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4.『王太子の耳』だけど、黙ってばかりじゃいられません!

9.誓い(1)

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(何だかなぁ……)


 自分の相談室で一人、頬杖をつく。ため息が何度も漏れ、放心状態から中々抜け出せない。


 あれから、怒涛の数日が過ぎ去った。


 『王太子の耳』は王太子殿下――わたしがアルヴィア様だと思っていた彼――が所長として、直接指揮を取ることになった。
 とはいえ、彼が長を務める組織は他にも沢山存在する。
 このため、所長代理なんていう役職が新しく設けられた上、わたしが所長代理に任命されてしまった。

 変わったことはそれだけじゃない。

 新しく五人の人員が『王太子の耳』に配属されることになった。
 これまでは文官か女官だけが配属される部署だったけれど、今回、民から特に要望が多かった分野のスペシャリストが引き抜かれ、実にバラエティに富んだ布陣へと変わっている。皆やる気に満ちた優秀な相談員ばかりだ。
 それから、今回の異動に際して、治安面等も配慮をされることになった。今後は報告書の受け渡し以外の間も、入れ替わりで騎士が巡回してくれることになっている。


 そして、アルヴィア様――――のフリをしていた殿下は、『王太子の耳』で働くために、相当な無茶をしていたらしい。これらの変更を説明するだけ説明し、城へ戻っていってしまった。


「最初から教えて下さったら良かったのに……」


 報告書を受け取りにやって来た本物のアルヴィア様にそう言えば、彼はバツが悪そうに微笑む。


「殿下はあなたの本音が聞きたかったんですよ。どうか許して上げてください」


 そんな風に言われたら、これ以上何も言えない。コクリと小さく頷けば、騎士は困ったように笑った。



 あれから、殿下には一度も会えていない。
 わたしと一緒に相談員をしている間も、深夜に城に戻り、王太子としての仕事をしていたというから驚きだ。絶対に皺寄せがきている。当然と言えば当然だろう。
 だけど――――


「――――やっぱりあれっきりなのかな?」


 殿下はあの日、『最後にするつもりはない』と言ってくださった。『ずっと一緒に居たい』って抱き締めてくださった。

 だけどあれは『侯爵令息のアルヴィア様』だからこそ吐き出せた想い、約束なのかもしれない。王太子としての『声』ではないとしたら――――?


「……リュシーはそれで良いの?」


 耳元で唐突に、そんなことを囁かれる。ギュッと強く抱きしめられて、胸が甘く、苦しくなる。


「――――嫌です」


 昔のわたしなら『それで良い』と答えていたかもしれない。自分の気持ちに素直になることが出来ず、一人で藻掻き苦しんだかもしれない。

 だけど、わたしにだって、どうしても届けたい『声』が存在する。掴みたい想いがある。何もしないまま諦めることなんて出来ない。そんなの絶対嫌だった。


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