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出会いましょう、新しい世界と共に

第十話 学園生活は慣れてこそ

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【…んにゅ、ふわぁぁ。そろそろ朝ですか】
 
 朝日が部屋の中を照らし始め、その明かりと共にハクロは起床する。
 自身の寝床であったハンモックから降りて片づけて、寝間着をほどいて今日の衣服へと繕いなおす。

【起きてください、旦那様。朝ですよー】
「ん、あと五分…」

 ゆさゆさとベッドで寝ているルドをゆするが、流石にまだちょっと朝早くもあって眠いところがある。
 朝のちょっと眠たげな、ベッドの中での睡眠欲というのはどこの世界にあっても抗いがたいものがあるだろう。

【むぅ、起きないと駄目ですよ。昨日、教師の方々の授業で『早起きは金貨一枚の徳がある』って話が合ったじゃないですか】
「ハクロ、授業に出てないでしょ…」
【人のいる場所に住まう以上、魔獣の身であってもきちんと知識は必要ですから、時々廊下の方から見学させてもらっているんですよ】

 一緒に学園に来るまではよかったが、それでも魔獣の身であるハクロ。
 ここに集められた子供たちは国の教育制度によって学ぶ義務が生じるわけなのだが、彼女にはそれが生じることはなく、授業を受ける必要はない。

 けれども、学びたいものであれば学びにくればいいという教育方針もあるため、例え生徒にあらずとも意欲があれば授業を見学していても良いことになっているようだ。
 魔獣であっても、熱心に授業を見聞きして学習してくれるのであれば、かまわずに生徒と同等の扱いになるようである。

…そのせいもあってか、ここで生活して一週間になるが、既にハクロは学園内で馴染みまくっていた。
 むしろ、魔獣という立場を活かしてのことを色々とやっているようで、おとなしく過ごしているわけではないらしい。

【本日、旦那様が学ばれている間にも、魔法や剣術、薬学に経営学、栄養学、魔獣学などにも出席予定ですからね。旦那様の素敵なお嫁さんとして胸を張れるように、知識を蓄えているんですよ】
「色々出席しすぎているよね!?」

 思わずルドはツッコミを入れながら、眠気が吹っ飛んで勢い良く起きるのであった。




 とにもかくにも起床し、朝食は寮に設けられている学食の場でいただき、本日の授業へ向かうことになる。
 本来であれば、ここでハクロは寮の自室へ戻って過ごしていても良いのだが、彼女は彼女なりに様々な授業へ参加予定らしい。

「…本当に大丈夫かな?」

 色々な不安がありつつも、今のところは問題が起きていないようなので、今日もこのまま放課後に合流するまでに何事もないことを祈るのであった…






―――

…剣術の授業。

 ここは騎士や衛兵などの職業を将来目指そうとして取り組む生徒たちが受講する授業だったが、本日はその生徒たちとは異なるものが参加していた。

【さて、今日は気分的には4刀流で…かかってきてください!!】
「「「「いや、そんなことを言われても、そんな無茶苦茶な奴を相手にしきれるかぁぁぁぁ!!」」」

 この一週間の間に参加されまくったことで、ついに息のそろったツッコミまでができるようになった生徒たち。
 通常であればお互いのライバル心や嫉妬心などによって足並みがそろいにくいはずの授業でもあったはずだったが、まさかの共通の敵ができてしまったことによって一体感が生まれていたのである。

 その敵とは…

【だって、魔獣の中には私以上に剣術が優れている者や、より数が多いのもいますよ?このぐらいの模擬戦で無理なら、それ以上の相手もしづらいですし、私の鍛錬にもならないですよ】
「そんなことを言われても、そこまでやばい奴を相手にするならまず逃げるわ!!」
「というか貴女は蜘蛛の魔獣でしょ!!それが糸で複製の腕を作ってより多くの剣を握って戦うとかどういうやつなの!?」
「というか昨日、せっかくこの国の騎士団長の一人が特別講師としてきたのに、試合を挑んでわずか30秒でぶっ飛ばした奴の実力に勝てるわけがないんだがぁぁぁぁぁぁl!!」
【えー】
「「「「しょぼんとした顔で不満そうに言われても、やったのはそっちのせいだろぉぉぉぉぉぉ!!」」」」

 そう、その相手はハクロ。
 本来は蜘蛛の魔獣なので糸を使った戦闘がメインのはずだが、実は剣術にもそこそこ腕に覚えがあったようで、授業に参加してきたのである。
 最初こそは、相手が魔獣と言えども剣術をここで習っている生徒たちならばまだ素人には負けない自信があり、うまくいけば揺れ動くものを見ながらという下心を持った者たちもいたはずだったが…ひとたび剣を交えただけで、そんなうまい話はないことを理解させられたのである。

「くそぅ、魔獣であっても流石に素人相手なら、負けないと思ったのに…」
「というか、どこの流派だよそれ!!明らかに人を超えている感じのが多いんだけど!!」
【どこの、と言われましても…旦那様に巡り合う前の、旅路で出会った人たちから、目で盗んだものばかりですから、何とも言えないですね。私、蜘蛛の魔獣ですから脅威に思って討伐を依頼する人もいたようで、腕に覚えのある人に追われたことがあるんですよね…返り討ちにして、その方々は今は隠居生活を楽しんでいるらしいですけれどね】
「さらっと剣士の生活を終わらせまくっているのだが!?」

 ずぶの素人かと思いきや、まさかのガチの剣士の素質があったようで、勝負を挑んできた剣士たちの技を覚えて行ったらしい。
 そのおかげかいくつもの流派を使いこなすことが出来ているようで、魔獣の剣士も混ざっていたのか明らかに人外でないと使えないものも扱っているようだ。

【でもまぁ、魔法よりも剣のほうが好きですね。糸で作りやすいですし、ちょっとカッコよくないですかね?ほら、旦那様を守る孤高の女騎士って感じで、中々良いでしょ!】
「女騎士なのは見た目的にはそうなるが…」
「まず、人じゃなくて魔獣だから魔獣騎士というべきでは」
「ダメだ、まともに相手をしきれねぇ…」

 とはいっても、素振りやダミーを使っての授業よりも、こうやって明らかにやばい相手との実践のほうが身が引き締まりやすいというのもある。
 経験を積むならば実戦を行ったほうが良く、こうやって圧倒的な相手だとしても自身の動きを見直しやすく、いつかは勝てるかもしれないという淡い希望を胸に抱けるからだ。

【さて、とりあえず今日はこの気分で…あ、いっそもっと増やして、一対一に近い形式でやったほうが良いですかね?10本までなら操れますし、そのほうが良いかもしれないです】
「余計にやばい感じがするんだよなぁ」
「というか、一本一本に腕前が分散されるならまだしも、どれもこれも同じだけのものになっているのが厄介すぎるのだが…」
「彼女、下手したらこの国の騎士団全てを一人で相手できそうじゃないかな…?」

 ぶつぶつとつぶやきながらも、相手がやる気ならばやるしかないだろう。
 勝てない勝負だと思っていても、着実に自分たちの経験になって腕前は向上しているはずなので、不利益を被っているというわけでもない。

 そのため、受けている生徒たちは本日も全力で、相手をするのであった…


「でも、出来れば褒美が欲しいなぁ!!」
【んー、それなら今日は、私に一太刀でも入れられたら…何やらやばそうな骸骨の戦士の人が持っていたこの大剣をあげましょう】
「空間収納魔法とやらで、でっかい剣が出てきたぞ…」
「呪いの武器ってわけじゃないよな?」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉい!?そ、それはまさか!!」
「知っているのですか、剣術のスパパン先生!!」
「魔獣の中でも種族名『ナイトメアスケルトン』が持っているという魔剣『ボーンバッドレス』!!名高い名工でも再現が難しいと言われる業物で、売れば相当ヤバい値段が付く武器です!!」
【あ、これまだ何本も持ってますよ。切れば黒い斬撃が飛び出て遠距離攻撃ができますけど、他にもいくつかの手段があったので、将来の嫁入り前の持参金代わりにできないかなと思って、いくつか取ってあるんですよね】
「何本もぉぉぉ!?生徒たち、全力であれを確保するように!!わたしも参戦して、絶対に獲得します!!」
「先生も参加するのかよ!?」
「目の色凄い変わりまくっているんだけどぉ!?」
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