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2.元傾国の悪女は、平凡な今世を熱望する
3.ザラの意思(3)
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腕に力を込めながら、殿下はそんなことを言う。
「……分かりませんよ、そんなこと。わたしには分からないんです」
答えながら胸の辺りがジクジクと熱くなる。
分からないなんて、本当は嘘。
口調とか、態度とか、色々と裏の多い殿下だけど、根は誠実な人間だ。仕事ぶりは至って真面目だし、色々と無茶ぶりも多いけど、何だかんだで側近やわたしのことを労わってくれる。
あれだけ女の子たちに言い寄られたら、一人や二人、お気に入りの子と遊んでいたって良いと思うのに、そうはしない。
そんな殿下がわたしに何を求めているのか、分からない程馬鹿じゃない。
だけど、わたしにだって譲れないものがある。
「嘘吐くな! おまえだって、少しぐらいは俺のこと――――」
「わたしは……わたしはもう二度と、あんな想いをしたくないんです! わたしのせいで人が死んで、わたしのせいで土地が、自然が、色んなものが踏み荒らされて! ごめんなさい、ごめんなさいって! 何度叫んでも誰にも届かなくて! 火炙りになったところで誰も許してくれなくて! 全部わたしのせいで――――」
「ザラは何も悪くない」
殿下の言葉にわたしは思わず顔を上げる。彼の青い瞳は淀みなく澄んでいて、心が大きく揺さぶられた。
「悪いのはおまえじゃなくて、おまえを幸せにできなかったバカ男共だろ?」
殿下はそう言って、いつの間にか零れ落ちたわたしの涙をそっと拭った。涙で曇ってしまったわたしの眼鏡を外しながら、殿下は眉間に皺を寄せる。
「おまえは確かに、国が荒れるキッカケを作ったのかもしれない。避けられなかったのか……そう考えてしまう気持ちも分かる。
だけど、悪いのは全部おまえじゃない。おまえの声を聞かなかった、おまえを守ろうとしなかった皇族だ。おまえを利用して戦を仕掛けた官僚どもだ。
生まれ変わってまで背負うようなこと、おまえは何もしていないだろう?」
「…………っ!」
殿下の物言いはどこかぶっきら棒だけど、真っ直ぐで嘘が無い。ささくれだった心が満たされていく。
きっとわたしは誰かに『悪いのはおまえじゃない』って、ずっと言って欲しかったんだと思う。
だけど、誰もわたしの気持ちなんて分かってくれなくて。どう思っているのか聞いてすらくれなくて。
どうしたら良かったんだろう。どうしたら他の人を不幸にせず済んだんだろう。どうしたら――――わたしは幸せになれたんだろう。そんな風に考えて、いつも苦しかった。
「うん」
気づいたらわたしは頷いていた。ずっと溜まっていたものが涙に形を変えて、ポロポロと止め処なく流れ落ちる。
殿下の胸に顔を埋めながら、わたしは目を瞑った。ジャケットに染みができちゃうな、とか色々と思うことはあったけど、どうしてもそうしたくて。
少しだけ、ほんの少しだけだけど、自分らしく生きてみたいって、そんな欲が芽生えていくのを感じながら、わたしは殿下に縋りついた。
「……分かりませんよ、そんなこと。わたしには分からないんです」
答えながら胸の辺りがジクジクと熱くなる。
分からないなんて、本当は嘘。
口調とか、態度とか、色々と裏の多い殿下だけど、根は誠実な人間だ。仕事ぶりは至って真面目だし、色々と無茶ぶりも多いけど、何だかんだで側近やわたしのことを労わってくれる。
あれだけ女の子たちに言い寄られたら、一人や二人、お気に入りの子と遊んでいたって良いと思うのに、そうはしない。
そんな殿下がわたしに何を求めているのか、分からない程馬鹿じゃない。
だけど、わたしにだって譲れないものがある。
「嘘吐くな! おまえだって、少しぐらいは俺のこと――――」
「わたしは……わたしはもう二度と、あんな想いをしたくないんです! わたしのせいで人が死んで、わたしのせいで土地が、自然が、色んなものが踏み荒らされて! ごめんなさい、ごめんなさいって! 何度叫んでも誰にも届かなくて! 火炙りになったところで誰も許してくれなくて! 全部わたしのせいで――――」
「ザラは何も悪くない」
殿下の言葉にわたしは思わず顔を上げる。彼の青い瞳は淀みなく澄んでいて、心が大きく揺さぶられた。
「悪いのはおまえじゃなくて、おまえを幸せにできなかったバカ男共だろ?」
殿下はそう言って、いつの間にか零れ落ちたわたしの涙をそっと拭った。涙で曇ってしまったわたしの眼鏡を外しながら、殿下は眉間に皺を寄せる。
「おまえは確かに、国が荒れるキッカケを作ったのかもしれない。避けられなかったのか……そう考えてしまう気持ちも分かる。
だけど、悪いのは全部おまえじゃない。おまえの声を聞かなかった、おまえを守ろうとしなかった皇族だ。おまえを利用して戦を仕掛けた官僚どもだ。
生まれ変わってまで背負うようなこと、おまえは何もしていないだろう?」
「…………っ!」
殿下の物言いはどこかぶっきら棒だけど、真っ直ぐで嘘が無い。ささくれだった心が満たされていく。
きっとわたしは誰かに『悪いのはおまえじゃない』って、ずっと言って欲しかったんだと思う。
だけど、誰もわたしの気持ちなんて分かってくれなくて。どう思っているのか聞いてすらくれなくて。
どうしたら良かったんだろう。どうしたら他の人を不幸にせず済んだんだろう。どうしたら――――わたしは幸せになれたんだろう。そんな風に考えて、いつも苦しかった。
「うん」
気づいたらわたしは頷いていた。ずっと溜まっていたものが涙に形を変えて、ポロポロと止め処なく流れ落ちる。
殿下の胸に顔を埋めながら、わたしは目を瞑った。ジャケットに染みができちゃうな、とか色々と思うことはあったけど、どうしてもそうしたくて。
少しだけ、ほんの少しだけだけど、自分らしく生きてみたいって、そんな欲が芽生えていくのを感じながら、わたしは殿下に縋りついた。
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