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3.おまえじゃ、ダメだ

1.雲の上の人(1)

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 式典の最中、シェイラは密かに息を呑んだ。
 太陽の光を集めたようなブロンドに、鮮やかな金色の瞳。快活な笑みを浮かべ、堂々と皆に語り掛けるサイラス――――この国の王太子殿下――――は、幼い日のシェイラの記憶のままのように思える。


(ううん。身長、すごく大きくなられた。声もあの頃と全然違う)


 けれど、六年の月日というのは大きい。シェイラと同じか、彼女より少し低いぐらいだったサイラスの身長は、今は頭一つ分大きく成長しているし、声だって可愛らしい少女のようだったのが、今や立派な大人の男性の声だ。


(すっかり雲の上の存在になってしまったわね)


 遠く壇上に立つサイラスを見つめながら、シェイラは密かに息を吐く。サイラスの笑顔を見ると、胸の古傷が疼き出す。もう二度と、彼と関わることは無い。そうと分かっているのに、切なさを覚えてしまうのだ。
 けれどその時、ふとサイラスがこちらを見た。彼の瞳はゆっくりと細められ、唇は穏やかに弧を描く。まるでシェイラに向かって穏やかに微笑んでいるように見える。


(勘違いしちゃダメ)


 胸が締め付けられるような感覚を覚えながら、シェイラはそっと視線を逸らした。サイラスがシェイラを見て微笑むことなんてあり得ない。そんな夢のような願望を抱いた所で、良いことなど一つもないというのに。幼い日の自分を戒めるかのような気持ちで、シェイラはそっと目を伏せた。


 六年前、シェイラはサイラスの妃候補の一人として、城に出入りしていた。幼い内に、妃としての適性を持つものを炙り出したいという王家の意向だ。
 シェイラは古くから存在する伯爵家の令嬢――――それだけが理由で、候補に数えられていた。周りは皆、宰相の孫だとかサイラスの父親の側近の娘ばかりで固められていた。シェイラなど、最初からお呼びではなかったのだ。

 けれどシェイラは、そんなこととは露知らず、毎日楽しく王城に通っていた。礼儀作法だろうが歴史だろうが、知らないことを習うことは楽しかった。講義中、もっと詳細を知りたいと質問を重ねると、講師たちは皆、驚いた表情でシェイラを見つめた。今思えば「そんなことも知らないのか」と、そう思われていたのだろう。だから、シェイラはあの時のことを思い返すたび、居た堪れない気持ちになる。


『シェイラ!』


 頭の中に、幼いサイラスの声が木霊する。あの頃、講義が終わるといつも、サイラスはシェイラをお茶に誘ってくれた。始めの頃は他の令嬢も一緒だったのが、次第にシェイラとサイラスの二人きりに変わっていった。妃になり得ないシェイラといる方が、他の令嬢と過ごすよりも心安かったのだろう。シェイラとしても、優しくて博識なサイラスと過ごすことは、何事にも代えがたい楽しいひと時だった。

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