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4.『王太子の耳』だけど、黙ってばかりじゃいられません!

4.吐露(5)

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「わたし……自分勝手な同僚達も、何かあってもわたし達を守ってくれない所長も、大嫌いでした。最低だなって。本気で本気で腹立たしかった。

皆、自分が良ければそれで良い。誰か一人に負担が偏ろうと『え? 全然気づかなかった』みたいな顔をして逃げていく。わたしには気づくことを求める癖に、わたしの苦しみには全然向き合ってくれない。

だけど何よりムカついたのは、彼等は――――あの人たちは本気で仕事に――――相談者に向き合ってなんかいなかった。聞いてるようで聞いてない。本気で国を変えようなんて人、ここには一人もいないんです。それがわたしは腹立たしい」


 心の奥底に眠らせていた芯の部分。今でも触れることはとても怖い。だけど――――


「わたしはきっと――――この仕事が好きなんです!」


 アルヴィア様が目を見開く。襲い掛かる気恥ずかしさに俯きつつ、わたしは言葉を続けた。


「腹立たしいことばかりだけど! 嫌な言葉ばかり浴びせられるけど! それでも、こんなわたしが誰かの役に立てるのかもしれないって――――この国が少しでも良くなるならって、そんな風に思っている自分がいるんです。
他の職員にも同じように思って欲しい。
だけど、価値観は押し付けるものじゃない。本人がそう思わなきゃ意味が無いって分かっているから、誰にも……誰にもこんなこと、言えなくて」


 認めたくなかった事実。だって、認めてしまったら最後。周囲との温度差を感じて、余計に辛くなるって分かっていたから。

 だから今、アルヴィア様や殿下がこうして同じ目線に立ってくれることがとても嬉しい。


「リュシー」


 アルヴィア様がわたしを抱き寄せる。逞しい胸板。ふわりと香るのは、彼のように爽やかで温かく、けれどスパイシーな香りだ。


(何だかすごくドキドキする)


 心と身体が物凄く熱い。苦しくて堪らないのに、いつもの苦しさとは全然違う。甘やかで優しい、胸を擽るような苦しさだ。


(ずっとこうしていられたら良いのに)


 彼に吐露した想いの数々。だけどその夜、その一言だけは言葉にしないまま、大事に胸に仕舞いこむのだった。
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