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第十章
信頼から生まれた友情。
しおりを挟む【陽愛 side】
あれから部屋に戻ったのにお互い話さない。個室だからなんの声も音すらも聞こえてこない……気まづい。
ここは、私がアクションするべき……?
だけどどちらかが何かを言わなきゃ始まらない気がするよ。
「よ、陽平くんっ……」
よし、今だ!彼が顔を上げた瞬間……私からキスをする。
……は、反応なし⁈それはそれでショックなんだけどと思ったら、今度は陽平くんから抱きしめられて予想外すぎてあたふたしてしまう。
「……俺、怖かった。また、大切な人に守られて。」
「え、また…って……」
「俺、3回目なんだ……守られるのは。」
私の他にもあるの……?
彼を守ろうとしてくれた人が……。
「……陽愛が話してくれたから、俺も話すよ。1回目は、父親に助けてもらって死んだ。それがきっかけで、母親はそれで狂っちゃったんだよね。虐待受けるようになって…小さかった俺は施設に預けられることになった。
2回目は、施設で出会った尊敬できる人。ずっと妹を探してる人で、俺を日向に入れてくれた人。
今は俺が総長してるけど、本当の総長はその人なんだ。」
だから総長って言葉にあんなにも苦しそうな悲しみ溢れる顔をしてたのか。
……で、私が3回目…………。
「前の総長さんは、今は……?」
「……この病院で、まだ眠ってる。いつ起きるかわからないんだ。このまま目を覚まさないこともあるらしい。」
そう、なんだ……なんか言葉が出ない。
私なんか比べ物にならないくらいに辛くて悲しい過去だった。
「……なんかごめんね、私何も知らなくて……辛い話、話させちゃって……。」
だけど、陽平くんは私をぎゅっと抱きしめた。
「……俺は、陽愛とお互いの過去を共有したいって思ってるよ。お互い辛かった過去があるからこそ、共感出来ると思うし……
それに、こんな広い世界の中沢山の人がいる中で俺らは出会えて、恋人になった。出会うことも奇跡だと思うのに、すごい確率だと思うんだよ。
何が言いたいのかって言うと、もう少しお互いのこと知りたいなぁと思って」
そうだね……きっと、私たちがこのタイミングで会ったのは理由があったのかもしれないもん。
まだまだお互いを知らない。
知らないことがありすぎる……だからこそ沢山知りたい。
「今日は…いっぱい話そ?朝が来るまで」
「うん!話そ……だけどその前に、キスしていいかな?」
「……え⁈い、今……??」
さっきの真剣な顔は無くなって、陽平くんの顔が近くにある……チュッとリップ音が聞こえる。
「な、な、な……!」
「……かわい。今日はキスだけで我慢する……」
そう言って、彼は唇を重ねた。今度は私の背中に左手を回して右手は私が逃げられないように唇を重ねてきた。
息が出来なくて苦しい…頭もふわふわしてきた。
* * *
……ん、眩しい…………
「……ん、よーへいくん?」
知らない間に寝ちゃったのかな……。
まだ頭が覚醒してない。多分男の人のシルエット。
「ごめんだけど、違う。俺、庵。」
……ん?
……え……。庵くんっ……⁈
一気に目が覚めて目をこする。
彼を見ると確かに庵くんで……は、恥ずかしい。
「あ、あの……ごめんなさい。」
「別に」
あぁ……会話終わっちゃった。気まづいなぁ…。
でも私って庵くんに嫌われてるんだよね。庵くんのほうが気まづいか……。
「 ……別に、今は嫌いじゃない。」
「今は……」
「…俺、陽愛はいい奴だと思ったんだよ。だって、体張って守れてさ自分が死ぬかもしれないのに……そういうのって、本当に大切だと思ってなきゃできないから。」
でも、それは恋人だからだよ。仲間とかじゃないもん。
私が黙っていたら庵くんは話し出した。
「“仲間じゃないからできる”とか思ってる?」
「え……」
「たとえ恋人同士だったとしても自分が死んだとしても守りたいなんて思わないよ。……多分。だから…人を大切にできる奴だと思うから。俺は、……と、と、」
なんか、顔真っ赤になってる……?
レアかもしれない……顔だよね。だけどまだ“と”を連呼してる。
「と?と、って……」
「だ、だから……っ俺と友達になってほしいんだよ‼︎」
「……私でいいの?」
「俺から言ってるのに、いいも悪いもないんだけど‼︎」
友達……なんだか新鮮だなぁ…なんて感じる。月輝に関わるようになってから今まで友達なんていなくて、元姫になっちゃってからも友達なんてできるはずもなかったから……。
「……ぅん、庵くんと友達になる。なりたい‼︎」
「え⁈いいのかよ」
「え、断って欲しかったの?やっぱり……」
ネガティブな考えが頭をよぎった。もしかして、陽平くんに言われたから……?
