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1.そのままの君が好きだよ
10.そのままの君が好きだよ(1)
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「怖い思いをさせてすまなかった。まさか兄上が会場に忍び込んでいるとは思わなかったんだ」
サムエレ様はあれから何度も、すまないと繰り返した。わたくしの肩を擦りながら、苦し気な表情を浮かべる彼に、何だかこちらまで申し訳なくなる。
「いいえ。サムエレ様が悪いわけじゃございませんわ」
悪いのは全て、ジャンルカ殿下だ。そう答えるわたくしに、彼は首を横に振った。
「兄上は焦っていたんだ。父上の提示したタイムリミットが迫っていたし、学園でディアーナと兄上が会わないよう、俺が裏でずっと手を回していたからね。
だからこそ兄上は、今夜この会場に忍び込んだ。
ここなら護衛達も表だって動きづらいし、ディアーナに近づく隙がある――――兄上にそう思わせてしまった。俺の落ち度だ。本当に申し訳ない」
そう言ってサムエレ様は大きく頭を下げた。今にも泣きだしそうな、そんな表情。けれどわたくしは、寧ろ穏やかな気分で、彼に向かってそっと微笑んだ。
「……サムエレ様はそうやってずっと、わたくしを守って下さっていたのですね」
言いながら、サムエレ様の手を握る。彼は小さく目を見開き、それから恥ずかしそうに顔を背けた。何だかとても嬉しくなって、わたくしはそっと身を乗り出した。
「サムエレ様……本当に、ありがとうございます。
わたくしの方こそごめんなさい。今までずっと、気づかなくて」
「いや……ディアーナに謝ってもらうようなことじゃない。全部俺が勝手にやっていたことだ。というか、その――――半分以上、自分のためにしていたことだから」
サムエレ様はそう言って、小さく唇を尖らせる。彼にしては珍しい、どこか子どもっぽい仕草だ。
(ご自分のため……ってどういうこと?)
そのまま黙って見つめていると、サムエレ様は観念したように、深々とため息を吐いた。
「俺はね……怖かったんだ」
「…………怖い?」
「ああ。兄上と会えばディアーナは……もう一度兄上と婚約したいと、そう言うんじゃないかと思って」
「……へ?」
その瞬間、わたくしは素っ頓狂な声を上げた。サムエレ様は気まずそうな表情で、わたくしのことを見つめている。
(本当に?)
サムエレ様が――――いつだって自信に満ち溢れ、明朗快活なあのサムエレ様が、わたくしのために心を揺らしている。
(わたくしがジャンルカ殿下ともう一度婚約するのが嫌だから)
そう思うだけで、身体の中心が恐ろしい程に熱くなった。
「だからね……俺はディアーナと兄上を、どうしても会わせたくなかったんだ」
そう言ってサムエレ様は顔を真っ赤に染め上げる。胸がキュンと疼き、心臓がドキドキと鳴り響いた。
「誤解です。わたくしは、ジャンルカ殿下のことはもう…………」
というより、最初からわたくしは、ジャンルカ殿下を想ってはいなかったのだと思う。婚約者だから――――次期国王だから、側に居ただけ。完全なる政略結婚だし、当然と言えば当然だけれど。
「うん……それは俺も分かっている。
だけど、婚約を破棄される前のディアーナは、兄上のことを憎からず想っていただろうし、もしかしたら今でも情が残っているんじゃないかって……そう思うと怖くて堪らなかったんだ」
サムエレ様の想いに、わたくしの心は大きく震える。彼はわたくしの顔をまじまじと覗き込むと、熱っぽく瞳を揺らした。
「幻滅した? 俺が、こんなズルい人間だって分かって」
サムエレ様の言葉に、首を大きく横に振る。彼はホッとしたように息を吐くと、わたくしの手をギュッと握り直した。その途端、手のひらが心臓になってしまったかのように、熱を帯びてドキドキと鳴る。
サムエレ様はあれから何度も、すまないと繰り返した。わたくしの肩を擦りながら、苦し気な表情を浮かべる彼に、何だかこちらまで申し訳なくなる。
「いいえ。サムエレ様が悪いわけじゃございませんわ」
悪いのは全て、ジャンルカ殿下だ。そう答えるわたくしに、彼は首を横に振った。
「兄上は焦っていたんだ。父上の提示したタイムリミットが迫っていたし、学園でディアーナと兄上が会わないよう、俺が裏でずっと手を回していたからね。
だからこそ兄上は、今夜この会場に忍び込んだ。
ここなら護衛達も表だって動きづらいし、ディアーナに近づく隙がある――――兄上にそう思わせてしまった。俺の落ち度だ。本当に申し訳ない」
そう言ってサムエレ様は大きく頭を下げた。今にも泣きだしそうな、そんな表情。けれどわたくしは、寧ろ穏やかな気分で、彼に向かってそっと微笑んだ。
「……サムエレ様はそうやってずっと、わたくしを守って下さっていたのですね」
言いながら、サムエレ様の手を握る。彼は小さく目を見開き、それから恥ずかしそうに顔を背けた。何だかとても嬉しくなって、わたくしはそっと身を乗り出した。
「サムエレ様……本当に、ありがとうございます。
わたくしの方こそごめんなさい。今までずっと、気づかなくて」
「いや……ディアーナに謝ってもらうようなことじゃない。全部俺が勝手にやっていたことだ。というか、その――――半分以上、自分のためにしていたことだから」
サムエレ様はそう言って、小さく唇を尖らせる。彼にしては珍しい、どこか子どもっぽい仕草だ。
(ご自分のため……ってどういうこと?)
そのまま黙って見つめていると、サムエレ様は観念したように、深々とため息を吐いた。
「俺はね……怖かったんだ」
「…………怖い?」
「ああ。兄上と会えばディアーナは……もう一度兄上と婚約したいと、そう言うんじゃないかと思って」
「……へ?」
その瞬間、わたくしは素っ頓狂な声を上げた。サムエレ様は気まずそうな表情で、わたくしのことを見つめている。
(本当に?)
サムエレ様が――――いつだって自信に満ち溢れ、明朗快活なあのサムエレ様が、わたくしのために心を揺らしている。
(わたくしがジャンルカ殿下ともう一度婚約するのが嫌だから)
そう思うだけで、身体の中心が恐ろしい程に熱くなった。
「だからね……俺はディアーナと兄上を、どうしても会わせたくなかったんだ」
そう言ってサムエレ様は顔を真っ赤に染め上げる。胸がキュンと疼き、心臓がドキドキと鳴り響いた。
「誤解です。わたくしは、ジャンルカ殿下のことはもう…………」
というより、最初からわたくしは、ジャンルカ殿下を想ってはいなかったのだと思う。婚約者だから――――次期国王だから、側に居ただけ。完全なる政略結婚だし、当然と言えば当然だけれど。
「うん……それは俺も分かっている。
だけど、婚約を破棄される前のディアーナは、兄上のことを憎からず想っていただろうし、もしかしたら今でも情が残っているんじゃないかって……そう思うと怖くて堪らなかったんだ」
サムエレ様の想いに、わたくしの心は大きく震える。彼はわたくしの顔をまじまじと覗き込むと、熱っぽく瞳を揺らした。
「幻滅した? 俺が、こんなズルい人間だって分かって」
サムエレ様の言葉に、首を大きく横に振る。彼はホッとしたように息を吐くと、わたくしの手をギュッと握り直した。その途端、手のひらが心臓になってしまったかのように、熱を帯びてドキドキと鳴る。
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