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出会いましょう、新しい世界と共に

第十五話 考えなしに突き進まず

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【ふぅ…ようやく検診が終わりましたよ。疲れたぁ~】

 ぐでーんっと寮室に作った自身のハンモックに倒れこみ、そうつぶやくハクロ。
 本日はこの王都で過ごすうえで義務付けられた検診に向かったが、一通りの検査を終えるだけでもかなり疲れたのである。

 これが普通の戦闘の場であればまだいい。戦いの場で気を抜くことは死と同意義であり、意識を疲労へ向けることがないからだ。
 しかし、自身の状態を確認するためだけに検査を受けるというのは不慣れなものであり、精神的な負担が大きかったのである。

 一応、ハクロは蜘蛛の魔獣とはいえ人型の部分が女性の肉体というの配慮されて、検診を行う人員は同性のものばかりではあったが…いかんせん、ハクロの容姿は他の女性たちから見ても羨むほどの美しさを持っているゆえに、興味を強く持たれてしまったらしい。

【じろじろ細かくみられるなら、旦那様の目が良いのに…何ですか、私の裸なんて見て楽しいのでしょか?】
 
 元々魔獣であるがゆえに、自身の裸を見られることぐらいは実はそこまで羞恥心を覚えるわけでもない。
 生活するうえで弱い場所を隠すのは当然のことで、なおかつ人の生活に紛れて過ごすのであればどれだけ衣服が重要なのか理解しているので着ているわけなのだが…こうやって衆目の目に嫌でも多少は意識をしてしまい、精神的に疲れるのである。
 なぜそこまで、自身の肉体に注目を集めるかが分からない。
 蜘蛛部分は毛並みの良さでブラッシングされ、人型部分はサイズを測られて…腰や胸もとを注目されても、何の意味があるのだろうか。

 あとは血液検査ということで、血も抜かれそうになったのだが、そこでトラブルが発生した。

…まさかの注射器が肌を通さなかったのである。

 そう、人型部分に見えるところが一番柔らかいだろうと思っていたのだが、見た目こそ人のようであっても魔獣なことは魔獣。
 弾力性や伸縮性は人に似ていても、その耐久性能は人以上であり、用意されていた注射器の針をへし折ってしまったのだ。

 一応、検診の目的で目視分だけでも異常がなければいいのだが…最初のデータが肝心ということで、細かいものが必要になり、そのために必要な血を抜くための機材を用意するまで時間を取られたのであった。


【あー、終わったのは良いですけれども、旦那様成分が不足してますよ~。血は少し休めばすぐに戻るけど、旦那様に甘えたい…】

 精神的に疲れたときは、愛しい人に甘えるのが一番の活力回復に効果的だと学んでいる、
 ルドと同学年や上級生の女子生徒。食堂のおばちゃんや教師陣、村の女性人などからしっかりと話を聞いており、どういうものが夫婦として一番の活力につながるのかということをしっかりと知識として蓄えているのだ。

 知識だけでは意味がなく、実践してしっかり確認したい。
 というか、そんなものは建前に過ぎず、自分がただルドに甘えまくりたい。

 そう思って、街中へ友人たちと出かけているルドの元へ、今からでも遅くはないかと思って動こうとした…その時だった。

ダンダンダダン!!
「「ハクロさん、戻ってきているよね!!」」
【おや?】

 勢いよく扉が叩かれているようで、誰かと思って軽く気配を探りつつ声から判断すると、どうやらそこにいるのはルドの友人であるルンバやクレヤンのものである。
 本日、一緒に遊びに行っているはずなのだが、思ったよりも早い帰りのようで…何やら、様子がおかしいことに気が付く。

 まず、大事な旦那様ルドの気配がない。
  そして、続けてきた言葉によって、何が起きたのか瞬時に理解することになった。

「大変大変大変なんだ!!」
「街中で、ルドが攫われた!!」

【---え】






 部屋の扉を開け、かくかくしかじかと話を聞けば、どうやらルドが攫われたらしい。
 街中の探索で一時迷子になったりしたが、地図があることで安堵し、そのあたりを見て回りまくって楽しんでいた時に、その事件は起きたようだ。

「屋台で次に、あれを食べてみようかなと思って」
「その時に人ごみに紛れて、誰かが後ろに立ったと思ったら…鈍い音がして、ルドの体が倒れこむと同時に、素早く抱え込んで逃げたやつがいたんだ」

 街中で突如起きた、人攫い事件。
 周囲にいた人たちも何事かと驚き、慌て近くにいた衛兵に声をかけて助けを求めたときには、既にその場から去っていた。

「王都内の治安は悪くはないはずなのに…まさか、こんなことになるなんて」
「それで、まずは情報を学園に知らせつつ、俺たちはハクロさんに伝えに来たんだけど…その、大丈夫?」
【…】

 事情を説明したところでハクロを見れば、彼女は茫然としていた。
 ショックが大きかったようで、聞いてもなお信じがたい気持ちだったのだろう。

 でも、無理はない。世の中そう簡単に自分が事件に巻き込まれると思う人はおらず、突然の出来事が信じられない気持ちになるのはおかしくもないだろう。

…だが、問題はその攫われであったことハクロにとって…大事なルドであったことか。


【…すみません、二人とも。その犯行現場、わかりますでしょうか】
「えっと、わかるけど今、衛兵の人たちが現場確認をしていて調査中なんだけど」
「そこに魔獣のハクロさんが向かったら、ちょっとそれはそれで騒ぎになりそうな…」
【大丈夫です。ある程度気配を消せますので…今は、旦那様のために、動きたいのです】

 冷静なよう振る舞い、そう口にするハクロ。
 けれども、話をしていた二人はその言葉に込められた感情に気が付いてしまう。

 彼女は今、相当激怒しているのだと。
 不安な気持ちなども混ざっているようだが…大事な番を攫われたことに対して、相手を殲滅するような勢いのマグマが今、内部で湧き上がっているのだと。

 ここは下手なことはせずに、素直に彼女の言葉に従ったほうが良い。
 友人が攫われて慌てふためいていた彼らであったが、相当ヤバい怒りの持ち主によって冷静さを取り戻させられつつ、すぐに動くのであった…
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