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第2章 エリクシア

第59話 戦神

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 アルカーナ大迷宮地下99階にて恐らくこれが大迷宮におけるラスボスなんだろう。
 ガルムラルクなら全員が知っているというリーダーと呼ばれる男が立ち塞がった。

 倒せばあとからどんな人なのか教えてくれるんだろうけど、倒せなかったら僕はみんなと一緒に死ぬだろう。
 体力が0になっても肉体が本当の死に至ることはない。だが、そこにトドメを刺されれば一貫の終わりなんだ。
 あぁ、こんな死ぬ思いをするのはこれが最後だったら良いなぁ。

「ヴウウウ……!」

 僕が咄嗟の判断でレオンの大剣で化け物を吹っ飛ばしたことで、体勢を立て直すことが出来た。

「ハク、お前すげぇな。いつそんな力付けたんだ?」

「力なんてとんでもない。この通り、力任せに使ったから腕ガタガタだよ」

「ははは、それでもすげぇよ。この大剣、常人には地面から浮かせることも出来ねえほどに重いんだがなぁ」

「それは言い過ぎさ。そんなの、レオンが人間じゃないみたいじゃないか」

「人間やめてるレベルに鍛えてるかも知れねぇぜ?」

 体勢を立て直したとは言え、実質誰もそこまでのダメージは受けておらず、談笑する暇が出来ただけだった。
 それも正確に言えば談笑する暇しか取れていないということでもある。

 少しすれば、化け物は唸り声をあげる。
 正面に片手を翳すと、突然、僕達の周りを埋め尽くす程の骸骨が召喚される。

「おいおい、まさかこの数とやれってか?」

「いいや、そう言うわけじゃなさそうだ……もっと不味いね」

 すると、化け物の手の平に真っ黒な球体が出現する。それは急激に赤く光り出すと、周囲の骸骨が一斉に倒れ、肉眼でも見える魂が化け物の手の中に吸収されていく。

「ハアアァ……」

 そしてその球体は化け物の体へと吸収された。刺し傷や裂傷がすべて塞がり、一瞬にして全快した。
 これが呪いの正体か。全ての傷が塞がると同時に心なしか、化け物を纏うオーラが強くなった気がする。

 魔物の魂で傷を塞ぎ、魂で精神を魔物へと作り上げ、魂で自身を強化する。
 理屈には適っているが、此処までして力を求めたこのリーダーという人間の思いが僕には理解出来ない。

「おいおい、マジでやべえじゃねぇかよ!」

「させるかあぁ!」

 この化け物の行動に何かを悟ったのか、コールは叫びながら土の魔式をがむしゃらに行使し、一気に化け物を土の塊と化させる。

「うおおぉ!」

 コールは手で大きなボールを持つ姿勢を作ると、徐々にそれを絞るように小さくさせる。
 同時に土の塊も化け物を握り潰すように小さくなっていく。

 しかしもうそれも手遅れだったのか。確かに徐々に小さくなっていく土の塊は、内側から一気にヒビが入る。

「無理か……!」

「ウオオォアアアァア!!」

 そして叫びと共に土の塊は爆散。中に閉じ込められていた化け物は全くの無傷だった。
 化け物の1つ前に戦ったアロイもそうだったが、今回は元人間の魔物というのもあってか単純な力のゴリ押しは全く通用しない。

 たとえ隙が生まれ、攻撃が当たったとしても、深いダメージは全く与えられない。それどころか弾かれてしまうほどに硬すぎる。
 今回ばかりは覚醒による一発逆転も一筋縄にはいかないようだ。

 化け物はまた姿を消す。すると時が遅くなる。まさか僕が狙いなのか?
 僕は確かにスローの中で化け物の姿を捉えたが、僕の視界は何故かスローのまま上下反転していた。

「あれ……? がはっ!?」

 速すぎる。姿を捉えは出来たものの、僕を掴み上げ地面に叩きつけるまでの動きが全く見えなかった。
 単純にスロー中でも化け物の動きに反応出来なかった。不味い、今度こそ死ぬかも知れない。

