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3.おまえじゃ、ダメだ
3.タイムリミットと命令(1)
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(断られてしまったな……)
サイラスは自室で、鬱々とした感情を持て余していた。
彼の悩みの種は専ら、六年ぶりに再会を果たしたシェイラのことだ。
シェイラは彼の妃候補として集められた数人の令嬢の内の一人で、幼い内から大層利発な、美しい少女だった。他の令嬢のように『自分が自分が』と出しゃばらず、かといって黙って控えているわけでもない。誰かを蹴落とすことではなく、自分を磨くことこそ肝要と心得ている子どもなどそうはいないと、講師たちからも高評価を得ていた。
けれど、サイラスが何よりも気に入っていたのは、彼女の穏やかで優しい人となりだった。
サイラスにとって、妃候補たちと交流を深めることは、父と母から課された課題だった。幼いサイラスは『自分から話題を振らなければ』『令嬢達を退屈させてはいけない』と、年齢に似合わぬ悩みを抱えていた。妃候補たちは皆、前のめりにサイラスに近づこうとするし、尚更肩に力が入る。
けれど、シェイラはそんなサイラスのことを労わり、ただ二人、静かに過ごすことを許してくれた。気の利いたことを言えずとも、己の本当にしたい話題を振っても、がっかりした表情を浮かべない。そのことにサイラスはとても救われていた。
幼いサイラスが、シェイラを妃として望むようになるまで、そう時間は掛からなかった。父親にもそんな彼の意向を伝えようとした矢先、シェイラはぱたりと城に来なくなった。聞けばある日、とある課題を受けた後で忽然と姿を消し、以降城に来ることを拒んでいるのだという。
『シェイラに何かあったのかもしれない』
サイラスはシェイラに会いに行こうと試みた。けれど、すぐに父親から止められた。幼い王子の身分では、簡単に城外に出ることも許されない。手引きをしてくれるような人間もいなかった。皆、サイラスの身を心配したからだ。
シェイラの父親を呼び、事情を聞きもしたが、彼は口を濁すばかりだった。時折、サイラスを咎めるような表情を浮かべていたことが妙に印象的で。そのことを指摘してみても、彼は口を割りはしない。婚約の意向を伝えてみても『畏れ多い』と口にし首を横に振るばかりで、とても話にならなかった。
代わりにサイラスは手紙を書いた。まだ拙い文字で。何度も何度も、シェイラに手紙を書いた。けれど、一度だってシェイラから返事が来ることは無かった。
『シェイラ様のことはもう、お忘れください』
当時のお目付け役は、サイラスにそう諭した。シェイラが妃候補として城に戻ってくることは無い。そう伝えたが、サイラスは頑なだった。
それは幼さ故の固執だったのかもしれない。けれど、どれだけ月日が経っても、サイラスがシェイラを忘れることは無かった。
サイラスの意向を受けて、妃教育は打ち切られた。令嬢たちは皆、釈然としない表情を浮かべていたが、シェイラと婚約が結べない以上、結果が伴わないのは致し方ない。『あとは成長した後に適性を見極める』とだけ伝え、それで全てが終わった。
サイラスは自室で、鬱々とした感情を持て余していた。
彼の悩みの種は専ら、六年ぶりに再会を果たしたシェイラのことだ。
シェイラは彼の妃候補として集められた数人の令嬢の内の一人で、幼い内から大層利発な、美しい少女だった。他の令嬢のように『自分が自分が』と出しゃばらず、かといって黙って控えているわけでもない。誰かを蹴落とすことではなく、自分を磨くことこそ肝要と心得ている子どもなどそうはいないと、講師たちからも高評価を得ていた。
けれど、サイラスが何よりも気に入っていたのは、彼女の穏やかで優しい人となりだった。
サイラスにとって、妃候補たちと交流を深めることは、父と母から課された課題だった。幼いサイラスは『自分から話題を振らなければ』『令嬢達を退屈させてはいけない』と、年齢に似合わぬ悩みを抱えていた。妃候補たちは皆、前のめりにサイラスに近づこうとするし、尚更肩に力が入る。
けれど、シェイラはそんなサイラスのことを労わり、ただ二人、静かに過ごすことを許してくれた。気の利いたことを言えずとも、己の本当にしたい話題を振っても、がっかりした表情を浮かべない。そのことにサイラスはとても救われていた。
幼いサイラスが、シェイラを妃として望むようになるまで、そう時間は掛からなかった。父親にもそんな彼の意向を伝えようとした矢先、シェイラはぱたりと城に来なくなった。聞けばある日、とある課題を受けた後で忽然と姿を消し、以降城に来ることを拒んでいるのだという。
『シェイラに何かあったのかもしれない』
サイラスはシェイラに会いに行こうと試みた。けれど、すぐに父親から止められた。幼い王子の身分では、簡単に城外に出ることも許されない。手引きをしてくれるような人間もいなかった。皆、サイラスの身を心配したからだ。
シェイラの父親を呼び、事情を聞きもしたが、彼は口を濁すばかりだった。時折、サイラスを咎めるような表情を浮かべていたことが妙に印象的で。そのことを指摘してみても、彼は口を割りはしない。婚約の意向を伝えてみても『畏れ多い』と口にし首を横に振るばかりで、とても話にならなかった。
代わりにサイラスは手紙を書いた。まだ拙い文字で。何度も何度も、シェイラに手紙を書いた。けれど、一度だってシェイラから返事が来ることは無かった。
『シェイラ様のことはもう、お忘れください』
当時のお目付け役は、サイラスにそう諭した。シェイラが妃候補として城に戻ってくることは無い。そう伝えたが、サイラスは頑なだった。
それは幼さ故の固執だったのかもしれない。けれど、どれだけ月日が経っても、サイラスがシェイラを忘れることは無かった。
サイラスの意向を受けて、妃教育は打ち切られた。令嬢たちは皆、釈然としない表情を浮かべていたが、シェイラと婚約が結べない以上、結果が伴わないのは致し方ない。『あとは成長した後に適性を見極める』とだけ伝え、それで全てが終わった。
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