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出会いましょう、新しい世界と共に

第八話 聖女様は語りまして

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…王都へ入るための必要な手続きをしていく中、ルドとハクロの二人は王都を囲む城壁外部に設けられた別室にて待機をしていた。
 他の人たちとは異なり、魔獣であるハクロが入るための手続きを行うわけなのだが…一応、そんな難しいものではないと聞いている。

 ある程度の書類検査も既に終わっており、ここでやるのは…

「聖女様に直接見てもらって、入っても問題ないかの試験か」
【んー。受ける魔獣側の私が言うのもなんですが、魔獣を目の前にして聖女本人が直接出てきて大丈夫なものなのでしょうか?】

 この王都の結界をこなしている要の聖女があっさりと出てきて大丈夫なのか。
 気になるところだが、この結界を張る人物ということもあってか、一人でも魔獣相手をしても大丈夫らしく、そのうえに護衛もついてきているそうだ。
 こう、結界を自身に張って無敵みたいになるのか、あるいは普通に魔獣相手でも対峙してもひるむことない生視力や腕力を持ち合わせているのか、色々と考えられそうな聖女。
 そんな人と、これから少しの間だけ話し合って、ハクロの王都入りの許可を貰うことになるようだが、ちょっと緊張してきた。

 緊張しつつも固くなってはいけないと思い、どうにかこうにかほぐしつつ、待っているとようやくその時が来た。

コンコン
「入るわね~」
「あ、はーい」

 扉がノックされ、返事をすれば相手が入ってきた。

 最初に何やらものすごくガタイの良さそうな鎧を着た騎士と、続けて入ってきたのは背の低そうな白い衣をまとったお婆さん。

「あらあら、蜘蛛の魔獣というからもうちょっとこう、おどろおどろしいような容姿を想像していたけれども、可愛らしい魔獣ねぇ」
「えっと、もしかして貴女が」
「ええ、わたしがこの王都の結界を請け負っている聖女、クラウディアよ。どうぞ、よろしくね」
 
 そう言いながら、朗らかにお婆さん…聖女クラウディア様は笑うのであった。
 聖女ってこう若い女性の人みたいなのも想像していたけど、結構優しそうなお婆さんか…うん、そう考えるとさっきの予想の中で結界を自分に張って無敵になるタイプの人かな?流石にゴリ押しして魔獣を殴り倒すようなタイプには見えないもんね。







(なるほどねぇ…魔獣というけど、感じ取れる感じでは悪意の類はほぼ無いわね。表面上だけみたら、普通の恋する可愛いお嬢さんって感じかしら。いえ、恋するどころか堂々と突撃しているって話も聞くけれども)

…話すこと数分ほど、かくかくしかじかとお互いに軽い会話を交えながら、聖女クラウディアはハクロを観察しながら心の中で評価を付けていく。
 魔獣を王都内に入れるにあたって、危険性がないかどうか話すだけでもその内側を確認でき、もしも悪意ある魔獣であれば隠していてもすぐに見抜くことが出来る聖女の力。
 悪意に対して強く出られるだけの力を持っているため、こうやって相対して確認しているのだが、今のところそのようなものをハクロという名の蜘蛛の魔獣からは感じることが出来ないだろう。

「なるほどなるほど、番としての感覚があって、彼にそこまでべたべたに慣れているのね。運命の相手って羨ましいわねぇ」
【えへへ、そうなんですよ。旦那様は私にとって大事な番ですからね】

 テレテレと分かりやすく照れながら、その番だという少年ルドを抱き寄せるハクロという名の蜘蛛の魔獣。
 一見、下の方の蜘蛛だけを見れば凶悪そうでもあるが、上のほうの人の姿のほほえましい様子は警戒心を緩めさせられるだろう。

 話を聞けばここまでの道中で乗ってきた他の子供たちとも親しくしており、村での生活ぶりやその他にも上がってきている情報からも人との生活に支障はないらしい。
 むしろ馴染み過ぎていたことで魔獣である認識すら薄れさせていたようで、悪意も何もなく、このまま王都内で生徒たちに混ざって人の生活にいたとしても問題はないだろう。



…ただ、問題があるとすれば、魔獣としての力が強すぎることか。

(ねぇ、ゴリノラーサ。あなたから見て、彼女はどう思うかしら)
(ふむ…見た目こそ、そのあたりの女性たちのようなさほど力のなさそうな無害の魔獣に見えますが…ええ、ですがその中身としては認識が異なりますね。奥底の部分はそこいらの魔獣よりもはるかに恐ろしいほどの力を秘めているようです)

