17 / 59
出会いましょう、新しい世界と共に
第十五話 考えなしに突き進まず
しおりを挟む
【ふぅ…ようやく検診が終わりましたよ。疲れたぁ~】
ぐでーんっと寮室に作った自身のハンモックに倒れこみ、そうつぶやくハクロ。
本日はこの王都で過ごすうえで義務付けられた検診に向かったが、一通りの検査を終えるだけでもかなり疲れたのである。
これが普通の戦闘の場であればまだいい。戦いの場で気を抜くことは死と同意義であり、意識を疲労へ向けることがないからだ。
しかし、自身の状態を確認するためだけに検査を受けるというのは不慣れなものであり、精神的な負担が大きかったのである。
一応、ハクロは蜘蛛の魔獣とはいえ人型の部分が女性の肉体というの配慮されて、検診を行う人員は同性のものばかりではあったが…いかんせん、ハクロの容姿は他の女性たちから見ても羨むほどの美しさを持っているゆえに、興味を強く持たれてしまったらしい。
【じろじろ細かくみられるなら、旦那様の目が良いのに…何ですか、私の裸なんて見て楽しいのでしょか?】
元々魔獣であるがゆえに、自身の裸を見られることぐらいは実はそこまで羞恥心を覚えるわけでもない。
生活するうえで弱い場所を隠すのは当然のことで、なおかつ人の生活に紛れて過ごすのであればどれだけ衣服が重要なのか理解しているので着ているわけなのだが…こうやって衆目の目に嫌でも多少は意識をしてしまい、精神的に疲れるのである。
なぜそこまで、自身の肉体に注目を集めるかが分からない。
蜘蛛部分は毛並みの良さでブラッシングされ、人型部分はサイズを測られて…腰や胸もとを注目されても、何の意味があるのだろうか。
あとは血液検査ということで、血も抜かれそうになったのだが、そこでトラブルが発生した。
…まさかの注射器が肌を通さなかったのである。
そう、人型部分に見えるところが一番柔らかいだろうと思っていたのだが、見た目こそ人のようであっても魔獣なことは魔獣。
弾力性や伸縮性は人に似ていても、その耐久性能は人以上であり、用意されていた注射器の針をへし折ってしまったのだ。
一応、検診の目的で目視分だけでも異常がなければいいのだが…最初のデータが肝心ということで、細かいものが必要になり、そのために必要な血を抜くための機材を用意するまで時間を取られたのであった。
【あー、終わったのは良いですけれども、旦那様成分が不足してますよ~。血は少し休めばすぐに戻るけど、旦那様に甘えたい…】
精神的に疲れたときは、愛しい人に甘えるのが一番の活力回復に効果的だと学んでいる、
ルドと同学年や上級生の女子生徒。食堂のおばちゃんや教師陣、村の女性人などからしっかりと話を聞いており、どういうものが夫婦として一番の活力につながるのかということをしっかりと知識として蓄えているのだ。
知識だけでは意味がなく、実践してしっかり確認したい。
というか、そんなものは建前に過ぎず、自分がただルドに甘えまくりたい。
そう思って、街中へ友人たちと出かけているルドの元へ、今からでも遅くはないかと思って動こうとした…その時だった。
ダンダンダダン!!
