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1.そのままの君が好きだよ
1.婚約破棄の本当の理由(1)
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「ディアーナ。僕は君との婚約を破棄する」
「…………え?」
それは、わたくしの婚約者――王太子であるジャンルカ殿下からの、本当に思いがけない一言だった。驚きのあまり目を見開き、わたくしは殿下のことを見つめる。殿下は眉間に皺を寄せ、苦し気にこちらを見遣りながら、大きなため息を吐いた。
「突然のことで驚いたと思う。だが僕は――――」
「おっ……お待ちください、殿下。婚約を破棄だなんて……何かの間違いでしょう?」
嘘だと言って欲しい――――そんなわたくしの願いが叶わないことは、殿下の表情を見れば一目瞭然だった。
「ディアーナ……君には申し訳ないと思っている」
殿下はそう言って大きく首を横に振ると、わたくしの手を握った。眉間がじわじわと熱くなり、瞳に涙が滲んだ。胸のあたりがひどく痛く、息が上手く出来ない。そんなわたくしのことを気の毒そうに眺めながら、殿下はそっと目を伏せた。
「新しく聖女が誕生したんだ」
殿下の言葉にわたくしは目を見開いた。
「まさか――――――」
「うん……祖母の命はもうあまり長くはないらしい。新しい聖女が誕生して数年後に、先代の聖女は亡くなる。そういう伝統だからね」
我が国における聖女は、一時代に一人。けれど、他の者には持ちえない力をスムーズに引き継ぐためか――――数年間だけ二人の聖女が共に生きることができる。
そして、歴代の聖女たちは皆、王族と婚姻関係を結んできた。ジャンルカ殿下のおばあ様――――亡き先代国王の妃もまた、聖女だ。
「そ……それで、新しい聖女はどのような――――」
「君も知っているロサリア伯爵令嬢だよ」
聞きながら、胸が痞えるような心地がした。
ロサリア様はわたくしと同い年の大層可愛らしい女性で、花のような可憐さと、穏やかな人柄から、殿方に人気の御令嬢だ。いつでも男性を立て、数歩後を歩くようなお淑やかな御方だから、殿下の弟君と成績争いをしているわたくしとは正反対。二つ年上のジャンルカ殿下も、彼女の名前を元々知っていたようだし、その評判は折り紙付きである。
「けれど……けれど陛下は、わたくしを殿下の妃にとお認めくださいましたわ」
言いながら、わたくしはそっと前に出る。
わたくしが殿下の婚約者になったのは今から四年前。殿下のおばあ様がご健在で次の聖女がまだ誕生しそうにないこと、隣国の王女を母に持ち、当時から勉学に秀でていたわたくしが妃に適任だと、王室に請われたのがその理由だった。
『新たに聖女が誕生したとしても――――次期王太子妃にはディアーナが適任だろう』
陛下はそう、わたくしにお言葉を下さった。光栄だった。幼心に、涙が出るほど嬉しかったことを今でも覚えている。
とはいえ、伝統を覆すことは一国王であっても中々に難しい――――だからわたくしは、陛下のご期待に沿うための努力は欠かさなかった。妃教育は当然のこと、文官志望の男性たちと同じ試験勉強をし、私設騎士団に混ざって訓練を受けてきた。力では男性に敵わないものの、弓矢の腕だけならわたくしは誰にも引けを取らない。有事の際に、城を守れるだけの力が欲しかったからだ。
『ディアーナは僕よりも余程優秀だね』
殿下もそんな風に、わたくしのことを認めてくださっていた。それなのに――――。
「…………え?」
それは、わたくしの婚約者――王太子であるジャンルカ殿下からの、本当に思いがけない一言だった。驚きのあまり目を見開き、わたくしは殿下のことを見つめる。殿下は眉間に皺を寄せ、苦し気にこちらを見遣りながら、大きなため息を吐いた。
「突然のことで驚いたと思う。だが僕は――――」
「おっ……お待ちください、殿下。婚約を破棄だなんて……何かの間違いでしょう?」
嘘だと言って欲しい――――そんなわたくしの願いが叶わないことは、殿下の表情を見れば一目瞭然だった。
「ディアーナ……君には申し訳ないと思っている」
殿下はそう言って大きく首を横に振ると、わたくしの手を握った。眉間がじわじわと熱くなり、瞳に涙が滲んだ。胸のあたりがひどく痛く、息が上手く出来ない。そんなわたくしのことを気の毒そうに眺めながら、殿下はそっと目を伏せた。
「新しく聖女が誕生したんだ」
殿下の言葉にわたくしは目を見開いた。
「まさか――――――」
「うん……祖母の命はもうあまり長くはないらしい。新しい聖女が誕生して数年後に、先代の聖女は亡くなる。そういう伝統だからね」
我が国における聖女は、一時代に一人。けれど、他の者には持ちえない力をスムーズに引き継ぐためか――――数年間だけ二人の聖女が共に生きることができる。
そして、歴代の聖女たちは皆、王族と婚姻関係を結んできた。ジャンルカ殿下のおばあ様――――亡き先代国王の妃もまた、聖女だ。
「そ……それで、新しい聖女はどのような――――」
「君も知っているロサリア伯爵令嬢だよ」
聞きながら、胸が痞えるような心地がした。
ロサリア様はわたくしと同い年の大層可愛らしい女性で、花のような可憐さと、穏やかな人柄から、殿方に人気の御令嬢だ。いつでも男性を立て、数歩後を歩くようなお淑やかな御方だから、殿下の弟君と成績争いをしているわたくしとは正反対。二つ年上のジャンルカ殿下も、彼女の名前を元々知っていたようだし、その評判は折り紙付きである。
「けれど……けれど陛下は、わたくしを殿下の妃にとお認めくださいましたわ」
言いながら、わたくしはそっと前に出る。
わたくしが殿下の婚約者になったのは今から四年前。殿下のおばあ様がご健在で次の聖女がまだ誕生しそうにないこと、隣国の王女を母に持ち、当時から勉学に秀でていたわたくしが妃に適任だと、王室に請われたのがその理由だった。
『新たに聖女が誕生したとしても――――次期王太子妃にはディアーナが適任だろう』
陛下はそう、わたくしにお言葉を下さった。光栄だった。幼心に、涙が出るほど嬉しかったことを今でも覚えている。
とはいえ、伝統を覆すことは一国王であっても中々に難しい――――だからわたくしは、陛下のご期待に沿うための努力は欠かさなかった。妃教育は当然のこと、文官志望の男性たちと同じ試験勉強をし、私設騎士団に混ざって訓練を受けてきた。力では男性に敵わないものの、弓矢の腕だけならわたくしは誰にも引けを取らない。有事の際に、城を守れるだけの力が欲しかったからだ。
『ディアーナは僕よりも余程優秀だね』
殿下もそんな風に、わたくしのことを認めてくださっていた。それなのに――――。
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