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1.そのままの君が好きだよ

8.天国から地獄へ(2)

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(さて、と)


 人混みを抜け、バルコニーで佇みながら、わたくしは小さく息を吐く。
 何だかとてつもなく幸せな夜だった。こんな気持ちでホールに立てる日が来るなんて、思ってもみなかったから。


(ジャンルカ殿下に婚約を破棄されて、良かったのかもしれない)


 星空を見上げながら、そんなことを考える。

 王太子妃になれなかったことについては、少しだけ残念に思う。そのために四年間、ありとあらゆる努力をしてきたし、犠牲にしたものも当然あるから。

 だけど、ジャンルカ殿下との婚約が破棄されて得たものの方が余程大きい。自分という人間を見直すことが出来たし、肩の力を抜くことが出来た。何より、サムエレ殿下とこんな風に親しくなれたことが嬉しくて堪らない。


(本当の所、殿下はわたくしのことを、どう思っているのだろう?)


 彼がくれた『可愛い』、や『好き』の言葉をどこまで素直に受け容れて良いものか、わたくしは未だに計りかねている。信じていた人に裏切られること――――それがどれ程辛いか、身に沁みて分かっているから。


(だけど)


 もしもサムエレ殿下の恋人になれたら、きっと物凄く幸せだと思う。温かく穏やかな気持ちに包まれて、笑顔の絶えない毎日を送れるだろう。そんな自分を想像するだけで、自然と笑みが零れてしまう。

 とはいえ、サムエレ殿下がわたくしとの関係を、どこまで真剣に考えていらっしゃるかも分からない。

 何と言ってもわたくしは、彼のお兄様であるジャンルカ殿下の元婚約者だ。そんなわたくしの手を取ることを、世間がどう思うかは分からない。だから、殿下とはこのままズルズルと付かず離れず……そんな関係に終始する可能性だって無くはないのだけど。


(それでも構わないわ)


 夜風がそっと頬を撫でる。少し肌寒いぐらいなのに、心がポカポカと温かい。
 サムエレ殿下の気持ちがどうあれ、わたくし自身の気持ちはもう誤魔化しようがない。他の誰にも抱いたことのない、特別な想い。それが、わたくしの中に確かに芽生え、すくすくと育っているのが分かった。


(殿下にお伝えしなければ)


 そう思うと、鼓動がトクントクンと速くなる。


「ディアーナ」


 けれどその時、わたくしの心は一気にどん底へと引き摺り降ろされた。ドクンドクンと嫌な音を立てて心臓が鳴る。サムエレ殿下によく似た、わたくしを呼ぶ声。怖くて振り返ることができずにいると、大きな手のひらがぐいとわたくしを引っ張った。


「ディアーナ」


 責めるような瞳が、わたくしを冷たく見下ろす。


「殿下」


 わたくしの元婚約者――――ジャンルカ殿下がそこにいた。 
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