「「ハクロさん、戻ってきているよね!!」」
【おや?】
勢いよく扉が叩かれているようで、誰かと思って軽く気配を探りつつ声から判断すると、どうやらそこにいるのはルドの友人であるルンバやクレヤンのものである。
本日、一緒に遊びに行っているはずなのだが、思ったよりも早い帰りのようで…何やら、様子がおかしいことに気が付く。
まず、大事な旦那様の気配がない。
そして、続けてきた言葉によって、何が起きたのか瞬時に理解することになった。
「大変大変大変なんだ!!」
「街中で、ルドが攫われた!!」
【---え】
部屋の扉を開け、かくかくしかじかと話を聞けば、どうやらルドが攫われたらしい。
街中の探索で一時迷子になったりしたが、地図があることで安堵し、そのあたりを見て回りまくって楽しんでいた時に、その事件は起きたようだ。
「屋台で次に、あれを食べてみようかなと思って」
「その時に人ごみに紛れて、誰かが後ろに立ったと思ったら…鈍い音がして、ルドの体が倒れこむと同時に、素早く抱え込んで逃げたやつがいたんだ」
街中で突如起きた、人攫い事件。
周囲にいた人たちも何事かと驚き、慌て近くにいた衛兵に声をかけて助けを求めたときには、既にその場から去っていた。
「王都内の治安は悪くはないはずなのに…まさか、こんなことになるなんて」
「それで、まずは情報を学園に知らせつつ、俺たちはハクロさんに伝えに来たんだけど…その、大丈夫?」
【…】
事情を説明したところでハクロを見れば、彼女は茫然としていた。
ショックが大きかったようで、聞いてもなお信じがたい気持ちだったのだろう。
でも、無理はない。世の中そう簡単に自分が事件に巻き込まれると思う人はおらず、突然の出来事が信じられない気持ちになるのはおかしくもないだろう。
…だが、問題はその攫われであったことハクロにとって…大事な番であったことか。
【…すみません、二人とも。その犯行現場、わかりますでしょうか】
「えっと、わかるけど今、衛兵の人たちが現場確認をしていて調査中なんだけど」
「そこに魔獣のハクロさんが向かったら、ちょっとそれはそれで騒ぎになりそうな…」
【大丈夫です。ある程度気配を消せますので…今は、旦那様のために、動きたいのです】
冷静なよう振る舞い、そう口にするハクロ。
けれども、話をしていた二人はその言葉に込められた感情に気が付いてしまう。
彼女は今、相当激怒しているのだと。
不安な気持ちなども混ざっているようだが…大事な番を攫われたことに対して、相手を殲滅するような勢いのマグマが今、内部で湧き上がっているのだと。
ここは下手なことはせずに、素直に彼女の言葉に従ったほうが良い。
友人が攫われて慌てふためいていた彼らであったが、相当ヤバい怒りの持ち主によって冷静さを取り戻させられつつ、すぐに動くのであった…
ぐでーんっと寮室に作った自身のハンモックに倒れこみ、そうつぶやくハクロ。
本日はこの王都で過ごすうえで義務付けられた検診に向かったが、一通りの検査を終えるだけでもかなり疲れたのである。
これが普通の戦闘の場であればまだいい。戦いの場で気を抜くことは死と同意義であり、意識を疲労へ向けることがないからだ。
しかし、自身の状態を確認するためだけに検査を受けるというのは不慣れなものであり、精神的な負担が大きかったのである。
一応、ハクロは蜘蛛の魔獣とはいえ人型の部分が女性の肉体というの配慮されて、検診を行う人員は同性のものばかりではあったが…いかんせん、ハクロの容姿は他の女性たちから見ても羨むほどの美しさを持っているゆえに、興味を強く持たれてしまったらしい。
【じろじろ細かくみられるなら、旦那様の目が良いのに…何ですか、私の裸なんて見て楽しいのでしょか?】
元々魔獣であるがゆえに、自身の裸を見られることぐらいは実はそこまで羞恥心を覚えるわけでもない。
生活するうえで弱い場所を隠すのは当然のことで、なおかつ人の生活に紛れて過ごすのであればどれだけ衣服が重要なのか理解しているので着ているわけなのだが…こうやって衆目の目に嫌でも多少は意識をしてしまい、精神的に疲れるのである。
なぜそこまで、自身の肉体に注目を集めるかが分からない。
蜘蛛部分は毛並みの良さでブラッシングされ、人型部分はサイズを測られて…腰や胸もとを注目されても、何の意味があるのだろうか。
あとは血液検査ということで、血も抜かれそうになったのだが、そこでトラブルが発生した。
…まさかの注射器が肌を通さなかったのである。
そう、人型部分に見えるところが一番柔らかいだろうと思っていたのだが、見た目こそ人のようであっても魔獣なことは魔獣。
弾力性や伸縮性は人に似ていても、その耐久性能は人以上であり、用意されていた注射器の針をへし折ってしまったのだ。
一応、検診の目的で目視分だけでも異常がなければいいのだが…最初のデータが肝心ということで、細かいものが必要になり、そのために必要な血を抜くための機材を用意するまで時間を取られたのであった。
【あー、終わったのは良いですけれども、旦那様成分が不足してますよ~。血は少し休めばすぐに戻るけど、旦那様に甘えたい…】
精神的に疲れたときは、愛しい人に甘えるのが一番の活力回復に効果的だと学んでいる、
ルドと同学年や上級生の女子生徒。食堂のおばちゃんや教師陣、村の女性人などからしっかりと話を聞いており、どういうものが夫婦として一番の活力につながるのかということをしっかりと知識として蓄えているのだ。
知識だけでは意味がなく、実践してしっかり確認したい。
というか、そんなものは建前に過ぎず、自分がただルドに甘えまくりたい。
そう思って、街中へ友人たちと出かけているルドの元へ、今からでも遅くはないかと思って動こうとした…その時だった。
ダンダンダダン!!
