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4.『王太子の耳』だけど、黙ってばかりじゃいられません!

6.想いがあればあるだけ、余計に(2)

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「国が彼らを雇ったんだ」

「……じゃあ、皆がここに居ないのは」

「うん。ここ以外に帰る場所ができたから、だよ」


 もう一度、美しく整備された庭園を見回す。涙が溢れそうになった。


「そっか……」


 ずっと拠り所を求めていた人々。話を聞いてあげることぐらいしか出来なくて、もどかしくてたまらなかった日々。


「そっかぁ!」


 思わず笑い声が漏れた。
 彼等の声は、ちゃんと国に届いている。形になっている。そうと実感できることが、とても嬉しい。


「連れてきてくださってありがとうございます、アルヴィア様」

「うん。リュシーに一番初めに見てもらいたかったんだ」


 ニコニコと微笑むアルヴィア様に、わたしの心が温かくなる。
 嬉しくて、幸せで、堪らなかった。


***


 それからというもの、わたしはお昼休みに職場を抜け出し、アルヴィア様と一緒にこの庭園に来るようになった。
 二人きりの花園。誰にも邪魔されない穏やかで温かな時間。
 だけど、いつまで経っても柵が取り払われないので、ある日、アルヴィア様にその理由を尋ねてみた。


「一般向けのオープンはもう少し先なんだ。もう少し整備が必要な箇所が残っているからね。
それに、元々貧民街だったって印象が強いし、俺達貴族が利用することで、少しずつ印象を変えて行こうって思ってる」

「そっか……そうなんですね」


 とはいえ、こんなに素晴らしい景色を何日も独占するのはあまりにも贅沢だ。許可は得ているって話だけど、何だか申し訳なくなってくる。


「それより、今日はこれ、食べてみてよ」


 そう言ってアルヴィア様は、瑞々しい野菜がふんだんに挟まれたバゲットをわたしへと差し出す。傍らには、どこから出てきたのか、ホカホカと湯気の立ったスープ迄準備されていた。


「で……でも、毎日毎日戴いてばかりじゃ」

「リュシーのためだけに作ってもらったんだよ」


 屈託のない笑みを浮かべ、アルヴィア様は首を傾げる。そんな風に言われては、受け取らないわけにはいかない。


「ありがとうございます」


 おずおずと頷けば、彼はまた嬉しそうに笑った。


(何だか餌付けされてるみたい)


 一口含むその度に、心が悦ぶ。
 アルヴィア様が下さる食事は、食べやすさ重視の貧相なわたしのランチとは雲泥の差だった。そりゃあ、専属シェフがいらっしゃる侯爵家と一緒にしたらいけないって分かってるけど、格差ってものを思い知ってしまう。

 だけど、これまでおざなりにしていた食事をきちんと取るようになったおかげで、随分と身体の調子が良くなった。たかが食事だなんて馬鹿にはできない。


「今のうちに、リュシーの好みをしっかり把握しておきたいんだよね」

「…………ふぇ?」


 唐突にもたらされた情報に、頭が全く追い付かない。素っ頓狂な声を上げたわたしに、アルヴィア様は瞳を細めた。


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