「いやいやいや!違う‼︎とっても、嬉しいんだよ!知ってたんだろ?俺が受け入れてないって……だからなんかびっくりしたんだよ。」
気づいてたのか……。そういうの分かっちゃうんだよね。
「そっか、あ…そういえばみんなは?」
「あー…悠介さんと理玖と蒼太はもうちょい後で来るよ。で、陽平は総長の病室。知ってるんだろ?陽平が仮の総長だってこと」
「うん……この病院だったんだ」
彼は何も言わずにパイプ椅子に座る。
「……きっと陽平は言わないだろうから言っとく。陽平は代理の総長……って言ってたと思うんだけど、本当の総長の名前は藍墨 龍太(アイスミ リュウタ)さん。日向を作った張本人で、目的は妹探し。それに日向にいるみんないろんななにかを抱えてる。そんな奴の為の居場所を作るため。」
藍墨、龍太…………?なんか懐かしい気がする。
「……で、龍太さんはスッゲー仲間を大切にしてて信頼も厚かった。陽平は龍太さんが拾って来たの。だから誰よりも懐いてて兄弟みたいな関係だった。だから……抗争で陽平が殺られそうだった時龍太さんは守ったんだ。で、今は植物状態なんだよ。これはつい1年前の話。龍太さん意識かなくなる直前に陽平に“俺の代わりに総長になれ”って言ったからアイツは人を引っ張るなんて苦手なのに総長になったんだよ。」
じゃあ、陽平は龍太さんがいるから言ったから総長をやってるの?
じゃあ、だから辛そうに“日向の総長”だって言ってたのかな?
「……だけど、陽愛と出会ったころから変わった。あいつ、総長なって感情がなくなったみたいに冷酷男になって……あ、日向のやつには優しかったよ。
けど、まるで前に戻ったみたいに笑うようになった。だから…ありがとう。
こんな世界の片隅で、陽と出会ってくれてありがとう。」
そう言った彼は立ち上がって頭を下げた。私は驚いてオドオドしていたら、
「……それとごめん。俺、陽愛のこと表面しか見てなかった。━︎━︎━︎━︎━︎」
最後、「俺は全く昔から変わってねーな…」と庵くんは小さく呟いた。庵くんも何かあるのかもしれない……彼が話してくれる日は来るのかな?
私は、この人とこれから先ずっと友達として側にいられるのかな?
「朝倉さーん、朝食持ってきました~体調いかがですか?」
看護師さんが朝食のトレーを持って来た。だけど、隣にいる庵くんに目がハートだ。
まぁ、庵くんはイケメンだからねぇ……仕方ないか。そう思ってると、後ろから陽平くんと灰崎くんたち……またもイケメン大集合。
「あ、ありがとうございます。いただきます。」
「あ、えっと……はい!な、な、何かあればお呼びください‼︎」
それだけ言えば、看護師さんは部屋から出て行った。
「な、なんだったんだ……?どうしてあんな噛んで……」
……君たちがイケメンすぎるからでしょーが‼︎まさかの無自覚なの⁈
彼らはみんな無自覚らしい……騒がれてるはずの彼らがイケメンだと思ってないとか……どういうことなんだ‼︎
「だけど来るタイミング、まずかったか。」
悠介さんは自覚があるよね……流石に。
「陽愛がご飯食べにくいだろ?陽平以外は撤収しよう。陽愛の元気な顔が見られたし、帰るぞー」
自覚はない、か……。
しかももう帰るの⁈早くない⁈
「…俺、朝ごはん調達しに売店行って来るわ」
「え、あ……みんなもう帰ったんだ」
「うん、あいつらいつも早いし……陽愛、ご飯先に食べてて」
そう言って彼はこの病室から出て行った。
━︎━︎━︎━︎━︎━︎10分後…
パンをモグモグと食べていると、陽平くんが帰って来た。
「……え、サンドイッチ?」
「うん、サンドイッチ。俺だと意外?」
「いや、そんなんじゃないけど」
陽平くんが買って来たのは、サンドイッチ。しかもカロリーが低いやつ。イメージは、カツサンドとか食べてそうなのに……野菜ばっかりのサンドイッチ。
陽平くんが食べ始め遅かったはずが同じタイミングで完食して、陽平くんが食器を戻すところに戻してくれて帰って来た彼が話し始めた。
「あいつら、月輝が動き出した。俺らを潰すつもりで。」
「え……月輝が……。」
「ああ。だから気を付けてて。」
「……うん」
「大丈夫、今度こそ絶対に俺が陽愛を守るから。」
陽平くんは私が安心できるようにぎゅっと優しく抱きしめた。
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