 魔法の一種である、念話を使用し、声に出さずに護衛騎士と密かに会話で確認を行う。
 護衛騎士ゴリノラーサは、聖女の護衛の中でもかなりの腕前を持っている人物であり、国王の持つ騎士団の中でも騎士団長と実力が拮抗していると言われるほどの人物。
 本人は王よりも聖女のほうに忠誠を誓ってしまうが上に団長の座を離れ、こうして護衛騎士の役職に収まっているわけなのだが…それでも、ずっと鍛え続けており、実力は年々増しているはずなのである。

 そんな護衛騎士にも恐ろしいほどの力を有していると評価されている時点で、魔獣ハクロの強さは底が知れないのだろう。

(事前情報の中で、何やら過去に争った魔獣との戦利品の素材を伯爵へ献上しているというのがありましたが…出された魔獣素材の一覧を見ると、相当な力を持った魔獣相手に勝利してますな。タイラントワーム、マグマロック、サイクロンホーク…本来、元となった獣が蜘蛛の魔獣としては、相性的には不利なはずの火の魔獣や鳥の魔獣などを倒しているようです)
(蜘蛛の魔獣というよりも、別の魔獣としての種族カテゴリが必要そうね。学会のほうに、申請をしておいてちょうだい)
(了解)

 大抵の魔獣は、その元となっている名称を付けた〇〇の魔獣の形で総称されるが、その中でも並外れた力を持つ者は明確な区別をつけるために別物としての魔獣の種族名を付けられることがある。
 豚の魔獣から外れてオーク、イカの魔獣から外れてクラーケン、植物の魔獣から外れてトレントなど、元となった名称から変わることがある。

 そして今、目の前にいるハクロという名の蜘蛛の魔獣も、その蜘蛛から外れた存在として認識ができるだけの力を有しているようだ。

「ねぇ、ハクロさん。少し質問良いかしら?」
【何でしょうか?】
「事前にある程度の情報が回ってきているから、スムーズに手続きしやすいのだけれども…伯爵様へ献上したという素材に、貴女じゃ厳しいんじゃないかってのもいるのよね。例えば、マグマロック…全身が溶岩で出来ている魔獣とかは、火を吐くし、蜘蛛の魔獣なあなただと攻撃手段が限られそうなんだけれど、どうやって倒したの?」
【ああ、あの真っ赤に燃える魔獣のことですかね?確かに私、火の相手とは相性が最悪で苦手でしたが…それだけわかりやすい特徴だったので、水をぶっかけて弱らせて戦ったんですよね】
「水をぶっかけて?」
【はい。ウニウニの魔女さんから、収納以外にも他の魔法も実は習っていて】
「「ウニウニの魔女!?」」
「うわっ!?」
【なんですか、大声を出して?】

 思わず出てきたその名前に対して、聖女と護衛騎士は叫んでしまう。

「ちょっとまって、空間収納の魔法とかは別に良いけど、その師事をしてくれたのって、ウニウニの魔女って人なの!?」
【そうですよ?最初こそ、一度全力の殴り合いになりましたけど、打ち解けまして…魔法をいくつか教えてもらったんですよ。蜘蛛としてのプライドがあるので、他の魔法よりも糸を使いたい方ですが…】

 説明してもらったが、目の前の蜘蛛の魔獣はまさかのウニウニの魔女から師事を受けていたようで、魔法を扱えるらしい。

「あのー、質問良いでしょうか?ウニウニの魔女ってなんでしょうか。何か、凄く驚かれているようですが…」
「ああ、そういえばもしかすると今の世代の子は知らないのかもしれないわね…若い子にはなじみがないのかもしれないけど、その人はとんでもなくやばい魔女なのよ」

 ウニウニの魔女…それは、過去に出現した災厄の魔女と呼ばれるような人物。
 別に災厄の名がついているからと言って、大災害を引き起こすとか人に害を与えまくるとか、そういうことをするような人ではなく、本人としては自称善人と名乗っていたりする。

 だが、自称善人という割には、とんでもないやらかしをしまくる人でもあったのだ。

「…そうね、魔女というのも色々あってね」




 本来、魔法というのは才能と魔力と呼ばれる力があれば扱えるもので、別に魔女の名称が魔法を使えるからってつくわけではない。
 それなのに、ウニウニの魔女が魔女の名称で呼ばれるのは、ウニウニの悪魔と呼ばれるものと契約して魔法を扱えるようになったことから来ている。

「別に、魔法が使えないから悪魔と呼ばれる者たちと契約して、魔法を扱えるようになる魔女になるって言うのは問題でもないのよ。王国の魔法師団のほうでも、悪魔と契約している人はいるからね」

