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2.元傾国の悪女は、平凡な今世を熱望する
4.危うきに近寄るべからず(1)
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殿下とわたしの関係は大きく変わることなく、数週間が経過した。
相変わらずちょっかい掛けられたり、時に熱い眼差しを向けられたりするけど、生徒会の仕事が本格的に忙しくなって、そもそも二人きりになる機会が激減したっていうのが大きな要因だったりする。
(まぁ、殿下が忙しい理由はそれだけじゃないけど)
学園祭の最終日にある後夜祭。彼のパートナーに選ばれたい令嬢方が引っ切り無しに声をかけてくるため、殿下は学園内を逃げ回っていた。
生徒会室なんて場所に留まっていたら、あっという間に呼び出されてしまい、わたしたちまで仕事にならない。
だから殿下は、日毎に教室を変えて、そこから指令を飛ばしていた。
そんなまどろっこしいことをしているため、どうやったって仕事は遅れる。ダンスの相手を務めたぐらいで将来が決まる訳じゃないんだし、殿下には早くパートナーを決めてほしいと思っていた。
(無難に公爵令嬢辺りを選んでおけば良いのに)
誰からも文句の出づらい相手、と考えれば、身分の高い令嬢が一番だ。殿下の取り巻きの中にも、そういう身分の女性がいたはずで。けれど、昨日まで逃げ回っていたところを見ると、どうやらまだお相手は決まっていないらしい。
(どうする気なんだろう? もう後夜祭当日なのに)
生徒会長である殿下が後夜祭をパスすることは不可能だ。在校生の八割が貴族という影響もあり、後夜祭はダンスで締められる。体面を考えたら、彼にパートナーが不在っていうのは無理だろう。そういうことを考えると、胸の辺りがモヤモヤする。
「忙しそうだね、ザラ」
そんなわたしに声を掛けてきたのは、幼馴染のオースティンだった。
学園祭の最終日だけあって、生徒会の面々は忙しく学園内を駆け回っている。わたしも魔法で伝令を飛ばしつつ、あちこち動き回っていた。
「そうなの。殿下の人使いが荒くて」
こんなこと、貴族科の連中に聞かれたら問題だけど、相手はオースティンだ。声を潜めてそう伝えると、オースティンは小さく笑いながら、わたしの頭を撫でた。
「良かった、安心したよ。ザラも殿下に感化されてるんじゃないかなぁって心配してたんだけど、杞憂だったね」
オースティンはそう言って穏やかに微笑む。
(ん? 何を心配することがあるのだろう?)
そんなことを考えながら、わたしはそっと首を傾げる。
オースティンはわたしに対して恋情を抱いている様子はなかったし、ただの気の合う幼馴染だ。
わたし自身はオースティンに対して、『平凡な結婚ができる相手ナンバーワン』ぐらいの認識は抱いていたものの、何故だか今は、そこに何の魅力も感じない。
だけど変なの。
オースティンだって、わたしが生徒会に入ることが決まった時、将来に繋がるだなんだと喜んでくれた筈なのに。
そんなわたしの疑問が伝わったのか、オースティンは小さく首を傾げた。
「……良いかい、ザラ。今日の20時――――後夜祭の終わりを告げるベルが鳴る迄の間に、学園の外に出るんだ」
「……え?」
オースティンはそんなことを囁いてから、満面の笑みを浮かべる。
相変わらずちょっかい掛けられたり、時に熱い眼差しを向けられたりするけど、生徒会の仕事が本格的に忙しくなって、そもそも二人きりになる機会が激減したっていうのが大きな要因だったりする。
(まぁ、殿下が忙しい理由はそれだけじゃないけど)
学園祭の最終日にある後夜祭。彼のパートナーに選ばれたい令嬢方が引っ切り無しに声をかけてくるため、殿下は学園内を逃げ回っていた。
生徒会室なんて場所に留まっていたら、あっという間に呼び出されてしまい、わたしたちまで仕事にならない。
だから殿下は、日毎に教室を変えて、そこから指令を飛ばしていた。
そんなまどろっこしいことをしているため、どうやったって仕事は遅れる。ダンスの相手を務めたぐらいで将来が決まる訳じゃないんだし、殿下には早くパートナーを決めてほしいと思っていた。
(無難に公爵令嬢辺りを選んでおけば良いのに)
誰からも文句の出づらい相手、と考えれば、身分の高い令嬢が一番だ。殿下の取り巻きの中にも、そういう身分の女性がいたはずで。けれど、昨日まで逃げ回っていたところを見ると、どうやらまだお相手は決まっていないらしい。
(どうする気なんだろう? もう後夜祭当日なのに)
生徒会長である殿下が後夜祭をパスすることは不可能だ。在校生の八割が貴族という影響もあり、後夜祭はダンスで締められる。体面を考えたら、彼にパートナーが不在っていうのは無理だろう。そういうことを考えると、胸の辺りがモヤモヤする。
「忙しそうだね、ザラ」
そんなわたしに声を掛けてきたのは、幼馴染のオースティンだった。
学園祭の最終日だけあって、生徒会の面々は忙しく学園内を駆け回っている。わたしも魔法で伝令を飛ばしつつ、あちこち動き回っていた。
「そうなの。殿下の人使いが荒くて」
こんなこと、貴族科の連中に聞かれたら問題だけど、相手はオースティンだ。声を潜めてそう伝えると、オースティンは小さく笑いながら、わたしの頭を撫でた。
「良かった、安心したよ。ザラも殿下に感化されてるんじゃないかなぁって心配してたんだけど、杞憂だったね」
オースティンはそう言って穏やかに微笑む。
(ん? 何を心配することがあるのだろう?)
そんなことを考えながら、わたしはそっと首を傾げる。
オースティンはわたしに対して恋情を抱いている様子はなかったし、ただの気の合う幼馴染だ。
わたし自身はオースティンに対して、『平凡な結婚ができる相手ナンバーワン』ぐらいの認識は抱いていたものの、何故だか今は、そこに何の魅力も感じない。
だけど変なの。
オースティンだって、わたしが生徒会に入ることが決まった時、将来に繋がるだなんだと喜んでくれた筈なのに。
そんなわたしの疑問が伝わったのか、オースティンは小さく首を傾げた。
「……良いかい、ザラ。今日の20時――――後夜祭の終わりを告げるベルが鳴る迄の間に、学園の外に出るんだ」
「……え?」
オースティンはそんなことを囁いてから、満面の笑みを浮かべる。
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