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「本当に、ありがとうございました」


 医師の診察が終わり、オルニアは深々と首を垂れる。


「いや、礼には及ばない。その年で過労とは……さぞや大変な仕事に身を投じていたのだろう」


 クリスチャンは診察が終わるまでの間、ずっと付き添ってくれていた。心配そうな表情。人の好さが滲み出ている。


「医師の言っていた通り、しばらくはここで静養すると良い」

「まぁ……! それは――――有難いことではございますが、わたくしには身分を証明するものすらございませんのよ? 異国人ですし、そんなに良くしていただく訳には」

「俺が良いと言っている。君は何も気にせず、ここに居れば良い」


 快活な笑み。太陽のような温かい手のひらで、クリスチャンはオルニアの肩をポンと叩いた。


(危うい人)


 王子の癖に、人を疑うことを知らない。こんなに簡単に人を懐に入れてしまって良いのだろうか。いつか誰かに刺されやしないか、こちらが心配になる程だ。


「では、お言葉に甘えて……」


 けれど、そういう人間の隙につけ込むのがオルニアの仕事だ。遠慮なく利用をさせてもらうことにする。


「君の名前は?」

「――――オルニアと申します」


 オルニアとて、彼女が持つ偽名の一つに過ぎない。本当の名前は別にある。


「そうか。変わった名前だな。
俺はクリスチャン。クリスと気楽に呼んで欲しい」


 満面の笑み。その眩しさに瞳を細めつつ、オルニアはもう一度、恭しく頭を下げた。
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