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4.『王太子の耳』だけど、黙ってばかりじゃいられません!
9.誓い(2)【END】
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「良かった。捨てられたんじゃないかって冷や冷やしたよ」
殿下はそう言って嬉しそうに微笑む。髪や瞳の色が違っていても、彼自身はちっとも変わらない。わたしが好きになった彼のままだ。
「殿下は――――」
「フェリクス、と呼んで欲しい」
「――――――フェリクス様は、最初からこうなさるおつもりだったんですか?」
身分を明かさず内情を探り、所長の不正を暴いた。彼をここから追い出した。ご自身の中にある悪い膿を絞り出すために。
「いや、正直ここまでの事態になるとは思っていなかったよ」
「……え? そうなんですか?」
フェリクス様は全ての証拠をきっちり揃えていらっしゃったし、所長に言い訳する隙を与えなかった。全てが彼の手のひらの上で動いているように思えたというのに。
「だったら、どうして別人のフリまでして『王太子の耳』にいらっしゃったんですか?」
発案者だからって全ての責任を負うことはできない。国中を見て回ることもできない。そんなことしてたら、身体がいくつあってもとても足りない。そのために現場責任者が存在するんだし、例えば何か問題が起こったとしても、フェリクス様が気を揉む必要はないというのに。
「リュシーが『助けて』って叫んでいたから」
「…………え?」
そう言ってフェリクス様はわたしの頬に唇を寄せる。
「わたし、ですか?」
「手紙にも書いただろう? リュシーの報告書を読んで、どんな子なんだろうってずっと気になっていたんだって。
それが、ある頃を境に、どんどん元気がなくなっている気がして。心配で、居てもたってもいられなくて」
会いに来てしまったんだ――――そう言ってフェリクスさまはわたしのことを抱き締める。
(言葉が出ない)
わたしは『助けて』なんて書いていない。『苦しい』とも書いていない。
だけど、そんなにも前から、フェリクス様はわたしの声を聞いてくれていた――――誰にも打ち明けられない想いを聞こうとしてくれていた。そのことが嬉しくて堪らない。
「俺はリュシーが好きだよ」
唇が触れ合う。甘くてとても温かい。まるでフェリクス様の心みたいで、欲しくて欲しくて堪らなくなる。キスの合間に何度も贈られる「好き」の言葉が、まるで砂糖菓子みたいに、甘く優しく降り積もっていく。
「王太子殿下に伝えたいことがあります」
それは、ここに来る皆が口にする言葉。
不平、不満。提案や要望。苦情や陳情。毎日、ありとあらゆる想いがこの場所へと届けられる。
だけど、これから口にするのは、とびっきり大きくて、熱い想い。
わたしは『王太子の耳』。誰かの『声』を受け止めて、それを届けるのがわたしの仕事だ。だけど――――
「わたしはこれから、全国に『王太子の耳』を作りたいです! 誰でも、この国のどこに居ても、あなたに『声』を届けられるように」
それは不平でも不満でも要望でもない、誓いの言葉。己の手で叶えたい大切な願いだ。
フェリクス様は微かに目を見開き、それから大きく頷く。
「俺も、同じ気持ちだ」
今にも泣き出しそうな笑顔。わたし達の想いは重なり合っているんだってよく分かる。
「それからフェリクス様……わたしはずっと、あなたと一緒に居たいです」
届いて欲しい――――心からの願いを胸に微笑めば、フェリクス様は嬉しそうに目を細める。
「もちろん。絶対に叶えよう、二人で」
力強い返答。しっかりと受け止められたわたしの声。抱きしめて感じるフェリクス様の鼓動に、彼もまた同じ気持ちなんだって実感する。
それからわたし達は顔を見合わせると、声を上げて笑うのだった。
殿下はそう言って嬉しそうに微笑む。髪や瞳の色が違っていても、彼自身はちっとも変わらない。わたしが好きになった彼のままだ。
