待つだけの身になるだろう。

「ギリギリ子爵でとどまっていたけれども…この様子だと、爵位剥奪は確実ね。証拠書類が多いけど、色々な方法を…下手すれば国家転覆につながりかねないようなことを企んでいたようだし、鉱山での強制労働が妥当なところかしら…アノ状態で働けるかは微妙だけどね」
【…ちょっと手足ぐらいなら、普通に残した方が良かったですかね?一応、あの状態からでもつなげれば、何とか動けるとは思いますよ】
「そうねぇ…いえ、多分駄目ね。いっそ死刑になったほうが楽かもしれないけれども、あのまま放置された方が十分な刑罰になるわ」

 手を出してはいけないような相手に対して、盛大にやらかしたゲドン子爵。
 その末路は、魂が天へ行くことはなく、このまま生かされるだけの肉塊としての生涯を送る羽目になることだろう。

 何にしても、彼の選択は自身の破滅への道を、超特急で招き入れただけに過ぎないのであった…

【それにしても…こうなると、今後が不安ですよ。私を目当てにしている方がいるのはわかりますけど、旦那様が巻き込まれるのは辛いです。いっそ、そんな人が出ないように、この国の貴族をいくつか襲撃して、殲滅させて力を誇示させるべきでしょうカ…いえ、でもそれだと国の手配を受けて、旦那様の迷惑になりますし…】
「中々物騒な方法を思いつくわね…確かに、痛い目を見ないと分からないような人も多いけど、それは絶対にやらないでほしいわ。けれども、一応彼は平民だから護衛を付ける方法もちょっと難しいわね…あ、そうだわ」
【キュル?何か、思いつかれましたか?】


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