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1.そのままの君が好きだよ

7.意識してほしい(1)

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 夜会の当日。サムエレ殿下は馬車に乗って、わたくしを迎えに来てくださった。
 クラシカルな黒い紳士服に、青色のクラバット、夜の闇と金に輝く彼の髪色のコントラストも相まって、何だかとても神々しい。


(すごい……素敵すぎる)


 そんなことを思いつつ、わたくしは努めて平静を装う。
 本当は心臓が飛び出しそうな程、ドキドキしていた。キッチリと着こなした正装や、いつもよりも強い香水のせいだろうか?同い年だというのに、色気がすごい。普段の爽やかな制服姿とは違った魅力がそこにはあった。


「綺麗だよ、ディアーナ。よく似合ってる。
今夜のドレスはこれまでの夜会で着ていたものと雰囲気が違うね。すごく……可愛いよ」


 そんなことを思っていると、サムエレ殿下はそう言って眩しそうに目を細めた。途端に胸がキュンと甘く疼く。頬のあたりで髪の毛をそっと掬われて、一気に思考が停止した。


(社交辞令……殿下にとってこれは社交辞令なのよ)


 心の中でそう唱えつつ、わたくしはそっと俯く。
 貴族社会において、社交辞令は基本中の基本。息を吸うぐらい当たり前に口にできなければならない。サムエレ殿下もそれを行動に移しただけだ。


(というか)


 そんな風に思っていないと、とてもじゃないけど冷静な自分に戻れない。殿下の一言でこんなにも舞い上がっている――――そんな自分が恥ずかしくて堪らなかった。


「本当に……可愛いよ、ディアーナ」


 けれど、殿下はもう一度、噛みしめるように言葉を重ねる。
 ふと顔を上げれば、サムエレ殿下は真剣な表情でわたくしを見つめていた。これを『ただの社交辞令』だと思いこむのは中々に難しい。


(こういう時、なんて返せば良いんだっけ)


 そんな当たり前のことすら分からなくなるほど、思考回路がおかしくなっている。胸の中で小さな火種が燃え上がって、心の中をチリチリと焼くような、そんな心地がする。チラリと殿下を見上げれば、彼はとても嬉しそうな表情で笑っていた。その瞬間、先程までの逡巡が嘘のように、ストンと言葉が降りてくる。


「あっ……ありがとうございます」


 素直にお礼を口にすれば、サムエレ殿下は更に嬉しそうに目を細めた。その表情に、何だかこちらまで嬉しくなってくる。


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