「殿下は――――」
「フェリクス、と呼んで欲しい」
「――――――フェリクス様は、最初からこうなさるおつもりだったんですか?」
身分を明かさず内情を探り、所長の不正を暴いた。彼をここから追い出した。ご自身の中にある悪い膿を絞り出すために。
「いや、正直ここまでの事態になるとは思っていなかったよ」
「……え? そうなんですか?」
フェリクス様は全ての証拠をきっちり揃えていらっしゃったし、所長に言い訳する隙を与えなかった。全てが彼の手のひらの上で動いているように思えたというのに。
「だったら、どうして別人のフリまでして『王太子の耳』にいらっしゃったんですか?」
発案者だからって全ての責任を負うことはできない。国中を見て回ることもできない。そんなことしてたら、身体がいくつあってもとても足りない。そのために現場責任者が存在するんだし、例えば何か問題が起こったとしても、フェリクス様が気を揉む必要はないというのに。
「リュシーが『助けて』って叫んでいたから」
「…………え?」
そう言ってフェリクス様はわたしの頬に唇を寄せる。
「わたし、ですか?」
「手紙にも書いただろう? リュシーの報告書を読んで、どんな子なんだろうってずっと気になっていたんだって。
それが、ある頃を境に、どんどん元気がなくなっている気がして。心配で、居てもたってもいられなくて」
会いに来てしまったんだ――――そう言ってフェリクスさまはわたしのことを抱き締める。
(言葉が出ない)
わたしは『助けて』なんて書いていない。『苦しい』とも書いていない。
だけど、そんなにも前から、フェリクス様はわたしの声を聞いてくれていた――――誰にも打ち明けられない想いを聞こうとしてくれていた。そのことが嬉しくて堪らない。
「俺はリュシーが好きだよ」
唇が触れ合う。甘くてとても温かい。まるでフェリクス様の心みたいで、欲しくて欲しくて堪らなくなる。キスの合間に何度も贈られる「好き」の言葉が、まるで砂糖菓子みたいに、甘く優しく降り積もっていく。
「王太子殿下に伝えたいことがあります」
それは、ここに来る皆が口にする言葉。
不平、不満。提案や要望。苦情や陳情。毎日、ありとあらゆる想いがこの場所へと届けられる。
だけど、これから口にするのは、とびっきり大きくて、熱い想い。
わたしは『王太子の耳』。誰かの『声』を受け止めて、それを届けるのがわたしの仕事だ。だけど――――
「わたしはこれから、全国に『王太子の耳』を作りたいです! 誰でも、この国のどこに居ても、あなたに『声』を届けられるように」
それは不平でも不満でも要望でもない、誓いの言葉。己の手で叶えたい大切な願いだ。
フェリクス様は微かに目を見開き、それから大きく頷く。
「俺も、同じ気持ちだ」
今にも泣き出しそうな笑顔。わたし達の想いは重なり合っているんだってよく分かる。
「それからフェリクス様……わたしはずっと、あなたと一緒に居たいです」
届いて欲しい――――心からの願いを胸に微笑めば、フェリクス様は嬉しそうに目を細める。
「もちろん。絶対に叶えよう、二人で」
力強い返答。しっかりと受け止められたわたしの声。抱きしめて感じるフェリクス様の鼓動に、彼もまた同じ気持ちなんだって実感する。
それからわたし達は顔を見合わせると、声を上げて笑うのだった。
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感想をありがとうございます(まとめてのお返事になってすみません)!
このお話は初掲載時にも賛(少)否(多)両論いただいてまして(滝汗)いつかアルヴィン達のサイドストーリーを書きたいと思っておりますので、どうかご容赦くださいませm(_ _)m
改めまして、感想をいただき、ありがとうございます。
3作目のお話、実は、って感じなのかな?🤔。まああくまで候補でしかなかったし、今更な感じがするので婚約者候補の人と上手く行けば良いね。