78 / 88
4.『王太子の耳』だけど、黙ってばかりじゃいられません!
5.自覚(1)
しおりを挟む
アルヴィア様が配属されて二週間が経った。
「リュシーさん、聞いておくれよ!」
「はいはい、今日はどうされましたか?」
『王太子の耳』には今日もひっきりなしに相談者が訪れる。税金が納められないだとか、商売が上手くいかないだとか、病気で苦しんでいるとか、食べ物を恵んでほしいとか、相談される内容は全然変わっていない。
「リュシーさん、今日は何だか元気だね」
「え? ……っと、そうですか?」
だけど最近、こんな風に言われることがとても増えた。
これまでだって仕事中は笑う様にしていたし、しっかり話を聞いていたつもりだった。だけど、複数人が言うのだから間違いない。
事実、これまでにないぐらい、わたしは元気だ。
自分の仕事は無駄じゃないって気づけた。誰かに認めてもらえたってだけなのに、こんなにも気分が変わるのだから恐ろしい。一人の人間が与える影響力はこんなにも大きいんだって気づけたことは、本当に大きな収穫だった。
(わたしも、そんな人間になりたい)
すぐには無理かもしれない。身の丈に合っていない大それた願いかもしれない。
だけど、目標は高ければ高いほど良いし、目指すものがあるのとないのでは全然違う。何だかとても晴れやかな気分だった。
「リュシー、少し良い?」
その時、相談室の向こう側から声を掛けられ、ビクリと身体を震わせる。
「どうぞ」
答えたら、アルヴィア様が顔を覗かせた。相変わらずビックリするぐらい綺麗な笑顔。乙女の理想がギッシリ詰まった出で立ちに、思わずため息が漏れそうになる。
(いけない、いけない)
雲の上の存在であるアルヴィア様に対し、そんな邪念を抱いてはいけない。気を取り直して「どうしました?」って尋ねると、彼はそっと瞳を細めた。
「お昼を一緒にどうかな? 近くに良い場所を見つけたんだ」
そう言ってアルヴィア様は、ランチボックスを掲げて見せる。
「え? ……っと、気持ちはありがたいんですけど、相談者の方がいらっしゃるだろうから、わたしはここで。アルヴィア様はゆっくり休んできてください」
お昼はいつも、相談室のデスクで食べている。休憩時間はあってないようなもの。それが二年も続けば、感覚は麻痺する。数日おきに食い損ねるし、それで当たり前って感じだ。
「ダメだよ。休憩時間はきちんと休まなくちゃ。なんのために所長がいると思ってるの?」
「へ? 所長ですか?」
「うん。彼にはさっき、俺の相談室に入ってもらったから。お昼休みの間ぐらい、所長に相談を受けてもらおう」
ニコリと押しの強い笑みを浮かべ、アルヴィア様が手を差し出す。わたしは呆然と瞳を瞬かせた。
「まさか、あの所長が相談室に入ったんですか?」
「うん」
「本当に? 一体どんな手を使ったんです?」
この二年間、わたしは所長が相談室に入ったのを見たことがない。『俺はあくまで責任者だ』が彼の口癖で、その癖責任者らしいことを何もしない人だから。
「え? 単純に殿下からの指令書を見せただけだよ。職員にきちんと休憩を与えろ、時間外勤務を認め、必要な手当を出すように、ってね」
しれっとした表情。だけどそれって、結構大事ではなかろうか?
(所長、焦ってるだろうなぁ)
労務管理は所長の大事な仕事だ。だけど、指令書が出るってことはつまり、彼が勤務怠慢を犯していると殿下が判断している、ってことに他ならない。
所長はこれまで『自分は絶対に安全だ』と思っていたのだろう。城から離れた建物。職員の数は少なく、殿下やお偉方とのコネを持つものは居ない。惨状を訴えるものも居なければ、どうせ取り合っては貰えない。そう高を括っていた。
だけど、アルヴィア様の登場で、風向きが大きく変わってしまったのである。
「リュシーさん、聞いておくれよ!」
「はいはい、今日はどうされましたか?」
『王太子の耳』には今日もひっきりなしに相談者が訪れる。税金が納められないだとか、商売が上手くいかないだとか、病気で苦しんでいるとか、食べ物を恵んでほしいとか、相談される内容は全然変わっていない。
「リュシーさん、今日は何だか元気だね」
「え? ……っと、そうですか?」
だけど最近、こんな風に言われることがとても増えた。
これまでだって仕事中は笑う様にしていたし、しっかり話を聞いていたつもりだった。だけど、複数人が言うのだから間違いない。
事実、これまでにないぐらい、わたしは元気だ。
自分の仕事は無駄じゃないって気づけた。誰かに認めてもらえたってだけなのに、こんなにも気分が変わるのだから恐ろしい。一人の人間が与える影響力はこんなにも大きいんだって気づけたことは、本当に大きな収穫だった。
(わたしも、そんな人間になりたい)
すぐには無理かもしれない。身の丈に合っていない大それた願いかもしれない。
だけど、目標は高ければ高いほど良いし、目指すものがあるのとないのでは全然違う。何だかとても晴れやかな気分だった。
「リュシー、少し良い?」
その時、相談室の向こう側から声を掛けられ、ビクリと身体を震わせる。
「どうぞ」
答えたら、アルヴィア様が顔を覗かせた。相変わらずビックリするぐらい綺麗な笑顔。乙女の理想がギッシリ詰まった出で立ちに、思わずため息が漏れそうになる。
(いけない、いけない)
雲の上の存在であるアルヴィア様に対し、そんな邪念を抱いてはいけない。気を取り直して「どうしました?」って尋ねると、彼はそっと瞳を細めた。
「お昼を一緒にどうかな? 近くに良い場所を見つけたんだ」
そう言ってアルヴィア様は、ランチボックスを掲げて見せる。
「え? ……っと、気持ちはありがたいんですけど、相談者の方がいらっしゃるだろうから、わたしはここで。アルヴィア様はゆっくり休んできてください」
お昼はいつも、相談室のデスクで食べている。休憩時間はあってないようなもの。それが二年も続けば、感覚は麻痺する。数日おきに食い損ねるし、それで当たり前って感じだ。
「ダメだよ。休憩時間はきちんと休まなくちゃ。なんのために所長がいると思ってるの?」
「へ? 所長ですか?」
「うん。彼にはさっき、俺の相談室に入ってもらったから。お昼休みの間ぐらい、所長に相談を受けてもらおう」
ニコリと押しの強い笑みを浮かべ、アルヴィア様が手を差し出す。わたしは呆然と瞳を瞬かせた。
「まさか、あの所長が相談室に入ったんですか?」
「うん」
「本当に? 一体どんな手を使ったんです?」
この二年間、わたしは所長が相談室に入ったのを見たことがない。『俺はあくまで責任者だ』が彼の口癖で、その癖責任者らしいことを何もしない人だから。
「え? 単純に殿下からの指令書を見せただけだよ。職員にきちんと休憩を与えろ、時間外勤務を認め、必要な手当を出すように、ってね」
しれっとした表情。だけどそれって、結構大事ではなかろうか?
(所長、焦ってるだろうなぁ)
労務管理は所長の大事な仕事だ。だけど、指令書が出るってことはつまり、彼が勤務怠慢を犯していると殿下が判断している、ってことに他ならない。
所長はこれまで『自分は絶対に安全だ』と思っていたのだろう。城から離れた建物。職員の数は少なく、殿下やお偉方とのコネを持つものは居ない。惨状を訴えるものも居なければ、どうせ取り合っては貰えない。そう高を括っていた。
だけど、アルヴィア様の登場で、風向きが大きく変わってしまったのである。
0
お気に入りに追加
415
あなたにおすすめの小説
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
始まりはよくある婚約破棄のように
メカ喜楽直人
恋愛
「ミリア・ファネス公爵令嬢! 婚約者として10年も長きに渡り傍にいたが、もう我慢ならない! 父上に何度も相談した。母上からも考え直せと言われた。しかし、僕はもう決めたんだ。ミリア、キミとの婚約は今日で終わりだ!」
学園の卒業パーティで、第二王子がその婚約者の名前を呼んで叫び、周囲は固唾を呑んでその成り行きを見守った。
ポンコツ王子から一方的な溺愛を受ける真面目令嬢が涙目になりながらも立ち向い、けれども少しずつ絆されていくお話。
第一章「婚約者編」
第二章「お見合い編(過去)」
第三章「結婚編」
第四章「出産・育児編」
第五章「ミリアの知らないオレファンの過去編」連載開始
貴方に私は相応しくない【完結】
迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。
彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。
天使のような無邪気な笑みで愛を語り。
彼は私の心を踏みにじる。
私は貴方の都合の良い子にはなれません。
私は貴方に相応しい女にはなれません。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる