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1.そのままの君が好きだよ

6.嫌なわけがありません(2)

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 殿下は照れくさそうな笑みを浮かべ、わたくしの手を優しく握る。その瞬間、身体がぶわっと熱くなった。
 心臓が恐ろしい程に早鐘を打つ。殿下は真っ直ぐにわたくしのことを見つめていた。何かを乞うような熱い瞳に、血液が沸騰するような心地を覚える。


「ねぇ……どうしてか尋ねてくれないの?」

「…………ふぇっ? 一体、なにを……」


 情けないことに、素っ頓狂な声が漏れ出る。殿下は悪戯っぽい表情でわたくしの顔を覗き込みながら、手のひらを強く握りなおした。


「俺が兄上を羨ましく思っていた理由」


 そう言って殿下はわたくしの手のひらに、触れるだけの口付けをした。言葉にならない叫び声を上げ、わたくしの身体がビクリと跳ねる。


(嘘っ! いや……だけど…………えぇ⁉)


 パニックで思考が纏まらない。心も身体も全く制御ができなかった。目がクルクルと回る様な、身体が宙に浮かぶような心地がする。殿下はそんなわたくしのことを、真剣な表情で見つめていた。何か言わなきゃと思うのに、唇がちっとも動かない。


「嫌だった? 俺に触れられるの」


 殿下が不安気な表情で、そう尋ねる。わたくしは無意識に、首を横に振っていた。


「――――嫌じゃありません」


 答えながら、頬が真っ赤に染まっていく。淑女としてどうなのだろうと思わなくはないけど、それが事実なのだから仕方がない。


「良かった。……じゃぁ、俺の気持ちは?」


 そう言って殿下はもう一度、わたくしの顔を覗き込む。


「嫌? それとも嫌じゃない?」

(殿下の気持ち……)


 考えながら、心臓がドキドキと鳴り響いた。混乱でこんがらがったわたくしの頭の中を、殿下が少しずつ解きほぐしていく。けれどそれと同時に、別の何かがわたくしを侵食していくような、そんな心地がした。


「……嫌なわけがありません」


 答えつつ、わたくしはそっと顔を逸らす。
 これ以上、殿下の顔を見ていられなかった。恥ずかしくて、照れくさくて、色々と堪らない気持ちになる。今すぐ逃げ出したいような、このまま縋りついてしまいたいような、不思議な気分だった。


「良かった」


 そう言ってサムエレ殿下は嬉しそうに笑う。その途端、わたくしの心が甘やかに震えた。


(どうしてだろう)


 サムエレ殿下が笑っていることが嬉しい。彼の言葉が、握られた手のひらが、瞳にわたくしが映っていることが――――全てが有難く、幸せに思う。


「夜会……楽しみにしているから」


 殿下はそう言ってわたくしを見つめる。頷きつつ、わたくしの唇は自然と弧を描くのだった。
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