81 / 88
4.『王太子の耳』だけど、黙ってばかりじゃいられません!
6.想いがあればあるだけ、余計に(2)
しおりを挟む
「国が彼らを雇ったんだ」
「……じゃあ、皆がここに居ないのは」
「うん。ここ以外に帰る場所ができたから、だよ」
もう一度、美しく整備された庭園を見回す。涙が溢れそうになった。
「そっか……」
ずっと拠り所を求めていた人々。話を聞いてあげることぐらいしか出来なくて、もどかしくてたまらなかった日々。
「そっかぁ!」
思わず笑い声が漏れた。
彼等の声は、ちゃんと国に届いている。形になっている。そうと実感できることが、とても嬉しい。
「連れてきてくださってありがとうございます、アルヴィア様」
「うん。リュシーに一番初めに見てもらいたかったんだ」
ニコニコと微笑むアルヴィア様に、わたしの心が温かくなる。
嬉しくて、幸せで、堪らなかった。
***
それからというもの、わたしはお昼休みに職場を抜け出し、アルヴィア様と一緒にこの庭園に来るようになった。
二人きりの花園。誰にも邪魔されない穏やかで温かな時間。
だけど、いつまで経っても柵が取り払われないので、ある日、アルヴィア様にその理由を尋ねてみた。
「一般向けのオープンはもう少し先なんだ。もう少し整備が必要な箇所が残っているからね。
それに、元々貧民街だったって印象が強いし、俺達貴族が利用することで、少しずつ印象を変えて行こうって思ってる」
「そっか……そうなんですね」
とはいえ、こんなに素晴らしい景色を何日も独占するのはあまりにも贅沢だ。許可は得ているって話だけど、何だか申し訳なくなってくる。
「それより、今日はこれ、食べてみてよ」
そう言ってアルヴィア様は、瑞々しい野菜がふんだんに挟まれたバゲットをわたしへと差し出す。傍らには、どこから出てきたのか、ホカホカと湯気の立ったスープ迄準備されていた。
「で……でも、毎日毎日戴いてばかりじゃ」
「リュシーのためだけに作ってもらったんだよ」
屈託のない笑みを浮かべ、アルヴィア様は首を傾げる。そんな風に言われては、受け取らないわけにはいかない。
「ありがとうございます」
おずおずと頷けば、彼はまた嬉しそうに笑った。
(何だか餌付けされてるみたい)
一口含むその度に、心が悦ぶ。
アルヴィア様が下さる食事は、食べやすさ重視の貧相なわたしのランチとは雲泥の差だった。そりゃあ、専属シェフがいらっしゃる侯爵家と一緒にしたらいけないって分かってるけど、格差ってものを思い知ってしまう。
だけど、これまでおざなりにしていた食事をきちんと取るようになったおかげで、随分と身体の調子が良くなった。たかが食事だなんて馬鹿にはできない。
「今のうちに、リュシーの好みをしっかり把握しておきたいんだよね」
「…………ふぇ?」
唐突にもたらされた情報に、頭が全く追い付かない。素っ頓狂な声を上げたわたしに、アルヴィア様は瞳を細めた。
「……じゃあ、皆がここに居ないのは」
「うん。ここ以外に帰る場所ができたから、だよ」
もう一度、美しく整備された庭園を見回す。涙が溢れそうになった。
「そっか……」
ずっと拠り所を求めていた人々。話を聞いてあげることぐらいしか出来なくて、もどかしくてたまらなかった日々。
「そっかぁ!」
思わず笑い声が漏れた。
彼等の声は、ちゃんと国に届いている。形になっている。そうと実感できることが、とても嬉しい。
「連れてきてくださってありがとうございます、アルヴィア様」
「うん。リュシーに一番初めに見てもらいたかったんだ」
ニコニコと微笑むアルヴィア様に、わたしの心が温かくなる。
嬉しくて、幸せで、堪らなかった。
***
それからというもの、わたしはお昼休みに職場を抜け出し、アルヴィア様と一緒にこの庭園に来るようになった。
二人きりの花園。誰にも邪魔されない穏やかで温かな時間。
だけど、いつまで経っても柵が取り払われないので、ある日、アルヴィア様にその理由を尋ねてみた。
「一般向けのオープンはもう少し先なんだ。もう少し整備が必要な箇所が残っているからね。
それに、元々貧民街だったって印象が強いし、俺達貴族が利用することで、少しずつ印象を変えて行こうって思ってる」
「そっか……そうなんですね」
とはいえ、こんなに素晴らしい景色を何日も独占するのはあまりにも贅沢だ。許可は得ているって話だけど、何だか申し訳なくなってくる。
「それより、今日はこれ、食べてみてよ」
そう言ってアルヴィア様は、瑞々しい野菜がふんだんに挟まれたバゲットをわたしへと差し出す。傍らには、どこから出てきたのか、ホカホカと湯気の立ったスープ迄準備されていた。
