5 / 11
5.
しおりを挟む
「オルニア、居るか?」
扉の向こうで、大きな花束が揺れる。その後から響くのは、クリスチャンの快活な声音だ。
「殿下! 今日も会いに来てくださったのですか?」
「ああ。具合はどうだ? 顔色は良さそうだが」
クリスチャンは、花やドレスや宝石を持参し、三日と開けず、オルニアに会いに訪れる。専属の侍女も一人つけてもらった。至れり尽くせり――――寧ろ過ぎるぐらいだ。
「元々過労というお話ですもの。すっかり元気になりましたわ」
「いや、未だ顔色が悪い。しっかりと静養しなければ」
良い依頼人――金蔓になりそうだと思っていたのに、どちらかと言えばクリスチャン自身がカモになっている。彼はオルニアに惚れているらしく、過保護に世話を焼きつつ、こうして貢物を持参するのだ。
(こういうの、ちょっと面倒だなぁ)
オルニアは惚れさせた相手から施しを受けたい訳ではない。依頼人から納得の上、報酬を貰うことが好きなのだ。
見ている限り、クリスチャンは兄達を失脚させたいとか、そういった欲を持ち合わせていない。
(これ以上の長居は無用ね)
ベッドから立ち上がり、オルニアはニコリと微笑んだ。
「ご覧になって、殿下。この通り、もうすっかり元気ですわ。早くお暇せねば、わたくしの気が――――」
「そうか! だったら今日は、俺と一緒に街に出よう」
「…………へ?」
クリスチャンはオルニアの手を取り、嬉しそうに微笑む。
「オルニアの好きなものを何でも買ってやる! ドレスも宝石も、自分で選んだ方が楽しかろう。それから、女性に人気のカフェがあるそうだから、そこに行こう。好きなものを食べると良い」
「えぇ? っと……それは大変光栄なことですが、殿下がそういったことをなさって大丈夫なのですか?」
そもそも、何処の誰とも知らぬ女を城に連れ込んだだけでも十分問題だ。そう仕向けたのはオルニア自身だが、ここまで分別が無いと、さすがに反応に困ってしまう。
「嫌か?」
クリスチャンの整った顔がオルニアに迫る。
「どうしても嫌なのか?」
押しが強い。おまけに、後には侍女や騎士が大勢控えている。嫌です、と言える状況にないのは間違いないだろう。
「まさか! 是非、ご一緒させてください」
(よし、途中でとんずらしよう)
満面の笑み。裏ではそんなことを考えつつ、オルニアはこっそりとため息を吐いた。
扉の向こうで、大きな花束が揺れる。その後から響くのは、クリスチャンの快活な声音だ。
「殿下! 今日も会いに来てくださったのですか?」
「ああ。具合はどうだ? 顔色は良さそうだが」
クリスチャンは、花やドレスや宝石を持参し、三日と開けず、オルニアに会いに訪れる。専属の侍女も一人つけてもらった。至れり尽くせり――――寧ろ過ぎるぐらいだ。
「元々過労というお話ですもの。すっかり元気になりましたわ」
「いや、未だ顔色が悪い。しっかりと静養しなければ」
良い依頼人――金蔓になりそうだと思っていたのに、どちらかと言えばクリスチャン自身がカモになっている。彼はオルニアに惚れているらしく、過保護に世話を焼きつつ、こうして貢物を持参するのだ。
(こういうの、ちょっと面倒だなぁ)
オルニアは惚れさせた相手から施しを受けたい訳ではない。依頼人から納得の上、報酬を貰うことが好きなのだ。
見ている限り、クリスチャンは兄達を失脚させたいとか、そういった欲を持ち合わせていない。
(これ以上の長居は無用ね)
ベッドから立ち上がり、オルニアはニコリと微笑んだ。
「ご覧になって、殿下。この通り、もうすっかり元気ですわ。早くお暇せねば、わたくしの気が――――」
「そうか! だったら今日は、俺と一緒に街に出よう」
「…………へ?」
クリスチャンはオルニアの手を取り、嬉しそうに微笑む。
「オルニアの好きなものを何でも買ってやる! ドレスも宝石も、自分で選んだ方が楽しかろう。それから、女性に人気のカフェがあるそうだから、そこに行こう。好きなものを食べると良い」
「えぇ? っと……それは大変光栄なことですが、殿下がそういったことをなさって大丈夫なのですか?」
そもそも、何処の誰とも知らぬ女を城に連れ込んだだけでも十分問題だ。そう仕向けたのはオルニア自身だが、ここまで分別が無いと、さすがに反応に困ってしまう。
「嫌か?」
クリスチャンの整った顔がオルニアに迫る。
「どうしても嫌なのか?」
押しが強い。おまけに、後には侍女や騎士が大勢控えている。嫌です、と言える状況にないのは間違いないだろう。
「まさか! 是非、ご一緒させてください」
(よし、途中でとんずらしよう)
満面の笑み。裏ではそんなことを考えつつ、オルニアはこっそりとため息を吐いた。
0
お気に入りに追加
179
あなたにおすすめの小説
平民と恋に落ちたからと婚約破棄を言い渡されました。
なつめ猫
恋愛
聖女としての天啓を受けた公爵家令嬢のクララは、生まれた日に王家に嫁ぐことが決まってしまう。
そして物心がつく5歳になると同時に、両親から引き離され王都で一人、妃教育を受ける事を強要され10年以上の歳月が経過した。
そして美しく成長したクララは16才の誕生日と同時に貴族院を卒業するラインハルト王太子殿下に嫁ぐはずであったが、平民の娘に恋をした婚約者のラインハルト王太子で殿下から一方的に婚約破棄を言い渡されてしまう。