 でも、そのウニウニの魔女は度が過ぎていた。

「喧嘩するたびに、どこからともなく大量のウニを召喚してぶつけまくって…棘塗れにされたりするのはまだ、良かったの。でも、その後始末が面倒で…」

 ウニウニの悪魔と呼ばれる悪魔と契約しているが故か、他の魔法も扱えるはずなのにその魔女はウニばかりを大量に呼び出して、敵対するものへぶつけていたりしていた。
 だが、呼び出したあとそのウニは元の場所には戻せなかったうえに、なぜか生命力も強化されていたのか生き延びており、いたるところウニだらけになったようだ。

 そのまま放置していても、特に問題ないかと思われていたのだが…それが甘かった。


「ウニってね、海藻を普通は食べるのよ。他の植物も色々と食べたりするようで…魔女によって呼び出されたウニはさらに食欲旺盛だったのよね」
「もしかして、放置した結果」
「ええ、あちこちの食料を食われまくったのよね」

 貯蓄していた食料、収められるはずだった税の食料などなどを、いつの間にか放置されて動けるようになっていたウニたちに進入されてあちこち喰いつくされて、凄まじい被害になったらしい。
 どうにかこうにか全部のウニを討伐したことで、被害は収まったが…それでも、ウニウニの魔女のやらかしたこととなり、当然責任を問われることになった。

「才能だけは多彩だったのに、ウニばかりに目を向けてしまったが故の悲劇で…ある程度、彼女を擁護する声もあったけれども、損害が大きすぎて国外追放になったのよね」


 どこかの国のお抱え魔女にでもなったらそれはそれで面倒だったが、幸いなことにウニウニの魔女は自分以外には興味を持たないようで、国外追放されてこれ幸いとばかりにどこかへ行方をくらませたらしい。

 一応、自称善人を名乗るだけあってかやらかしたことへの申し訳なさぐらいはあるようで、時たま王国で起きる面倒ごとを解決してもらったり、旬のウニを送ってきたりしているらしい(食用・冷凍保存状態で問題無し)。


「しかし、ウニウニの魔女の才能は本当にすごくて…ウニさえいなければ、最強の魔女だったのかもしれないよね。そんな人に、師事をしてもらって魔法を扱えるようになっているってことは、それはそれでとんでもないものになっているのよ。ねぇ、ハクロさんは悪魔とは契約したのかしら?」
【あー…いえ、してないですね。進められましたが、悪魔に頼らずとも私は魔法が使えましたし、どういうわけか相性が悪かったようで、契約とかはなかったですよ】
「それならよかったわ。もしも、ウニフェスティバルマジックとかいう魔法でも伝授されていたら、王都入りが難しくなるところだったわね」
【それほどのことですか】
「それほどのことなのよ」


 シャレにならなかったかつてのウニのトラウマを呼び起こされつつも、話は終了した。
 問題はない様なので、入れるように結界のほうに調整を施しておく。

「それじゃ、あとは馬車のほうに戻って、入るための手続きを行ってね」
「わかりました」
【入らせていただき、ありがとうございました】

 別れを告げ、聖女と護衛騎士はその場を後にした。


「…ふぅ、学会のほうへ種族名の申請などもあるけど…今日はウニウニの魔女のほうの話題で疲れたわね」
「ええ、思い出しますな、あのウニの災厄を…うう、たまに悪夢としてよみがえるのがつらいです」
「仕方が無いわよ。…それにしても、悪魔との相性が最悪で、あの性格で…ふふ、これはこれで面白そうね」

 ある程度話を交えたことで、ハクロがどのような魔獣なのか聖女は理解できた。
 下手に敵対しなければ、しっかりとしたかわいらしいお嬢さんであるということには間違いないようで、馬鹿をする人が出ないように色々と手を回せばいいだけのようだ。
 
 それに、少々確認していたが…魔獣というには、もったいないほどの才能もあるようだ。

「人じゃないのが、惜しいわね。こっそり探ってみたけれども、彼女は聖なる魔法との相性がいいようだし、聖女になれたかもしれないわ」
「魔獣の聖女ですか…字面にツッコミどころがありそうですな」

 才能を探るだけでも、物凄く溢れているようで、もしも普通の少女であればそれこそ大聖女などと呼ばれるほどの人物になれたのかもしれない。
 けれども、天は二物を与えずとでもいうのか、惜しいことに魔獣である。

 自身もだいぶ歳をとったし、そろそろ後継者をしっかりと決めたいところだったので、聖女の器がった彼女が魔獣なのは残念なことだろう。

「いえ、前例がないだけの話だし、聖女を目指してもらうのもありかしら…?」
「それをやったら、あちこちから批判が来そうですな」

 とにもかくにも、これでハクロの王都入りが決まったのであった…



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