一から百まで

渡辺 佐倉

文字の大きさ
上 下
10 / 101

10

しおりを挟む
そこには走り込みをしている百目鬼がいた。

河川敷の広い部分を行ったり来たりしている百目鬼を土手から見下ろす。
きちんとトレーニングをしているやつなのだ。実際強かった。

なのに、まるで俺が弱いやつみたいに手を抜かれた。
思わず奥歯を噛みしめる。

これじゃあ、こっちがあいつに恋してるみたいだ。
と思ってしまったところで、そもそも向こうだって恋していた訳じゃないのかと思い至る。

怒鳴ってやろうかと一瞬考える。それとも勝負をやり直してほしいと頼むか。
そんなことばかりが脳内に浮かんでくる。

そもそも、あいつには辟易としてた筈なのだ。
何にせよもう関わらないのであればそちらの方がいい筈なのに、こうやっていかにあいつと関わろうか考えてしまう。

もうやめよう。そう思った時だった。

多分、偶然だ。

百目鬼がこちらを見たのだ。

こういう時どうしたらいいのか分からない。
挨拶をすればいいのか、無視を決め込めばいいのかさえも分からなかった。

呆然と立ち尽くすというほど大袈裟じゃないけれどそのまま動けずにいると百目鬼がこちらに駆け寄ってくる。

「おはよう。」
「あ、ああ……。」

そうか、もう言わないという約束の勝負だったのだ。普通に挨拶をしてくる百目鬼に少しだけ拍子抜けしてしまう。

「こっちはいつものルートじゃないけど、どうしたんだ?」

百目鬼に聞かれ「道場、しばらく使えないから。」と思わず答えてしまった。
そこで、気が付く。

今までそんな話しはしたことが無かったのだ。
あったのは気持ちの悪い告白もどきばかりだった。

格闘技をやってることも、まして、朝ランニングをしていることも一度も言った事なんか無かった。

表情を変えずに文句を言ってやるべきだったのだ。
けれど、思わず訝し気に百目鬼の事を見つめてしまった。

「あ、あー。」

百目鬼が変な声を出す。そんな声を出したいのは俺の方だ。

「いや、そういうんじゃなくてな?」
「どういうんだよ。」

思わず突っ込んでしまう。

そういうのっていうのがストーカー的ななにかを指してるんだって察しは付く。
けれど、どちらにせよそれは百目鬼が以前から俺を見ていたことに変わりは無くて、少し頭が追い付かない。

「あれは罰ゲームの類じゃなかったのか?」

だって、正直それ以外考えられなかったし、クラスメイトだってそんな雰囲気だった。
百目鬼だってそれに気が付いていない筈がないのだ。

「少なくとも誰かと賭けの対象にはしてないから。」

百目鬼はそう返した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貞操観念が逆転した世界に転生した俺が全部活の共有マネージャーになるようです

卯ノ花
恋愛
少子化により男女比が変わって貞操概念が逆転した世界で俺「佐川幸太郎」は通っている高校、東昴女子高等学校で部活共有のマネージャーをする話

男の子たちの変態的な日常

M
BL
主人公の男の子が変態的な目に遭ったり、凌辱されたり、攻められたりするお話です。とにかくHな話が読みたい方向け。 ※この作品はムーンライトノベルズにも掲載しています。

僕の調教監禁生活。

まぐろ
BL
ごく普通の中学生、鈴谷悠佳(すずやはるか)。 ある日、見ず知らずのお兄さんに誘拐されてしまう! ※♡喘ぎ注意です 若干気持ち悪い描写(痛々しい?)あるかもです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

たとえ性別が変わっても

てと
BL
ある日。親友の性別が変わって──。 ※TS要素を含むBL作品です。

目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件

水野七緒
BL
一見チャラそうだけど、根はマジメな男子高校生・星井夏樹。 そんな彼が、ある日、現代とよく似た「別の世界(パラレルワールド)」の夏樹と入れ替わることに。 この世界の夏樹は、浮気性な上に「妹の彼氏」とお付き合いしているようで…? ※終わり方が2種類あります。9話目から分岐します。※続編「目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件」連載中です(2022.8.14)

高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる

天災
BL
 高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる。

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

処理中です...