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4.『王太子の耳』だけど、黙ってばかりじゃいられません!

4.吐露(4)

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【親愛なるリュシー・ドゥ・ファオス


 君からの報告書は、全て大事に読ませてもらっている。報告書を読むだけで、君がどれだけ熱心に仕事をしてくれているか伝わってくる。一体どんな女性なのだろうと気になっていたのだが、昔馴染みのアルヴィアから話を聞いて、こうして手紙を送ろうと決めた。

 これまで国のために頑張ってくれて、本当にありがとう。
 君達が居なければ、私は民がこんなにも苦しんでいることを知らないままだった。騎士や文官達がくれる報告は、綺麗な上澄みばかりで、濁った感情、要望、民の叫びは全く届いてこなかった。これだけでも『王太子の耳』を作った甲斐がある。本当にありがとう。

 それに、民から寄せられた意見の中には、是非とも採用したい、というものが多くあった。実現までに時間が掛かるものばかりだから、今はまだ形になってはいない。だが、どうか安心してほしい。民の声――君の頑張り――は決して無駄にはならない。無駄にはしないと約束しよう。


 それからもう一つ。
 『王太子の耳』の惨状は、今君の隣にいるであろうアルヴィアから聞き及んでいる。


 短期間に複数の職員が辞め、大変だったね。君のような真面目な女官を苦しめてしまったこと、発案者として心苦しく思っている。言い訳のようになってしまうが、所長には何を聞いても『全てが順調』の一点張りだったから、何も知らずにここまで来てしまった。必要な人員はすぐに手配をする。もう少し待っていてくれ。

 君は私にとって大事な女官だ。これからも『王太子の耳』として、君の力を貸してほしい。


 王太子 フェリクスより】


「――――――ね? 怖くなかっただろう?」


 アルヴィア様が目を細める。彼はきっと、はじめから手紙の内容を知っていたのだろう。


「うっ……」


 ボロボロと大粒の涙が零れ落ちる。嗚咽が漏れ、堪えることができない。


「堪えなくて良いんだよ。ここは何と言っても『王太子の耳』。声を上げるべき場所なんだから」


 アルヴィアがそう言って背中を撫でる。ただでさえ役に立たなかった涙腺が崩壊して、子どもみたいな声が溢れ出た。

 もういい大人なのに。これでも一応貴族の端くれなのに。
 そんな躊躇いを、殿下とアルヴィアが取り払ってくれる。


「アルヴィア様……わたし『王太子の耳』なんて無くなってしまえば良いって、ずっとずっと思ってたんです。考えの甘い、馬鹿みたいな思い付きだって。もっと対応する側の職員のことを考えろとか、そんなに民の意見を聞きたいなら、自分でやれ、とか、そんな風に思ってました」

「………………うん、そうだろうね」


 これまで誰にも打ち明けることのできなかった想い。だけどここは『王太子の耳』で、今のわたしは届けたい声のある一人の人間。


(今だけは声を上げることを許してほしい)


 そんなことを願いながらアルヴィア様を見上げると、彼は力強く頷き、穏やかな笑みを浮かべる。心がすっぽりと包み込まれ、優しく撫でられているみたいだった。
 許されている――――その事実が、心を溶かす。凍らせて、見ない振りをしていた感情達が、雪解け水のように溶け出して、一気に押し寄せてくるのが分かった。


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