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聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったので、異世界でふわふわパンを焼こうと思います。

舞台裏3

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「……副団長! 大丈夫ですか?」
「……え、何」
「休暇申請持ってきたのですが」
 ――絶対におかしい。
「ああ……了解」
 ――あの副団長が終始笑顔だなんて。

 王宮騎士団にいる普通の団員の俺は事務作業をしながら副団長・ギルバード様を見ている。
「おかしいよなー」
「はい、そうです――って! だんちょ!?」
 急に声をかけてきたのは、俺の所属する王宮騎士団団長でありこの国の王子のノア様。団長なのにフレンドリーで肩を組んでくる人。
「ギル、数日前からあんな感じなんだよねーうまくいったのかな」
「うまくって何がですか?」
「もうすぐわかるよ」
 ノア様がニヤニヤしているとドアのノック音が聞こえたので俺が出ると、そこには可愛らしい女の子と侍女がいた。
「こんにちわ、あのギルバード様いらっしゃいますか?」
「あっ、はい! えっと、どなた様ですか?」
 誰かの妹か、誰かの婚約者か……誰だろう。
「メルです。ギルバード様に会いにきて……」
「――あっ、メル嬢。こんにちわ、ギルならいるよー」
「ノア様、ご機嫌よう。……お忙しかったですよね、あのこれ渡してください。こっちは、皆さんで食べてください」
 メル嬢、と呼ばれていると言うことはどこかの貴族令嬢か……その女性は、バスケットを二つ渡すと帰って行ってしまった。
 副団長を呼ばなくて良かったのかな……と思って団長に問うが。
「まだ内緒、ね? ギル~愛しのメル嬢が渡して欲しいって、俺らの分もくれたよ」
「……メル? なんで案内しなかったんだ、帰ったのか!?」
「メルちゃんがギルバードを見て忙しそうだったから、って」
「ノア、俺今から出るから休憩入る」
 副団長は淡々と言って部屋から急いだ様子で出て行った。
「あの、愛しのって……」
「ああ、ギルの恋人」
 副団長、恋人いたんだ……でもあの、堅物な副団長があんな可愛らしいご令嬢と付き合っているなんて。
「……信じられない」
「まあ、だよね。そう思うのは分かる。俺が彼女に会ったのはギルと付き合う前だったけどベタ惚れ」
 ベタ惚れ……あの、副団長が。
「副団長ってデレるんですか」
「あー……まあ、デレデレ」
「で、デレデレ……想像できないんですけど」
「じゃあ、偵察に……行くか。堅物じゃないギルが見れるよ」
 偵察って隠れて、ってことだよな。バレたら、すごい叱られそうな気がするけど……
「さ、行こう」
「えっ……はいっ」
 ノア様に手を引かれて俺たち騎士が入ることはあまりないバラ園へ入るとそこには二人の影。
「こっち、ここから見えるよ」
 ノア様にそう言われ、指さした方向を見るとさっきのご令嬢に副団長がいわゆる「あーん」をしている。
「本当に副団長ですか……」
「うん、だってメルちゃんが可愛らしい声でギルの名前呼んでるから」
 よく聞いていると「ギ、ギルバード様っ……ダメですっ」「誰も見ていない、だから大丈夫だ」「で、でもっ……」と、真っ赤に顔を染めているご令嬢に副団長は口付けをした。 そして「……メルは可愛いな」と囁いていた――。

「いいもの見れたなー」
「はい、でも罪悪感が……」
 俺たちは詰所に戻ると、ノア様とお茶を飲みながら話をしていると副団長が戻ってきた。
「おい、決算書類出来てるか?」
「えっ、はい! 今すぐっ」
 もう堅物副団長に戻っていて、さっきの甘い雰囲気を出していた人とは別人だった。
「……なんだ、ニヤニヤして気持ち悪い」
「いえっ! 少し考えことを……恋人っていいですね」
「…………」
 声出てた!? やばい、さっき見に行ったのバレたかも……
「恋人は、いい。可愛いし、天使だ。ついつい甘やかしたくなる」
「……え」
 これは、惚気か……?
「恋人がいないのか」
「えっ、まぁ……」
「君はまだ若いんだ、きっといい人が見つかるさ」
「あ、ありがとうございます?」
 副団長に励まされた!? 仕事でもそんなことされたことないのに……!
「もう時間だ。早く仕事に戻りなさい」
 最終的にはそう言われてしまって俺は自席に戻った。チラッと彼を見れば、鼻歌を歌いそうな勢いで笑っていてなんだかほんわかした気持ちになった。

 ――さぁ、仕事頑張ろうかな。



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