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2.元傾国の悪女は、平凡な今世を熱望する
2.幸せの必要条件(3)
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「その類まれな美貌のせいで、自分でもよく分からないうちに皇帝とその弟に見初められまして。おまけにわたしを巡るって大義の元に、皇帝派と皇弟派の間で戦争が起こったんです。
当然、そんな訳の分かんない理由で戦争が起こったもんだから、民はカンカンで。
なんやかんやあった後、戦争の原因を作ったわたしが戦犯として処刑された――――っていうのが前世のわたしの人生でした」
言葉にしつつ、なんて滑稽な話だろうって自分でも笑えて来る。
「――――なぁ、それのどこが『悪女』なわけ?」
けれど殿下は、何とも言えない表情を浮かべつつ、そっと首を傾げた。
「そんなこと、当事者のわたしに聞かないでください。周りがそう呼んでたってだけで、寧ろわたしの方が理由を知りたいぐらいなんですから――――っと!」
答える最中、殿下がわたしの眼鏡をヒョイッと取り上げる。視界を遮るものがなくなって、何だかとても落ち着かない。心臓の辺りがジリジリと焼ける感覚がした。
(……殿下の目には、わたしはどんな風に見えてるんだろう)
魔法で作り上げた『平凡な』わたし? それとも、国を傾けた悪女としてのわたしだろうか。
だけど、どうしてそんなことが気になるんだろう。何だか気まずくなって、わたしはそっと殿下から目を背けた。
「ふぅん、それで? 現世ではそんな波乱万丈は嫌だから、目立たないようにしてたってわけ?」
「……そういうことです。平凡な人間として生きて、そんな自分に見合った人と付き合って、穏やかに人生を終える。そのために、わたしは平凡な自分を演出しています。人並の幸せが欲しいから」
殿下に取り上げられた伊達眼鏡を奪い返しつつ、わたしは大きなため息を吐く。
だからこそ、わたしはこの男に関わりたくはなかった。
殿下や貴族がわたしに興味を持つとか、そのせいでまた国が傾くなんて考えるのは、ただの思い上がりなのかもしれない。
けれど、背負うリスクは最小限に留めたい。危うきに近寄らないことが一番大事だって、わたしは身を以て知っていた。
「……逆に聞きますけど、殿下こそ、どうして猫を被っているんですか?」
気づけば殿下は眼鏡だけじゃ飽き足らず、わたしの髪の毛を弄くりだしていた。せっかくキッチリ三つ編みにしていたのに、解けてしまって台無しだ。思わず唇を尖らせれば、殿下は不敵な笑みを浮かべる。
「そんなの、簡単だろう? 『完璧な王子様』って奴を周りが求めるからだよ」
殿下はそう言って、わたしの髪の先にチュッと口付けた。
それは『完璧な王子様』としての仕草なのか、はたまた『俺様王子』としての行為なのか。わたしには判断が付かない。心臓が小さく揺れた。
「……自分で『完璧』とか言っちゃいます?」
動揺を誤魔化すように笑いながら、わたしは殿下を見上げた。
当然、そんな訳の分かんない理由で戦争が起こったもんだから、民はカンカンで。
なんやかんやあった後、戦争の原因を作ったわたしが戦犯として処刑された――――っていうのが前世のわたしの人生でした」
言葉にしつつ、なんて滑稽な話だろうって自分でも笑えて来る。
「――――なぁ、それのどこが『悪女』なわけ?」
けれど殿下は、何とも言えない表情を浮かべつつ、そっと首を傾げた。
「そんなこと、当事者のわたしに聞かないでください。周りがそう呼んでたってだけで、寧ろわたしの方が理由を知りたいぐらいなんですから――――っと!」
答える最中、殿下がわたしの眼鏡をヒョイッと取り上げる。視界を遮るものがなくなって、何だかとても落ち着かない。心臓の辺りがジリジリと焼ける感覚がした。
(……殿下の目には、わたしはどんな風に見えてるんだろう)
魔法で作り上げた『平凡な』わたし? それとも、国を傾けた悪女としてのわたしだろうか。
だけど、どうしてそんなことが気になるんだろう。何だか気まずくなって、わたしはそっと殿下から目を背けた。
「ふぅん、それで? 現世ではそんな波乱万丈は嫌だから、目立たないようにしてたってわけ?」
「……そういうことです。平凡な人間として生きて、そんな自分に見合った人と付き合って、穏やかに人生を終える。そのために、わたしは平凡な自分を演出しています。人並の幸せが欲しいから」
殿下に取り上げられた伊達眼鏡を奪い返しつつ、わたしは大きなため息を吐く。
だからこそ、わたしはこの男に関わりたくはなかった。
殿下や貴族がわたしに興味を持つとか、そのせいでまた国が傾くなんて考えるのは、ただの思い上がりなのかもしれない。
けれど、背負うリスクは最小限に留めたい。危うきに近寄らないことが一番大事だって、わたしは身を以て知っていた。
「……逆に聞きますけど、殿下こそ、どうして猫を被っているんですか?」
気づけば殿下は眼鏡だけじゃ飽き足らず、わたしの髪の毛を弄くりだしていた。せっかくキッチリ三つ編みにしていたのに、解けてしまって台無しだ。思わず唇を尖らせれば、殿下は不敵な笑みを浮かべる。
「そんなの、簡単だろう? 『完璧な王子様』って奴を周りが求めるからだよ」
殿下はそう言って、わたしの髪の先にチュッと口付けた。
それは『完璧な王子様』としての仕草なのか、はたまた『俺様王子』としての行為なのか。わたしには判断が付かない。心臓が小さく揺れた。
「……自分で『完璧』とか言っちゃいます?」
動揺を誤魔化すように笑いながら、わたしは殿下を見上げた。
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