 僕の体力は当然のように0/32。
 ……。アロイを倒したからレベルが上がったのか。今ではどうでも良いことだ。オール32のステータスで耐えられる訳が無いだろう。

「殺すウゥ!」

 化け物は両手を組んでハンマーのように僕の身体へ腕を振り下ろす。だがそこで、急に耳を劈くほどの高い破裂音が響いた。

「ギリギリセエエェフ!」

 朦朧とした意識で微かに見える視界にはテツの姿があった。一体何があったのか。
もう少し瞼を開いて辺りを目で見回すと、化け物が両腕をすっぱりと切断されていた。

「グアアアアア!!」

「畜生、二度も流石に連続には使えねぇか」

「ハク! 離れるぞ!」

 僕はレイの声で身体を軽く持ち上げられると、後方へ引き摺らせられる。
 壁まで連れていかれると、すぐにコールによって回復させられ、僕は状況を確認する。

「何があったんだ?」

「次はテツが覚醒した。今のリーダーみてぇに消えたと思ったら、リーダーの両腕をすぱぁん! ってな。ジンより瞬間的な切断力があるかもな」

 まさか死の直前に二度も助けられることになるなんて。しかもテツはそれだけの威力があると分かっておきながら、化け物の首では無く腕を切断することを決めたんだ。
 敵の撃破より味方の命を優先した。
 僕ってもしかして凄く信頼されているのかな?

 ただ、テツの判断は戦況的にも悪くはなかったようだ。呪いの力とやらで魔物化してしまったリーダーは、まだ魔物になりたてだからなのか、身体の再生が追いついていないようだ。

 僕が対峙した炎鬼という魔物は、元が人間だろうが、勇者メンバーであり、元から生命力がイカれていたおかげで、魔物化によって一瞬で瀕死から復活していたからね。
 良い比較になる。

「戻れェ! 戻レエェ!」

「リーダー……一体いつからそんなになっちまったんだよ。リーダーなら、いい加減目を覚ませよぉ!」

 化け物は両腕の断面を見つめながら叫び、暴れ回る。そこをチャンスと見たのか、レオンは大剣を片手に化け物に突進し、振り下ろす。
 が、化け物は両腕を失っても強力なことは変わらなかった。

「ウアアアア!」

  両腕を失った化け物は、レオンの突進に対して残った足で受け止め、レオンは更に連撃を叩き込むも全て、足の脚甲で捌ききるという偉業を見せていた。
 全ての攻撃を捌けば、化け物の最後の回し蹴りはレオンのこめかみに直撃する。

「がっ!?」

 レオンはしばらくよろめき、立ち直ろうとするも更なる追撃がレオンを襲う。
 化け物は助走を付けて走り飛び蹴りをレオンの顔面に食らわし、レオンは勢いよく吹き飛ぶ。

「あがっ……!」

「ウオオオオ!」

「腕使えなくなってもこの強さかよ。そりゃ地下99階でも数10年間潜む力はあるね」

 遂に打つ手がなくなったように感じた。レオンでさえも化け物に攻撃は出来ず、レイは盾を破壊され、ジンの攻撃でも大ダメージは望めない。コールやレイクも打つ手無し。

 そして僕でも【回避】の反応速度が追いつかないという前例の無い事態が起きてしまった。

 あと残るは化け物の腕を吹っ飛ばしたテツだが、ダガーを両手に腰を低く構えて何かを待っている様子で、動かない。
 恐らく先ほどの必殺技をもう一度撃てないか試しているようだが、それに賭けるしかないのだろうか。

 そこでもう盾がないはずのレイが両手を大きく広げて化け物の前に立ち塞がる。

「掛かって来いよリーダー! いいや、アスラ・クロウ!」

「……! ウオオオオ!!」

 レイの吐いたアスラ・クロウという言葉に化け物の動きが一瞬止まったかと思えば、化け物は一気にスピードを上げてレイに向かって長距離膝蹴りを食らわそうと、ジャンプから姿勢に入る。

 化け物が地面を蹴るだけで起こる衝撃波は、近くで強力な火薬が爆発したのかと思えるほどで、盾の無いレイには到底受け止め切れるとは考えられない力に見えた。
 もしこれを生身で受けようものなら、この化け物と同じ力が無ければ、必ず半身が吹き飛ぶだろう。

 化け物をかつてのリーダーと呼び、最早みんなの知るリーダーでは無い化け物と化しても尊敬し、受け止めようする姿勢はいいが、死んでしまう結果を受け止めたく無いが為に、僕は強く目を瞑る。

 するとその瞬間、またしても破裂音が響く。その後に驚いてぱっと目を開くと、唖然とした表情のレイの目の前に、首が無くなった化け物が倒れていた。

「見ての通りオレらは強くなったんすよリーダー。魂になってもずっとオレらを見ててくだせぇ」

 テツが化け物の死体にしゃがみ込み、真剣な表情で言った。
 それに続いてレイクが静かに言う。

「回収する……。アスラ・クロウ。お前はこれから俺の眷属だ……」

 最も尊敬する存在を倒し、同時に失ったことで生まれる静寂をレイクの一言が打ち破った。

「「「「は?」」」」
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