「で……でも、毎日毎日戴いてばかりじゃ」
「リュシーのためだけに作ってもらったんだよ」
屈託のない笑みを浮かべ、アルヴィア様は首を傾げる。そんな風に言われては、受け取らないわけにはいかない。
「ありがとうございます」
おずおずと頷けば、彼はまた嬉しそうに笑った。
(何だか餌付けされてるみたい)
一口含むその度に、心が悦ぶ。
アルヴィア様が下さる食事は、食べやすさ重視の貧相なわたしのランチとは雲泥の差だった。そりゃあ、専属シェフがいらっしゃる侯爵家と一緒にしたらいけないって分かってるけど、格差ってものを思い知ってしまう。
だけど、これまでおざなりにしていた食事をきちんと取るようになったおかげで、随分と身体の調子が良くなった。たかが食事だなんて馬鹿にはできない。
「今のうちに、リュシーの好みをしっかり把握しておきたいんだよね」
「…………ふぇ?」
唐突にもたらされた情報に、頭が全く追い付かない。素っ頓狂な声を上げたわたしに、アルヴィア様は瞳を細めた。
0
お気に入りに追加
415
あなたにおすすめの小説
英雄になった夫が妻子と帰還するそうです
白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。
愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。
好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。
今、目の前にいる人は誰なのだろう?
ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。
珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥)
ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。
天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする
カエデネコ
恋愛
※カクヨムの方にも載せてあります。サブストーリーなども書いていますので、よかったら、お越しくださいm(_ _)m
リアンは有名私塾に通い、天才と名高い少女であった。しかしある日突然、陛下の花嫁探しに白羽の矢が立ち、有無を言わさず後宮へ入れられてしまう。
王妃候補なんてなりたくない。やる気ゼロの彼女は後宮の部屋へ引きこもり、怠惰に暮らすためにその能力を使うことにした。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
【完結】待ってください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ルチアは、誰もいなくなった家の中を見回した。
毎日家族の為に食事を作り、毎日家を清潔に保つ為に掃除をする。
だけど、ルチアを置いて夫は出て行ってしまった。
一枚の離婚届を机の上に置いて。
ルチアの流した涙が床にポタリと落ちた。
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※完結済み、手直ししながら随時upしていきます
※サムネにAI生成画像を使用しています
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。
【完結】結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが
Rohdea
恋愛
結婚式の当日、花婿となる人は式には来ませんでした───
伯爵家の次女のセアラは、結婚式を控えて幸せな気持ちで過ごしていた。
しかし結婚式当日、夫になるはずの婚約者マイルズは式には現れず、
さらに同時にセアラの二歳年上の姉、シビルも行方知れずに。
どうやら、二人は駆け落ちをしたらしい。
そんな婚約者と姉の二人に裏切られ惨めに捨てられたセアラの前に現れたのは、
シビルの婚約者で、冷酷だの薄情だのと聞かされていた侯爵令息ジョエル。
身勝手に消えた姉の代わりとして、
セアラはジョエルと新たに婚約を結ぶことになってしまう。
そして一方、駆け落ちしたというマイルズとシビル。
二人の思惑は───……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる