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17.それは勘弁してほしい

6.(END)

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「この度は、兄がご迷惑をお掛けして、申し訳ございません」

「……いえ。わたくしも彼と似たようなものですから」


 ルルはヴァレリアと二人きりでティーセットを囲んでいた。
 あれからアベルとルルは、正式に婚約を結ぶことになった。伯爵は大層喜んだが、カインは未だに悲しみに打ちひしがれている。今回を機に、ルルがすっかり兄離れをしてしまったので、しばらくは再起不能だろうとの見立てである。


「兄と同じ……とは?」

「私も大層なブラコンですから……結婚したら兄とはあまり会えなくなりますでしょう? もうしばらくは結婚せずに、兄と一緒に居たいと、そう思ったのです」


 ヴァレリアの言葉に、ルルは苦笑を浮かべる。
 カインの行動は、ルルを心置きなく自分の側に留め置くためのものだった。結婚して自分が爵位を継げば、多少無理を通せる。ルルを誰とも結婚させず、邸内に留め置くために、彼はヴァレリアとの結婚話をあっさり了承したのだった。


「それに、私がカイン様との結婚を破談にしたら――――きっと兄はルル様に求婚する。そう思いましたの」


 ふふ、と淑やかに微笑みつつ、ヴァレリアはルルのことを見つめる。


「ですが……宜しいのですか? アベル様の結婚相手がわたくしで。わたくし、ヴァレリア様にあんなに意地悪しましたのに……」

「まぁ! ルル様は演技が下手糞でいらっしゃいますから。本当は優しくて温かい人だってすぐに分かりましたわ。あとから後悔していらっしゃったことも、兄との反省会の様子も、全部存じ上げております。ずっとずっと、微笑ましく見守っておりましたの」


 そう言ってヴァレリアはクスクスと笑い声を上げる。あまりの恥ずかしさに、ルルは頬を紅く染め上げた。


「ヴァリー、そろそろ良いかい?」


 その時、恐る恐るといった様子でアベルがそっと顔を出す。


「兄様! もちろん、お待たせいたしました」


 ヴァレリアはゆっくりと立ち上がりつつ、満面の笑みを浮かべる。そのまま兄に席を譲ると、軽やかに庭園を後にした。


「――――あんなに嬉しそうなヴァリーは初めて見るな」

「そうなのですか?」

「うん。ルル様が姉になることが余程嬉しいらしい」


 アベルはそう言って複雑な表情を浮かべつつ、ルルの手を握った。


「俺としてはヴァリーにルル様を取られそうで、何だか不安だよ」

「まぁ……!」


 ほんのりと頬を紅く染めたアベルを見つめながら、ルルは嬉しそうに笑う。


「そうですわね。でしたらわたくしも……ブラコンからシスコンにジョブチェンジするのも、悪くない気がしてきましたわ」

「――――それは勘弁してほしい」


 二人は声を上げて笑いながら、初めての口付けを交わしたのだった。
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