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4.『王太子の耳』だけど、黙ってばかりじゃいられません!

2.聞く(2)

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「どの家に生まれてくるかなんて、誰にも決められないだろう! 能力のない者が上に立ち、真に能力のある者が埋もれていく。そんな世の中で良いのか!?」

(怖い。逃げ出したい)


 そんなこと、わたしに言ったって仕方がないじゃない。国の仕組みも、身分も、何もかも、わたしとは全然関係のないところで決まっている。こういう意見をどれだけ上にあげても、焼き捨てられるのがオチだ。
 そうと分かっていて話を聞かなきゃならない――――なんて地獄みたいな時間なんだろう。


「そうですよね。辛いですよね。変えて行かなきゃいけませんよね」


 出来る限り相談者の気持ちに寄り添うことが大事だって分かっているのに、そうすると漏れなく相手の感情がなだれ込んでくる。その上、自分の心だって捨てきれない。感情の渦に溺れて苦しくなる――――それでも、わたしのことは誰も助けてなんかくれない。寄り添ってなんかくれない。
 相手の気が済むまで、ひたすら話を聞き続ける――――それが、わたしに出来る全てだった。



「――――想像していたより、ずっと大変な仕事なんですね」


 先程の相談者が帰った後、アルヴィア様が神妙な顔つきで呟く。彼は驚いたみたいだけど、こんなの日常茶飯事だ。取り立てて特別ってわけではないし、いちいち凹んでいたら身がもたないって分かってる。それでも――――


「……そうですね。ホント、大変」


 心からの想いを胸に、そんな風に返答する。
 この仕事をしているのはわたしだけじゃない。苦しんでるのは皆同じ。
 だからこそ、ここを作った王太子を少しだけ恨めしく思ってしまう。


「どうして王太子殿下は、こんな部署を作ったんでしょうね」


 あった方が良いってことは分かってる。
 国民の悲しみや怒りの捌け口。それがあるだけで、暴動や混乱はいくらか抑えられるだろうから。

 だけど、そのせいでわたしは――――わたしの心は犠牲になっている。こんな言い方をするのは間違っているんだろうけど、そんな風に感じているのは事実だ。


「民の不満がこんなに溜まっているとは知らなかったんでしょうね。彼はどうあっても、守られた場所に居ますから」


 小さくため息を吐きながら、アルヴィア様はそっと目を伏せる。


「識字率が高ければ、王都に意見箱を置けば事足りる。だけど、それでは不十分だからと相談所を設けたんだと思います」

「…………そうなんでしょうね」


 事実ここには、文字を読めない、書けない人だって訪れる。貧困にあえぎ、その日食べるパンや水にも事欠く人もいる。そういう人でも『困っている!』って国に声を届けられる。その意義はとても大きい。


(本当に届くのなら、だけど)


 相談室の扉がまた開く。目尻をそっと拭い、わたしは偽りの笑みを浮かべた。
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