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1.そのままの君が好きだよ
5.頑張ったね(2)
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けれど、ジャンルカ殿下の幻影はいつまでもわたくしを解放してくれない。
「今日からよろしくお願いいたします」
それは、両親にジャンルカ殿下からの婚約破棄を打ち明けた翌日のこと。一人の令嬢が教壇の横でニコリと可憐に微笑んだ。新しく聖女となったロサリア様だ。
(なんで……なんでロサリア様が…………!)
彼女は成績や家柄も相まって、わたくしやサムエレ殿下とは別のクラスに在籍していた。それなのに、今日から彼女はわたくし達のクラスメイトになるのだという。頭の中が真っ白になった。
「一体誰の差し金ですか?」
ロサリア様の紹介が終わり、次の講義が行われる迄の合間の時間のこと。サムエレ殿下が教師にそう詰め寄った。彼の瞳は真剣で、いつものような笑顔はそこには存在しない。
「殿下が……ジャンルカ殿下が、その……ロサリア嬢は王太子妃になるのだから、より高度な教育が必要だと仰られて」
教師は躊躇いつつも、そんなことを口にする。サムエレ殿下は眉間に皺を寄せ、教師の手をぐいっと引く。二人は一緒に、教室の外へと出ていった。
(こんなの、あんまりだわ)
わたくしは一人、頭を抱えて俯く。心臓がドクドクと嫌な音を立てて跳ねた。
わたくしはもう、ジャンルカ殿下に関わるつもりはない。顔を見せるなと言われたのだし、二度とお会いする気もない。それなのに、彼はわたくしに『忘れる』ことを許す気はないらしい。苦しめと――――ずっと自責の念に駆られながら生きろと、そう思っているのだろう。
「ディアーナ様」
その時、鈴を転がしたような声音がわたくしを呼んだ。絶望感が胸をつんざく。恐る恐る顔を上げれば、そこには可憐な笑みを浮かべた聖女――――ロサリア様が佇んでいた。
「初めまして、ディアーナ様。私ロサリアと申します。同じクラスになれて光栄ですわ」
そう言ってロサリア様は目を細める。温かくて優しい笑顔だった。わたくしをジャンルカ殿下の婚約者の座から追いやった張本人だというのに、見ていて不思議と癒される。胸がツキツキと痛んだ。
(あぁ、ジャンルカ殿下はこのことを言いたかったのね)
わたくしとは正反対の、温かくて穏やかな微笑み。一緒に居るだけで心が安らぐ可憐さ。あまりの違いにわたくしの存在を全否定されているような、そんな気持ちになってくる。
「今日からよろしくお願いいたします」
それは、両親にジャンルカ殿下からの婚約破棄を打ち明けた翌日のこと。一人の令嬢が教壇の横でニコリと可憐に微笑んだ。新しく聖女となったロサリア様だ。
(なんで……なんでロサリア様が…………!)
彼女は成績や家柄も相まって、わたくしやサムエレ殿下とは別のクラスに在籍していた。それなのに、今日から彼女はわたくし達のクラスメイトになるのだという。頭の中が真っ白になった。
「一体誰の差し金ですか?」
ロサリア様の紹介が終わり、次の講義が行われる迄の合間の時間のこと。サムエレ殿下が教師にそう詰め寄った。彼の瞳は真剣で、いつものような笑顔はそこには存在しない。
「殿下が……ジャンルカ殿下が、その……ロサリア嬢は王太子妃になるのだから、より高度な教育が必要だと仰られて」
教師は躊躇いつつも、そんなことを口にする。サムエレ殿下は眉間に皺を寄せ、教師の手をぐいっと引く。二人は一緒に、教室の外へと出ていった。
(こんなの、あんまりだわ)
わたくしは一人、頭を抱えて俯く。心臓がドクドクと嫌な音を立てて跳ねた。
わたくしはもう、ジャンルカ殿下に関わるつもりはない。顔を見せるなと言われたのだし、二度とお会いする気もない。それなのに、彼はわたくしに『忘れる』ことを許す気はないらしい。苦しめと――――ずっと自責の念に駆られながら生きろと、そう思っているのだろう。
「ディアーナ様」
その時、鈴を転がしたような声音がわたくしを呼んだ。絶望感が胸をつんざく。恐る恐る顔を上げれば、そこには可憐な笑みを浮かべた聖女――――ロサリア様が佇んでいた。
「初めまして、ディアーナ様。私ロサリアと申します。同じクラスになれて光栄ですわ」
そう言ってロサリア様は目を細める。温かくて優しい笑顔だった。わたくしをジャンルカ殿下の婚約者の座から追いやった張本人だというのに、見ていて不思議と癒される。胸がツキツキと痛んだ。
(あぁ、ジャンルカ殿下はこのことを言いたかったのね)
わたくしとは正反対の、温かくて穏やかな微笑み。一緒に居るだけで心が安らぐ可憐さ。あまりの違いにわたくしの存在を全否定されているような、そんな気持ちになってくる。
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