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聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったので、異世界でふわふわパンを焼こうと思います。
舞台裏1
しおりを挟む「――まだ、部屋に篭っておられるのか?」
「はい、あれから一度も……食事もいらないと言われてしまいました」
――ここは王宮。玉座の間。そこにいるのは男性が二人。公爵家当主であるオスマン・セダールントと国王陛下であるレクサス・エリザベス・エミベザだ。
「本当にジークは……聖女様を追い出すなど」
「私は、私欲でメル様に頼ってしまいました。申し訳ありません」
「だが、怪我を負ったものは元気なのだろう?」
「はい、傷などなかったかのように……それに、一年前に倅が怪我によって受けた症状も完治いたしました」
オスマンの息子・ギルバートは、昨年の討伐で大きな怪我を負い後遺症が残った。半年間のリハビリを経て三ヶ月前に復帰したばかりだった。
「ほぉぅ……」
こればかりはオスマンも驚いた。医者ですら、もう治らないだろうと言われていて前よりは劣るが討伐にいけるようになった時は奇跡だと言っていたほどだった。
「やはり、聖女だからか……?」
「それはまだ分かりません、聖女だと言い切れる証拠もございません」
「オスマン、聖女様を頼む。何か必要ならば言ってくれ」
陛下はそう彼に言うと何かを考え込むような表情になった。
「御意」
オスマンはそう答えると玉座の間を去った。
***
「旦那様、お帰りなさいませ」
オスマンが公爵邸に帰ると、もう二十時だった。
「ただいま……」
出迎えてくれたのは妻のエミリーと休暇中のギルバートだ。
「メルちゃんの様子は変わらないかい?」
「ライラから聞いた話ですが、まだ部屋にも入らせてもらえないとのことです」
「えぇ、私も外から声をかけてはみたんですが返答すら返ってきませんでした」
ライラには返事するが「一人になりたい」と言うだけ。数日前まで笑顔を見せてくれたのが夢だったように思える。
「あの、旦那様。これメルちゃ、メル様に作ったんです」
「それは……?」
料理人のアルベルトは「前に賄いで作っていただいたんです」と笑みを溢した。
「……君はメルちゃんと仲がいいのかい?」
「仲がいいというかお師匠さまみたいな感じです」
メルのことを話すアルベルトは目をキラキラさせながら話していた。
「メルちゃんの部屋に案内しよう。それは……君が届けてくれないだろうか」
「えっ? 俺ですか? ですが、未婚のご令嬢の部屋に入るのは……」
アルベルトは、一度躊躇ったが旦那様の表情で「わかりました」と頷いてしまった。
メルのメイドであるライラに案内されて彼女の部屋の前に着く。
「こちらがお嬢様のお部屋です」
「あ、ありがとうございます」
アルベルトは深呼吸をするとドアをトントントンとノックした。
「……アルベルトです」
そう名前を告げると、足音が近づいて「アルベルト、さん……?」と聞いたことのないか細い声がした。
「うん、そう! 前作ってくれたフレンチ、とーすとっていうの作ったんだ」
アルベルトがドアに向かって熱を込めた。するとドアがゆっくり開いた。みんなが声をかけてもダメだったのに何故だろう……そう思ったけど。
「……フレンチトースト、食べたい」
顔を出して小さな声でメルは言った――。
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