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3.おまえじゃ、ダメだ
4.妃候補(1)
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初登校の翌日のこと。シェイラはクラスメイト達から逃れるようにして、校舎の裏庭に来ていた。あれは将来の社交の練習の場になると知っているものの、今のシェイラにとっては気疲れの場でしかない。春らしく咲き乱れた花々を眺めながら、シェイラはホッと胸を撫で下ろした。
「あなた、ちっとも変わっていらっしゃらないのね」
「――――はい?」
背後から聞こえたそんなセリフに、シェイラはゆっくりと振り返る。先程からこの場所に自分以外の人間はいない。ならば、声を掛けられたのは己だと、そう判断したのだ。
振り返ると、蜂蜜のような甘ったるい色をしたふわふわした髪の毛に、碧い大きな瞳をした美しい令嬢が立っていた。覚えのある顔だ。
「ミンディ様」
「あら、覚えて下さっていたのね。光栄ですわ」
そう言ってミンディの唇がゆっくりと弧を描く。
ミンディはシェイラと共に、サイラスの妃教育に呼ばれていた令嬢の一人だ。当時の宰相の孫娘で、侯爵令嬢。その家柄もさることながら、愛らしい顔立ちや利発さ、物怖じしない性格から、妃候補の筆頭とされていた。
「もちろん、覚えていますわ」
「そう? あなたはわたくしのことなんて、眼中にないと思っていましたのよ」
シェイラの返答を受け、ミンディは口元をそっと扇で隠す。彼女が何を思ってそんなことを言っているのか、シェイラにはしかと判じられない。首を傾げていると、ミンディは小さく嘆息した。
「相変わらず社交はお好きじゃないの?」
「いえ。ただ、今はあまり気乗りしないので……」
「ダメよ、そんなことじゃ。王太子妃ともなれば、そんな甘えたことを言ってられませんわよ」
ミンディはまるで妃教育の講師の如く、ピシャリとそう言い放つ。けれどシェイラは目を丸くすると、小さく首を横に振った。
「わたくしが王太子妃になることはあり得ませんもの」
「――――あり得ない?」
ミンディがピクリと眉間に皺を寄せる。
立ち話も何だからと、二人して側にあったテラス席へと腰掛けた。ミンディはその間唇を尖らせ、何度も何度も、シェイラのことを不服気に見遣る。
「……あの、ミンディ様。ミンディ様はわたくしが妃教育を辞した理由を、なんと聞いていらっしゃいますか?」
シェイラは思わずそう尋ねた。城に行かなくなった後のことは父に任せていたので、今日に至るまで何も知らない。ミンディを含めた他の候補者達がシェイラがいなくなったことをどのように捉えたのか、知りたくなったのだ。
「あなた、ちっとも変わっていらっしゃらないのね」
「――――はい?」
背後から聞こえたそんなセリフに、シェイラはゆっくりと振り返る。先程からこの場所に自分以外の人間はいない。ならば、声を掛けられたのは己だと、そう判断したのだ。
振り返ると、蜂蜜のような甘ったるい色をしたふわふわした髪の毛に、碧い大きな瞳をした美しい令嬢が立っていた。覚えのある顔だ。
「ミンディ様」
「あら、覚えて下さっていたのね。光栄ですわ」
そう言ってミンディの唇がゆっくりと弧を描く。
ミンディはシェイラと共に、サイラスの妃教育に呼ばれていた令嬢の一人だ。当時の宰相の孫娘で、侯爵令嬢。その家柄もさることながら、愛らしい顔立ちや利発さ、物怖じしない性格から、妃候補の筆頭とされていた。
「もちろん、覚えていますわ」
「そう? あなたはわたくしのことなんて、眼中にないと思っていましたのよ」
シェイラの返答を受け、ミンディは口元をそっと扇で隠す。彼女が何を思ってそんなことを言っているのか、シェイラにはしかと判じられない。首を傾げていると、ミンディは小さく嘆息した。
「相変わらず社交はお好きじゃないの?」
「いえ。ただ、今はあまり気乗りしないので……」
「ダメよ、そんなことじゃ。王太子妃ともなれば、そんな甘えたことを言ってられませんわよ」
ミンディはまるで妃教育の講師の如く、ピシャリとそう言い放つ。けれどシェイラは目を丸くすると、小さく首を横に振った。
「わたくしが王太子妃になることはあり得ませんもの」
「――――あり得ない?」
ミンディがピクリと眉間に皺を寄せる。
立ち話も何だからと、二人して側にあったテラス席へと腰掛けた。ミンディはその間唇を尖らせ、何度も何度も、シェイラのことを不服気に見遣る。
「……あの、ミンディ様。ミンディ様はわたくしが妃教育を辞した理由を、なんと聞いていらっしゃいますか?」
シェイラは思わずそう尋ねた。城に行かなくなった後のことは父に任せていたので、今日に至るまで何も知らない。ミンディを含めた他の候補者達がシェイラがいなくなったことをどのように捉えたのか、知りたくなったのだ。
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