クララは動揺しつつも、婚約者であるラインハルト王太子殿下に、国王陛下が決めた事を覆すのは貴族として間違っていると諭そうとするが、ラインハルト王太子殿下の逆鱗に触れたことで貴族院から追放されてしまうのであった。
悪意か、善意か、破滅か
野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。
婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、
悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。
その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。
婚約者が、私より従妹のことを信用しきっていたので、婚約破棄して譲ることにしました。どうですか?ハズレだったでしょう?
珠宮さくら
恋愛
婚約者が、従妹の言葉を信用しきっていて、婚約破棄することになった。
だが、彼は身をもって知ることとになる。自分が選んだ女の方が、とんでもないハズレだったことを。
全2話。
【 完 】転移魔法を強要させられた上に婚約破棄されました。だけど私の元に宮廷魔術師が現れたんです
菊池 快晴
恋愛
公爵令嬢レムリは、魔法が使えないことを理由に婚約破棄を言い渡される。
自分を虐げてきた義妹、エリアスの思惑によりレムリは、国民からは残虐な令嬢だと誤解され軽蔑されていた。
生きている価値を見失ったレムリは、人生を終わらせようと展望台から身を投げようとする。
しかし、そんなレムリの命を救ったのは他国の宮廷魔術師アズライトだった。
そんな彼から街の案内を頼まれ、病に困っている国民を助けるアズライトの姿を見ていくうちに真実の愛を知る――。
この話は、行き場を失った公爵令嬢が強欲な宮廷魔術師と出会い、ざまあして幸せになるお話です。
ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?
望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。
ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。
転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを――
そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。
その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。
――そして、セイフィーラは見てしまった。
目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を――
※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。
※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)
戻る場所がなくなったようなので別人として生きます
しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。
子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。
しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。
そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。
見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。
でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。
リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。
さよなら、英雄になった旦那様~ただ祈るだけの役立たずの妻のはずでしたが…~
遠雷
恋愛
「フローラ、すまない……。エミリーは戦地でずっと俺を支えてくれたんだ。俺はそんな彼女を愛してしまった......」
戦地から戻り、聖騎士として英雄になった夫エリオットから、帰還早々に妻であるフローラに突き付けられた離縁状。エリオットの傍らには、可憐な容姿の女性が立っている。
周囲の者達も一様に、エリオットと共に数多の死地を抜け聖女と呼ばれるようになった女性エミリーを称え、安全な王都に暮らし日々祈るばかりだったフローラを庇う者はごく僅かだった。
「……わかりました、旦那様」
反論も無く粛々と離縁を受け入れ、フローラは王都から姿を消した。
その日を境に、エリオットの周囲では異変が起こり始める。
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる