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第二章

◇お出掛け

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 帝都のお屋敷に着いた翌日。朝食を皆様と食べた。今日は、士貴様はお城の方でお仕事があるとかで朝食後すぐにお城勤めのお義父様と出かけて行った。
「さぁ、紗梛さん。私たちはお買い物に出かけましょう」
「はい! 郁世様、よろしくお願いします」
 まだまだ口に出して『お義父様』『お義母様』と言うのは恥ずかしくて名前で呼ばせてもらっている。恥ずかしいというか緊張が大きいのだけど……
 私とお義母様は準備していただいた馬車に乗り込み帝都の中心部にある皇族の御用達の呉服店にやって来た。
「いらっしゃいませ、長曽我部様。お待ちしておりました」
「急な予約、ごめんなさいね。今日はうちの義娘むすめの着物を仕立てたいと思っていてね」
 ここはお義母様の行きつけのお店らしくて、よくここで仕立ててもらっているらしい。
「初めまして、紗梛と申します」
「こちらこそ初めまして。私は呉服屋女将の市河いちかわと申します。よろしくお願いしますね……さ! 早速ですけど、中に入ってくださいな」
 お店に入ると美しい反物の数々が吊るされていた。女将さんに連れられていくと、吊るされていないものも沢山出て来てそれを一枚ずつ肩に当てられた。
「私は、これが可愛いと思うわ。どうかしら?」
 それは一斤染と呼ばれている淡い紅色の地に桜花と源氏香の柄が描かれていて派手ではないが落ち着いていて穏やかな反物だった。
「源氏香ですね、それに色も可愛らしいです」
「あら、紗梛様は源氏香をご存知なんですか?」
「あ、はい。私、香道を嗜んでおりまして……」
 源氏香は、幼い頃母と一緒に遊んだ組香の遊びだ。まだ作法なども分からなかった時に何度もしていたから懐かしい。
「そうなんですね、源氏香の着物は時の移ろいを表していて香りを装うと言われているんですよ」
 そうなんだ……でも確かに源氏香一つ一つ見ると香りが聞けるような気がする。
 その後はその他の反物も当てたりして数着と帯や簪などの髪飾りを見て選んで呉服屋を後にした。


  ***


 馬車で移動して、次は如何にも高級そうな高貴な方が来そうな和菓子屋さんへとやって来た。ここは、休み処もあるため休憩のために立ち寄ることにした。
「ここのあんみつは絶品なのよ」
「そうなんですね、楽しみです」
 郁世様とお話をしていると、ぜんざいが二つ運ばれてきた。机に置かれたあんみつは、硝子のお椀にはゆらゆらと白玉が浮かんでいて心太ところてんとふっくらと粒がある餡子が盛られていた。横には小さな小鉢に黒蜜があって甘い香りがする。
「じゃあ、いただきましょうか」
「はい。いただきます」
 手を合わせると黒蜜を全体にかけてから箸を持って心太を口に運ぶ。四角く切られているコロコロした心太は、舌先で押せばほろりとくずれるほど柔らかい。コリコリとした食感と黒蜜の濃厚な甘さがよく合って美味しい。
「どう? 美味しいかしら?」
「とても美味しいです。甘くて、こんな美味しい甘味は初めてです」
「それは良かったわ、喜んでもらえて。後から、おはぎや大福も買って帰りましょう」
 そう郁世様は言うと女中さんらしき人を呼んで、持ち帰る和菓子を注文していて屋敷に届けるようにと言っていた。
 郁世様の話し方や思いやり溢れ、とても温厚なところは士貴様と親子なのだと思える。士貴様の優しいところはお母さま譲りなんだろう……
「そうだ、紗梛さん。明日の夜会パーティーは何を着ていくの?」
「はい。士貴様が洋装を仕立ててくださって……だからそれを着ようと思っています」
「そうなのね、ふふ楽しみだわ」
 それから食べ終えるとお店を後にした。邸宅に帰ったのは太陽が傾き始めた頃だった。



 邸宅に到着すると、中から出てきて士貴様が出迎えてくれた。
「おかえり、紗梛さん。俺より遅いから心配したよ」
「ただいま帰りました、士貴様。出迎えありがとうございます」
 士貴様は私に微笑み「今日の格好も可愛いね」と頭を撫でた。
「……あら、私には何もないのかしら?」
「お帰りなさい、母さん」
「はい、ただいま。もう、可愛いお嫁さんに夢中なのね!」
 郁世様はそう言うと、先に屋敷に入って行った。すると士貴様は入るように言い肩を抱かれた私は鼓動が早くなるのを感じながら屋敷の中に入った。
 私は与えられていた部屋に戻り、着替えをするとすぐに夕餉の時間が来てお呼びがかかった。春を伴い食堂に行く道で士貴様が迎えに来てくださるところだったらしく、一緒に食堂へ向かった。




  ***


 夕餉に並んだのは白米に味噌の煮魚、大根や胡瓜の漬物、吸い物だ。それをお義母様やお義父様、士貴様と食事をした。
 それから食べ終わり、お茶を飲みながら談笑をしていると「本当に紗梛さんって似てるわねぇ」とお義母様が呟いた。
「え……似てる、とは?」
 似てるってどういう……?
華乃宮毘売はなのみやひめ様、にね。士貴から少しは聞いているでしょう?」
「はい。生まれ変わりだと聞いております……そんなに似ているんですか?」
「えぇ。とても似ているわ、士貴も結葉龍神むすびのはりゅうじん様に似ているし……本当に」
 生まれ変わりということは、士貴様から出会ってすぐに聞いたことだ。だけど、情報としてはそれだけで他に詳しいことは知らない。その華乃宮毘売と似ているのかも分からない。
「……郁世、その話はちゃんとしようと思っていたんだ。紗梛さん、こちらから話を出して申し訳ないが、また明日しっかり話をしたい。いいかな?」
 そうお義父様に言われて聞きたいとは言えず、この日はお開きになった。
 
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