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「此度のそなたの働きに、国王として心から感謝する」


 それは、あの通り魔事件から数日後のこと。オルニアは真っ白なドレスに身を包み、謁見の間にいた。
 所々に施された金と銀の刺繍。楚々とした印象を受ける。


(こういうの、柄じゃないんだけどなぁ)


 あの後、オルニアは負傷者たちの治療に奮闘した。力を使うのは久しぶりのことだし、十数名に及ぶ重症者を相手にするのはさすがに初めてのこと。治療を終えると同時に気を失ってしまう。
 それから今日に至るまで、オルニアはぐっすりと眠り続けていた。物凄い疲労感。ほんの少しの達成感が身体を包み込む。

 けれど、目を覚ました瞬間、オルニアは自分の行動を酷く後悔した。瞳いっぱいに涙を浮かべたクリスチャンに抱き付かれたからだ。


「オルニア……! 良かった! 君が目覚めなかったらどうしようと不安で堪らなかった」


 クリスチャンの腕の中は温かい。お日様みたいな香り。洒落っ気はないが、気取った香水の香りよりもずっと良い。
 これまで仕事で、数々の男達の腕に抱かれてきた。けれど、こんな風に感じるのは初めてのこと。経験のない感覚に、オルニアはそっと俯く。


「わたくしは――――――本当は逃げ出そうと思っていたのですよ」


 能力を持ちつつ、それを隠そうとした。知らんふりをしようとした。クリスチャンがこんな風に涙を流す価値はない。言外にそう伝えても、クリスチャンは大きく首を振る。


「それでも君は逃げなかった。多くの人を助けた。それだけが真実だ」


 目頭が熱い。もう何年も、仕事以外で流すことのなかった涙だ。
 クリスチャンの服をビショビショに濡らし、オルニアは静かに泣いた。



「君を我が国の聖女として、正式に迎え入れたいと思っている」


 国王の言葉に顔を上げる。半ば予想していたセリフだ。
 エディーレン王国の出身者ならば、問答無用で聖女にされていただろう。けれど幸いオルニアは異国人だ。小さく首を横に振る。


「そんな、聖女だなんて……わたくしはそんな大層な存在ではございません。少し魔法の使える程度の、ただの小娘ですから」


 これと全く同じ言葉を、オルニアはとある人物から言われている。決して謙遜しているつもりはない。心からの想いだった。


「何を言ってるんだ、オルニア。君の力は素晴らしい! 俺達は本当に、心から感謝しているんだ。どうかこのまま城に留まり、一緒に国を支えて欲しい! 頼むよ」


 クリスチャンが手を握る。オルニアの心が震えた。
 オルニアはきっと、こんな風に言って貰える日が来るのを、ずっとずっと待っていた。傷つき、立ち上がれなくなった三年前のあの日から、ずっと、ずっと。


「答えはすぐでなくて良い。城内でゆっくりと静養してくれ」


 国王の言葉に、オルニアは小さく頷いた。
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