「「ハクロさん、戻ってきているよね!!」」
【おや?】
勢いよく扉が叩かれているようで、誰かと思って軽く気配を探りつつ声から判断すると、どうやらそこにいるのはルドの友人であるルンバやクレヤンのものである。
本日、一緒に遊びに行っているはずなのだが、思ったよりも早い帰りのようで…何やら、様子がおかしいことに気が付く。
まず、大事な旦那様の気配がない。
そして、続けてきた言葉によって、何が起きたのか瞬時に理解することになった。
「大変大変大変なんだ!!」
「街中で、ルドが攫われた!!」
【---え】
部屋の扉を開け、かくかくしかじかと話を聞けば、どうやらルドが攫われたらしい。
街中の探索で一時迷子になったりしたが、地図があることで安堵し、そのあたりを見て回りまくって楽しんでいた時に、その事件は起きたようだ。
「屋台で次に、あれを食べてみようかなと思って」
「その時に人ごみに紛れて、誰かが後ろに立ったと思ったら…鈍い音がして、ルドの体が倒れこむと同時に、素早く抱え込んで逃げたやつがいたんだ」
街中で突如起きた、人攫い事件。
周囲にいた人たちも何事かと驚き、慌て近くにいた衛兵に声をかけて助けを求めたときには、既にその場から去っていた。
「王都内の治安は悪くはないはずなのに…まさか、こんなことになるなんて」
「それで、まずは情報を学園に知らせつつ、俺たちはハクロさんに伝えに来たんだけど…その、大丈夫?」
【…】
事情を説明したところでハクロを見れば、彼女は茫然としていた。
ショックが大きかったようで、聞いてもなお信じがたい気持ちだったのだろう。
でも、無理はない。世の中そう簡単に自分が事件に巻き込まれると思う人はおらず、突然の出来事が信じられない気持ちになるのはおかしくもないだろう。
…だが、問題はその攫われであったことハクロにとって…大事な番であったことか。
【…すみません、二人とも。その犯行現場、わかりますでしょうか】
「えっと、わかるけど今、衛兵の人たちが現場確認をしていて調査中なんだけど」
「そこに魔獣のハクロさんが向かったら、ちょっとそれはそれで騒ぎになりそうな…」
【大丈夫です。ある程度気配を消せますので…今は、旦那様のために、動きたいのです】
冷静なよう振る舞い、そう口にするハクロ。
けれども、話をしていた二人はその言葉に込められた感情に気が付いてしまう。
彼女は今、相当激怒しているのだと。
不安な気持ちなども混ざっているようだが…大事な番を攫われたことに対して、相手を殲滅するような勢いのマグマが今、内部で湧き上がっているのだと。
ここは下手なことはせずに、素直に彼女の言葉に従ったほうが良い。
友人が攫われて慌てふためいていた彼らであったが、相当ヤバい怒りの持ち主によって冷静さを取り戻させられつつ、すぐに動くのであった…
1
お気に入りに追加
240
あなたにおすすめの小説
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
ある、義妹にすべてを奪われて魔獣の生贄になった令嬢のその後
オレンジ方解石
ファンタジー
異母妹セリアに虐げられた挙げ句、婚約者のルイ王太子まで奪われて世を儚み、魔獣の生贄となったはずの侯爵令嬢レナエル。
ある夜、王宮にレナエルと魔獣が現れて…………。
やり直し令嬢の備忘録
西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。
これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい……
王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。
また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
婚約破棄を目指して
haruhana
恋愛
伯爵令嬢リーナには、幼い頃に親同士が決めた婚約者アレンがいる。美しいアレンはシスコンなのか?と疑わしいほど溺愛する血の繋がらない妹エリーヌがいて、いつもデートを邪魔され、どっちが婚約者なんだかと思うほどのイチャイチャぶりに、私の立場って一体?と悩み、婚約破棄したいなぁと思い始めるのでした。
その国が滅びたのは
志位斗 茂家波
ファンタジー
3年前、ある事件が起こるその時まで、その国は栄えていた。
だがしかし、その事件以降あっという間に落ちぶれたが、一体どういうことなのだろうか?
それは、考え無しの婚約破棄によるものであったそうだ。
息抜き用婚約破棄物。全6話+オマケの予定。
作者の「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹が登場。というか、これをそっちの乗せたほうが良いんじゃないかと思い中。
誤字脱字があるかもしれません。ないように頑張ってますが、御指摘や改良点があれば受け付けます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる