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25.悲劇のヒロインぶるなと言われましたので

7.(END)

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「え……?」


 悠仁――――それは、前世におけるレイラの幼馴染の名前だ。
 カッコよくて優しくて。文武両道で、品行方正。おまけに大会社の御曹司っていう、まるで乙女の理想をギュッと詰め込んだ、王子様みたいな人だった。


「悠仁なの?」

(ユージーンが悠仁君? そんな、まさか)


 ユージーンと悠仁君はちっとも似た所がない。レイラを通じて知り合ったから、よく知らないせいもあるけど、少なくとも性格は正反対だったと思う。悠仁君はユージーンみたいな狡猾さとか、全く持ち合わせていなかったから。


「俺、言ったよね? を虐めるなって。お前のことは絶対に好きにならないって。俺は栞奈が好きだから」

「そ、れは……」


 ポロポロと涙を流すレイラを前に、呆気にとられる。

 嘘でしょう?
 私が標的にされたのは、そんなことが理由だったの? 悠仁君が私を好きになったから? 全く予想だにしていなかった。


「俺はね、反省したんだ。大人しくしていても、大事なものは守れない。多少ズルをしても、性格が悪いと罵られても、戦わなければ。今度こそ栞奈を――――カンナを守れるように」


 いつから彼はそんな風に想ってくれていたのだろう。全然、気づかなかった。


「待ってよ悠仁! あたしは――――あたしの方が、ずっとずっと、あなたのことを好きだった! それなのに、栞奈はあたしから悠仁を奪ったのよ! あたしの方が可哀そうじゃない! 守られるべきはあたしじゃない! あたしは何も」

「悲劇のヒロインぶるなよ」


 辛辣な一言。レイラが絶望に顔を歪ませる。


「もう二度とお前に会うことは無い。二度とだ」


 ユージーンはそう言って踵を返す。私は彼の後に続いた。


***


 しばらくの間、私たちはどちらも口を利かなかった。
 正直言って、未だに状況が呑み込めていない。私にとってユージーンはユージーンで、前世と繋げて考えることは出来ない。


(だけど)

「俺はカンナが好きだよ」


 抱き寄せられ、ユージーンの胸に顔を埋める。彼の鼓動は速かった。私と同じかそれ以上。
 それだけで、色んなことがどうでも良くなった。

 だって、もう過去に苦しめられることは無い。

 レイラは一生を修道院で過ごすことになるだろう。彼女の前で読み上げた罪状の中には、私が摘発したもの以外が混ざっていた。毒薬の密輸に襲撃の計画――――ユージーンが私をこっそり守ってくれていたんだと思う。


「……悲劇のヒロインぶるなと言われましたので」


 わたしはこれから先も、強く生きて行こうと思う。
 被害者ぶることも、嘆くこともしない。

 嫌な過去は忘れて、とびきり幸せになろう。ユージーンと一緒なら、私は絶対、幸福なヒロインになれる。

 見つめ合い、微笑み合う。唇が重なり、胸が幸福感に満たされる。


「俺がカンナを幸せにするよ」


 力強いユージーンの言葉。私は満面の笑みを浮かべたのだった。


※書き溜めていたものが無くなりましたので、一旦完結とさせていただきます!
また新作短編を書いた暁に更新しますので、その際は宜しくお願いいたしますm(_ _)m
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