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第六章

付き合う、ということ。

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   【陽愛 side】


陽平くんの彼女になって数日。

陽平くんに転校しに来ないかと誘われて数日。


「陽愛、学校行ってくるね」

「うん、これお弁当ね。行ってらっしゃい」

「あ、そうだ。今日帰って来たらお祭り行くから準備しといて。」


お祭り……?お祭りって何?
聞こうと思ったのに、もう「行ってきまーす」なんて行ってしまった。

……うそ。準備ってなんなの⁈
私、お祭りなんて行ったことないのに。


コンコン━︎━︎━︎━︎━︎━︎

「陽愛ちゃん。ちょっといい?選んでほしいんだよね」

悠介さん……?
話したことないのに私の名前知ってるの?……というか、選んでほしいものって何?





「はい、できた。陽愛ちゃん、似合ってるね。」


白地に水彩でふんわり描かれている椿の花。帯はラベンダー色でワンポイントで蝶々が描かれている。
何故か浴衣を選ばされて選んだら、帯やら小物やら組み合わせをしてまるで着せ替え人形かのように何パターンか試されて髪も沢山弄られてやっと……着付け完了。

「ありがとうございます。」

髪もアップしてもらいメイクも施された。まるで別人みたいになっていて自分じゃないみたいだ。

沢山の中から着せ替え人形のようになりながら選んで良かった……1番大人しめで派手な感じないし…。

「陽平も惚れなおすんじゃない?あ、そう言えば自己紹介してなかったよね。俺の名前は神楽崎 悠介(かぐらさき ゆうすけ)。一応ね、美容師やってるんだ。」


あぁ、美容師さん……
だからこんなにプロみたいにお上手で、センスがいいのか……。





「ありがとうございます、神楽崎さん。」

彼にお礼を言うと、どこから出てきたのか椅子を持って来てくれた。紳士だ…!


「陽平たち、もう少しで帰ってくるはずだよ。」

悠介さんは時計を確認して外に出て行って数分……入ってきたのは悠介さんじゃなくて陽平くんだった。


「…お、おかえりなさい。」

「ただいま」

陽平くんは何も反応なくて似合ってないのか不安になっていると、悠介さんがドアを開けて顔だけ覗かせる。


「……行くか、陽愛。遅いと悠介さんが怖いから」

そう言った彼は自然に手を握るからドキドキする。こんな、手を繋いでいるだけなのに緊張するんだろう……?





「……すご。」

「うん、そうだね」

「……すごすぎでしょ、」


たしかにすごい。圧倒されるよ……お祭りってこんなにすごいの?

…人、多すぎでしょ⁈

あっちもこっちも、人人人……人ばかりだ。


「行こ、陽愛ちゃん。りんご飴食べよーよ!」

「おい、はしゃぐな。庵(いおり)」

「なぁ、なぁ!俺、焼きそば買ってくる!」

「おい!待て蒼太(そうた)‼︎」


今日は、あのお屋敷の住人…日向の幹部以上の人とお祭りに来ている。

……みんな自由行動してるから陽平くんは困って疲れてる。


「ははっ…あいつらは何とかなるよ。今年は華があるから楽しいんじゃない?」


華?


「…うん、陽愛ちゃんと握っとれよ。はぐれないように」

少しだけ強く握られながら歩き出す。後ろに2人いるから大丈夫だと思うんだけど……





「早川先輩がいるじゃん!お祭り毎年来るって言ってたけど本当だったんだ~」

「それに昇先輩もいるー!今日ラッキーだね」


……この2人って有名なの?みんなが陽平くんのことを振り向いて見てるし……


「ねぇ、陽平くん。陽平くんたちって有名なの?」

陽平くんに聞いたのに隣にいる昇さんに大きな声でゲラゲラ笑われた。


「そんなこと聞く子、初めて見たよ。ほとんどの人が知ってるよ。」

「……え、じゃあ私だけ?」

「うん、そうだね…多分、今までで初めて…っハハッ」

……すごい笑われてるんだけど。
私、どれだけ世間のこと興味ないのだろうか……ちゃんと勉強しよ。


「そうなんだ……ちゃんと勉強するね。」

真剣に言ったのに、今度は陽平くんに笑われる。もう……なによ。






「勉強しないでいい。わからないことは俺が教えるから」

彼はそう耳元で囁く。それがこしょばくて仕方なかったのに………


「…ひゃっ!陽平くんっ!」

耳を噛まれて変な反応してしまった。恥ずかしい。

私は陽平くんの目を見たら彼も私を見つめてくる。彼から目が離せられない。

心臓の鼓動がとても早く聞こえる。それになんだか、2人だけの世界みたいだ………。


「……あ、あのおふたりさん。勝手にふたりの世界に入らないでよ!」

「え……」

「一応、ここ道の真ん中だよ…っ!恥ずかしいじゃん!」


道の、真ん中……?
気がつけば、ギャラリーがたくさんいて驚く。

それに、もうさっき勝手に自由行動をしたふたりが帰って来ていた。



「じゃあねー陽愛ちゃん!おやすみ」

「おやすみなさい、今日はありがとうございました」


その後、悠介さんの車でお屋敷まで戻って来た。

……なんか久しぶりに外歩いたなぁ


「…楽しめたか?」

「うん!ありがとう、陽平くん」


ずっと部屋の中だったから正直言ってつまらなかった。だから、今日は本当に楽しくて仕方がなかった。
 
「だけどなんで連れて行ってくれたの?」

「ずっと部屋の中にいたら退屈だろ?毎年みんなで行くお祭りなら連れて行けると思ったんだよ」


嬉しい……
毎年のこととはいえ私を連れて行ってくれるなんて。しかも、日向に入ってるわけじゃないのに昇さんたちは一緒に行ってくれたことも。




だけどそれと同時に申し訳ない気持ちになる。こんなによくしてもらってるのに、学校転校話も曖昧にして……日向の姫じゃないのにみんなに守ってもらうばかりで……。


「陽愛…どうした?」


たくさん感謝しなきゃいけないのに、何も返せてない……


「ごめんね、陽平くん……」

「え?急にどうしたの?」

「私、なんも返せれてないことが申し訳なくて……。」


下を向きながら言うと、急にデコが痛くなる。


「……痛いんだけど……!」

「陽愛は笑っていてくれればそれでいい。俺は見返りなんて求めてない。」

「……っ!」


彼は次の瞬間フッと笑うと私の顎をグイッと上げて言った。





「何かしたいって思ってるならさ、俺の学校来いよ。それでずっと俺の隣で笑ってろ。」

曖昧にしてたこと………私は転校する勇気なかったはずなのに。不思議だね……


「……転校する。」

「え、本当に来てくれんの⁈」

「陽平くんが来いって言ったんじゃん」

「いや、本当に来てくれるなんて夢にも……すごい嬉しい」


彼に顎を捕まえられたまま、キスをされぎゅっと抱きしめられた。

いつもは緊張してドキドキするはずなのに何故か心地が良かった。


「陽平くん……好きだよ」


そう言って、初めて私からキスをする。


「……もう、可愛すぎ。俺も陽愛のこと好き。」


甘い雰囲気に包まれて、幸せを感じながらその夜は過ごした。





━︎━︎━︎━︎━︎━︎翌日。


「本当に1人で行くのか?」

「うん、最後だし……1人で行ってくる。」


翌日、早速あの学校を辞めることに決めた。

陽平くんが以前から相談していてくれていたおかげで彼の学校に行けることが決定したんだ。

まぁ、転校先は不良高だから即了承された。


「…陽平、俺が一緒に行くから大丈夫だよ。」

それに、悠介さんが送り迎えしてくれることになっているから心配ないんだ。

「そっか、だよな。気をつけて帰って来いよ。」
 

悠介さんがいるのはよっぽど安心なのかホッとした顔をしている。信頼、し合ってるんだな……いいな、なんて思ってしまう。




彼らが学校へ出かけて行き、私も悠介さんの車に乗り込み一年ちょっと通った学校に向かった。

「……俺、コンビニの駐車場におるから終わったら連絡して。じゃあ行ってらっしゃい。頑張れ」

「うん、ありがとうございます。行ってきます!」


意を決して学校に入る。少し早い時間だからまだ生徒は少ない。私は迷うことなく理事長室に足を進めた。


コンコン━︎━︎「失礼します。朝倉です」

そう言うと、「どうぞ」と言われてドアを開けた。すると、年配の男性が社長椅子に座って私を見ていた。


「……待ってました、朝倉さん。」

待っていた……?
私は、早くやめてほしい存在だった?



「おかえりなさい、陽愛ちゃん。行こうか。」

「お願いします……」

彼はエンジンをかけると、静かに出発した。


「聞いちゃいけないかもしれないけど、陽愛ちゃんはご両親は?俺、一応20歳過ぎてるから聞いとかないと」

そりゃそうだよね、じゃなきゃ捕まっちゃう。

「……両親共、亡くなりました。父は幼い頃に事故で、母は、先日交通事故で。」

彼に伝えれば申し訳ない顔をする。悠介さんがそんな顔することないのに。


「……辛いこと話させてごめんな。ずっとあそこで暮らしていい。陽愛ちゃんの居場所だよ。」


居場所……か。

「あそこで住む奴らはいろいろ訳ありばかりだ。みんな何かを抱えてる。居場所を求めてる。あそこはあいつらにとって、簡易な居場所だよ。……陽平もその一人。そして陽愛ちゃんのこれから先居場所になったらいいな」

そう言うと、車が停まって外を見るとお屋敷に着いていた。













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