33 / 88
2.元傾国の悪女は、平凡な今世を熱望する
3.ザラの意思(1)
しおりを挟む
(あぁーーーー、まずったなぁ)
広い生徒会室の中、妙に狭苦しい思いをしながら、わたしは深々とため息と吐く。
あの日から殿下は、これまで以上にわたしに絡んでくるようになった。
生徒会室内だけならまだしも、校舎でも、令嬢たちに囲まれていても、どこでもここでも声を掛けてくる。おまけに、ストーカーでもされてるんじゃないかってぐらいに粘着質だし神出鬼没。これじゃ気が休まる暇がない。鬱陶しいっていうか、正直言って困る。
『ザラ!』
普段とは違う、キラキラした笑顔で笑いかけてくる殿下を見ると、身体中がゾワゾワとむず痒い。おまけに彼との結婚を狙う貴族の令嬢方の般若みたいな表情が、前世の嫌~~な記憶を呼び起こした。
『生徒会室以外で声を掛けないで下さいとお願いしましたよね、わたし』
わたしの頭を撫でようとする殿下から距離を取りつつ、小さな声で抗議する。令嬢方の刺すような視線が痛い。早くこの場から立ち去りたくて、わたしは目を吊り上げた。
『悪いな、自分の気持ちに正直に動いたらこうなった』
なのに、殿下はそんなことを口にしつつ、耳元で笑うのだから腹立たしい。
これまで殿下は、自分から女性に声を掛けることが殆どなかった。それこそが、貴族の令嬢方が『自分にもまだ可能性はある』と思える心の拠り所だったらしい。
だから、わたしみたいな貴族ですらないただの魔女が、殿下に声を掛けられることを快く思う人間なんて一人もいなかった。
そりゃぁ周りは皆、わたしが生徒会に属していることを知っている。それが、殿下がわたしに声を掛ける唯一の理由なんだって。
けれど、それでも女性は嫉妬をする生き物らしい。憎悪の念を感じる度、寒気がした。
(ダメだ……このままじゃ前世の二の舞だ)
過去、後宮内で他の妃たちに向けられた嫉妬は、今の比ではない。
だけど、嫉妬なんて醜い感情、向けられずに過ごした方が断然幸せだ。世の中には、羨望の眼差しを快感に思う人もいるらしいけど、少なくともわたしは違う。
(殿下のクソ野郎。わたしが平凡に暮らしたいって知ってる癖に)
心の中で、とても人には聞かせられない悪態を吐きまくる。
とはいえ、本当に迷惑極まりないので、黙って我慢を続けるわけにもいかない。
エルヴィス殿下には、もう一度、わたしの望みを正しく理解してもらう必要がある。
そう思っているのだけど。
「セクハラは止めてください。訴えますよ」
「――――そんなことしたら、ザラの方が不敬扱いされるぞ」
放課後の生徒会室。
側近たちが不在なのを良いことに、殿下は今日もわたしの隣に腰掛け、頬っぺたや耳たぶを指先でそっと撫でている。まるで宝物を愛でるかのような手つき。何だか癪で、わたしは殿下の手を押しのけた。
広い生徒会室の中、妙に狭苦しい思いをしながら、わたしは深々とため息と吐く。
あの日から殿下は、これまで以上にわたしに絡んでくるようになった。
生徒会室内だけならまだしも、校舎でも、令嬢たちに囲まれていても、どこでもここでも声を掛けてくる。おまけに、ストーカーでもされてるんじゃないかってぐらいに粘着質だし神出鬼没。これじゃ気が休まる暇がない。鬱陶しいっていうか、正直言って困る。
『ザラ!』
普段とは違う、キラキラした笑顔で笑いかけてくる殿下を見ると、身体中がゾワゾワとむず痒い。おまけに彼との結婚を狙う貴族の令嬢方の般若みたいな表情が、前世の嫌~~な記憶を呼び起こした。
『生徒会室以外で声を掛けないで下さいとお願いしましたよね、わたし』
わたしの頭を撫でようとする殿下から距離を取りつつ、小さな声で抗議する。令嬢方の刺すような視線が痛い。早くこの場から立ち去りたくて、わたしは目を吊り上げた。
『悪いな、自分の気持ちに正直に動いたらこうなった』
なのに、殿下はそんなことを口にしつつ、耳元で笑うのだから腹立たしい。
これまで殿下は、自分から女性に声を掛けることが殆どなかった。それこそが、貴族の令嬢方が『自分にもまだ可能性はある』と思える心の拠り所だったらしい。
だから、わたしみたいな貴族ですらないただの魔女が、殿下に声を掛けられることを快く思う人間なんて一人もいなかった。
そりゃぁ周りは皆、わたしが生徒会に属していることを知っている。それが、殿下がわたしに声を掛ける唯一の理由なんだって。
けれど、それでも女性は嫉妬をする生き物らしい。憎悪の念を感じる度、寒気がした。
(ダメだ……このままじゃ前世の二の舞だ)
過去、後宮内で他の妃たちに向けられた嫉妬は、今の比ではない。
だけど、嫉妬なんて醜い感情、向けられずに過ごした方が断然幸せだ。世の中には、羨望の眼差しを快感に思う人もいるらしいけど、少なくともわたしは違う。
(殿下のクソ野郎。わたしが平凡に暮らしたいって知ってる癖に)
心の中で、とても人には聞かせられない悪態を吐きまくる。
とはいえ、本当に迷惑極まりないので、黙って我慢を続けるわけにもいかない。
エルヴィス殿下には、もう一度、わたしの望みを正しく理解してもらう必要がある。
そう思っているのだけど。
「セクハラは止めてください。訴えますよ」
「――――そんなことしたら、ザラの方が不敬扱いされるぞ」
放課後の生徒会室。
側近たちが不在なのを良いことに、殿下は今日もわたしの隣に腰掛け、頬っぺたや耳たぶを指先でそっと撫でている。まるで宝物を愛でるかのような手つき。何だか癪で、わたしは殿下の手を押しのけた。
0
お気に入りに追加
415
あなたにおすすめの小説
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
始まりはよくある婚約破棄のように
メカ喜楽直人
恋愛
「ミリア・ファネス公爵令嬢! 婚約者として10年も長きに渡り傍にいたが、もう我慢ならない! 父上に何度も相談した。母上からも考え直せと言われた。しかし、僕はもう決めたんだ。ミリア、キミとの婚約は今日で終わりだ!」
学園の卒業パーティで、第二王子がその婚約者の名前を呼んで叫び、周囲は固唾を呑んでその成り行きを見守った。
ポンコツ王子から一方的な溺愛を受ける真面目令嬢が涙目になりながらも立ち向い、けれども少しずつ絆されていくお話。
第一章「婚約者編」
第二章「お見合い編(過去)」
第三章「結婚編」
第四章「出産・育児編」
第五章「ミリアの知らないオレファンの過去編」連載開始
貴方に私は相応しくない【完結】
迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。
彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。
天使のような無邪気な笑みで愛を語り。
彼は私の心を踏みにじる。
私は貴方の都合の良い子にはなれません。
私は貴方に相応しい女にはなれません。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる