英雄の条件

渡辺 佐倉

文字の大きさ
上 下
59 / 61

昔馴染み3

しおりを挟む
「良い訳ないだろう!」

レオニードが強い語気で言う。
こんな言葉遣いを劉祜にしたことは無かった。

「それでも、友を殺す程の理由は無いだろう」

静かに劉祜は言った。
彼は別に友ではない。

晃と劉祜の関係とは違うのだ。


劉祜がレオニードのことをどれくらい嫁入りの際に調べたのかは分からないが、多分調査結果に彼の名前は無かったはずだ。

「俺はその位の覚悟も無くアンタとの逃亡を選んだ訳じゃないですよ」

果たしてレオニードはきちんと笑えていただろうか。
劉祜はレオニードの顔を見て悲しそうに顔をゆがめたので、失敗していたのかもしれない。

そもそも劉祜が王をやめたのは逃げではないのだけれど、そうさせてしまったかもしれないというレオニードの本音がもれてしまった。
逃亡という言い方は彼の今までを否定してしまうかもしれない。
レオニードはあの守り石を言い訳にしたときの様に劉祜を失望させてしまったかもしれないと体を固くした。

劉祜は大きくため息をつくと「んー、続きはこんな表でやるべきじゃないな」とだけ言うと、相変わらず地べたで涙を浮かべているかつての同僚を軽い感じで担いでそのまま彼の拠点にしているとある商店に向かった。

商談用の応接室に入ると劉祜は担いでいた人間を下ろす。
それからびくびくとおびえながら室内を見回すその男に「なあ、なぜあの場所にいた?」と聞いた。
怯えた目をレオニードに向けてから視線を劉祜に戻した男はおずおずと答えた。

「軍は辞めさせられた。
魔獣が俺の配属されていた地方にはでなくなったから。
それで、傭兵になったんだけど、俺は熱い地方での戦いに向かないからってこの街で契約解除された」

その後はその日暮らしをしてる。
もう国にも義理もないし、仕えるべき主人だっていない。

「だから、俺はあんた達のことを誰かに言ったってなんの得もない!」

それにと、思いつめた顔で後を続けた。

「あんたらが俺がどこかで何かを言うのが嫌だっていうなら、俺を雇ってくれ。
主人を裏切るような真似をチルクの傭兵は絶対にしない」

チルクというのはレオニードの生まれた国の特に寒い地方の名前だった。
主君を必ず信じるという逸話の残る場所だということはレオニードもよく知っていた。

レオニードはその言葉に一瞬悩んだ。
悩んでしまった。

「いいんじゃないのか。とりあえずお試しってことで契約をすれば」

劉祜はそう言った。
駄目だったら殺せばいい。暴虐王であればそう付け加えそうな感じの言い方だった。

レオニードは劉祜が何を考えているのか分からなかった。

「レオが悩むならそうすればいい」

劉祜はそう言った。
レオニードは大きく息を吸ってはいてそれからかつての戦友を見た。

「巻き込んですまない。
だけれど、俺たちのために働いてくれるか?」

しゃがみこんで目線を合わせてレオニードはそう言った。
男はぶんぶんと大げさなほど首を縦に振った。

レオニードは本当にこれでいいのかが分からなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

僕の宿命の人は黒耳のもふもふ尻尾の狛犬でした!【完結】

華周夏
BL
かつての恋を彼は忘れている。運命は、あるのか。繋がった赤い糸。ほどけてしまった赤い糸。繋ぎ直した赤い糸。切れてしまった赤い糸──。その先は?糸ごと君を抱きしめればいい。宿命に翻弄される神の子と、眷属の恋物語【*マークはちょっとHです】

逃げるための後宮行きでしたが、なぜか奴が皇帝になっていました

吉高 花
恋愛
◆転生&ループの中華風ファンタジー◆ 第15回恋愛小説大賞「中華・後宮ラブ賞」受賞しました!ありがとうございます! かつて散々腐れ縁だったあいつが「俺たち、もし三十になってもお互いに独身だったら、結婚するか」 なんてことを言ったから、私は密かに三十になるのを待っていた。でもそんな私たちは、仲良く一緒にトラックに轢かれてしまった。 そして転生しても奴を忘れられなかった私は、ある日奴が綺麗なお嫁さんと仲良く微笑み合っている場面を見てしまう。 なにあれ! 許せん! 私も別の男と幸せになってやる!  しかしそんな決意もむなしく私はまた、今度は馬車に轢かれて逝ってしまう。 そして二度目。なんと今度は最後の人生をループした。ならば今度は前の記憶をフルに使って今度こそ幸せになってやる! しかし私は気づいてしまった。このままでは、また奴の幸せな姿を見ることになるのでは? それは嫌だ絶対に嫌だ。そうだ! 後宮に行ってしまえば、奴とは会わずにすむじゃない!  そうして私は意気揚々と、女官として後宮に潜り込んだのだった。 奴が、今世では皇帝になっているとも知らずに。 ※タイトル試行錯誤中なのでたまに変わります。最初のタイトルは「ループの二度目は後宮で ~逃げるための後宮でしたが、なぜか奴が皇帝になっていました~」 ※設定は架空なので史実には基づいて「おりません」

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

六日の菖蒲

あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。 落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。 ▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。 ▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず) ▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。 ▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。 ▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。 ▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

処理中です...