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第2章 エリクシア

第57話 仮

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 僕は目を覚ます。あの爆発で僕は死んだ筈だったが、死んでいなかった。
 朦朧とした意識の中、薄っすらと開けた目から見えるのは0/27という体力表示。どう考えてもオーバーキルダメージだと思うが、僕は何故か奇跡的に一命を取り止めていた。

 ただ視界はぼやけていて、耳は心臓の音だけが聞こえ、手足は一切動かせない。絶体絶命の危機に瀕していた。

 あぁ、死ぬのなら早く死んでほしい。何故死ぬのに最後まで苦しまなくてはならないのか。自決できるものなら今すぐしたい。
 でも、口も声も上手く出せない。アロイの自爆のせいで全身の骨が砕け、手足の関節も逆方向に曲がってしまっているようだ。
 そして身体中が熱くてたまらない。今の僕の状態は人の原型を留めているのだろうか。

 そう次こそ僕の意識が完全に途絶えるのを待っていると、体力が急に全回復した。

「ぇ……?」

「危なかった……! ハク、大丈夫か!」

 体力が全回復したことで一気に視界や身体の怠さが消えると、僕の目の前にいたのはコールだった。
 どうやら僕とジンがアロイを倒した所でやっと魔力が回復したらしい。

 結果僕は死ななかった。もう一つ分かったことと言えば、体力が0になっても直ぐには死なないことだね。
 そう言えばここはゲームじゃ無いんだ。ゲームっぽいステータスなんかはあるけど、それが0になったとこで即座に死ぬわけじゃあ無いんだな。

 あぁ、これなら次の戦いで予期せぬ瀕死状態になった時に対処出来るな。軽く回復薬でも作っておこうかな。

 なんとか死んでいないレイとレオンが完全復活するまで体感で3日ほど掛かった。
 アルカーナ大迷宮地下80階。
 たまたま残っていた食糧をみんなで分け合って進むも戻ることも出来ない場所で大体3日過ごしたんだ。

 3日過ごしてもまたアロイが再度出現することは無かった。魔物の墓といえ、直ぐに復活することはないようだ。
 まぁ、復活していたら次こそ僕は死んでいただろうけどね。

 次の戦いに準備するものは回復薬。
 かなり大分前に感じるけど、僕が暇つぶしに獲得した調合師の本と薬調合道具がこんな所で役に立つとは。
 ただこれで作るには正しい素材が必要なんだけど……。

「みんな、上リカバ草っていう草が15個くらい欲しいんだけど誰か持ってないかな?」

「上リカバ草? あぁ、一応余ってはいるが……魔物の腹から出てくるから集めてはいたものの、売れねぇからなコレ」

「胃の内容物……それは売れないかもね。それで良いや。あと、適当な草10個ほど欲しい」

「いいぜ、道中で拾った草とかすげぇあるからよ。んなら全部やるよ」

 レオンは僕に近づくと、全ての草という草をポーチからぶち撒けた。これによってどれが上リカバ草か分からなくなってしまった。
 ……また劇薬でも作ろうかな。

「これと、これと、あとこれかなぁ……」

 名前も種類も分からない草という草を適量に鍋に入れる。そしてコールの持っていた水筒の水を全部鍋に入れ、火の魔石で水を沸騰。なんかひとつだけ工程を忘れているような気がするけど、劇薬を作るのなら関係ないだろう。
 『薬は毒をを消すためにあるが、薬を沢山混ぜれば毒になる』という皮肉じみたセリフを何処かで聞いたことがある。

「あとは蓋を閉めるだけ!」

「ゲェッホ! ゴホッゴホ! うああぁ! ハク! 何だこの匂い!? 一体何作ってんだ?」

「回復薬作ろうしたんだけど……レオンが他の草も全部ぶち撒けるから……」

「俺のせいかよ!?」

 そうして10分ほどで薬が完成。相変わらず無臭のドロドロとした真っ黒の液体で、地面に一滴垂らせばジュウという音で蒸発する様子が完成しているということが分かる。
 回復薬を作らなかったことがこの先の戦いで仇にならなければいいけど……。

 アルカーナ大迷宮で体感3日休んだ所で僕は出発する。地下81階だ。
 大迷宮80階以降はアロイほどでは無いが、普通に強敵と呼べる魔物のオンパレードだった。

 亜種の亜種と呼ぶべきか。本当に地上にこんな魔物が存在していたのかと疑える強さと特性を持っていて、最初あたりに戦ったゴブリンでも、群れとなれば1匹だけ軍師と呼べる知能の高いゴブリンが精鋭部隊並の連携を生み、苦戦を強いられた。

 また中盤で戦ったスケルトンも生前が歴戦の戦士だったのか、レオンと一騎打ちに持ち込まれるも、何度も剣をかち合う激戦となった。

 地下82階、83、84と下り、70階から80階まで降りる時とは比べ物にならないほどの時間を掛けてようやく90階まで降りてきた。
 これで恐らくボスのような魔物と戦うのは最後だろう。100階がゴールなのだから。

 と思うが、地下90階は一つ上の89階とは嘘のように静かだった。
 魔物が透明化にでもなって隠れているのだろうかと周囲を警戒するも、レイクでさえも魂の反応を感じ取れなかった。
 本当に何一つ物がないようだ。

「本当に何もない……?」

「返って不気味だぜこりゃ……。レイク、他には感じるものは無えのか?」

「あるー。正確には地下99階。アロイとかガウェインとか比べ物にならないほどの化け物のような魂の反応を感じるよぉ。
 ただ……」

「ただ?」

「俺たちはこの反応を知っている。会えばきっと分かるだろう。たとえこの反応が俺の思い当たるものなら、それは有り得ない……。
 あるはずのない反応を確かに感じるんだ。
 いつも眠たそうにしている俺が覚醒するほどにね」

 どうやらレイクの感じるという魂の反応。現在残存する魔物の反応は地下99階にしか無いという。
 しかし、その反応はガルムラルクが深く知る反応だとも言う。

 僕にはなにも予想出来ないが、ガルムラルクが深く知り、それも人間ではなく魔物として反応を示しているんだ。
 そこから予想するなら大切な人間が魔物化したというケースか。

 大切な人では無いけど、転移前にいたクラスメイトである鬼堂正晴という男が、ついこの前、目の前で魔物化したのを見た。
 あれと同じケースだとすると、レイクの化け物級の反応に納得が行く。

 あぁ、もしかしかたら、次のボスが僕の死に場なのかもね。
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