明けの明星、宵の明星

渡辺 佐倉

文字の大きさ
上 下
4 / 18

本編4

しおりを挟む
その後も、都竹さんとの関係は何も変わらなかった。
当たり前だ。都竹さんは女の人が好きなのだ。
時々、家ですれ違う時、偶然食事の時間が重なった時、近くで都竹さんの匂いがすると俺がどうしようも無くなることがあるというだけだった。

抑制剤が効きづらいのかもしれないと医者に相談したら、困った顔をして曖昧に笑われるだけだった。
彼の匂いを嗅がなければ平気だった。

他のどんなアルファにあっても何もおきない。
正に誤作動だと思った。

それだけだ。
相変わらず自分がオメガに見られることは無かったし、それ以外は普通に生活ができた。

* * *

大学生になった。
早ければもうオメガは誰かと正式に番う時期に入っていた。
けれど、自分と都竹さんは相変わらず婚約者のままだ。

そろそろ婚約を解消されるころかと思うのだがそんな話は何もなかった。
結婚をしたくない主義なのだろうか。

特定の相手がいるのかどうかすら俺は知らない。

「えー、それは違うよ。」

大学で知り合った、安藤が言う。
アルファである安藤だが、俺と違って婚約者はいないらしい。

なんとなく、知り合って、仲良くなってからオメガだと知らせるとえらく驚かれた。
やはり自分はオメガらしくは無いらしい。

そこかしこでオメガですなんていいまわるほど馬鹿ではない為、第二性別の話を出来る人間は少ない。
もののはずみで、アルファなのに婚約を破棄しない都竹さんは番を欲しくないタイプじゃないかと話したら、即座に否定されてしまった。

「アルファっていうのは、そんな生き物じゃないよ。」

安藤は続けて言った。
意味が分からなかった。

「それは、社会的立場の話だろ。」

アルファは能力の高いものが多い。
必然的に社会的地位も高くなる。

「んー、それは卵が先か鶏が先かって話だよ。」

安藤は笑みを深める。

「アルファはね、君たちオメガが居ないと生きていけないんだ。」
「は?なんだそれ。」

むしろ逆だと思った。
オメガはアルファの庇護の元でなければまともに生きていくことでさえ難しい。
抑制剤だって高額だ。
生きていけないのはどう考えてもオメガの方だと思った。

「もしかして、誰からもきいてないのか?」
「だから何を。」
「ふーん。都竹さんて人案外過保護なんだな。」

訳知り顔で安藤に言われて、苛立つ。

「ホント、何なんだよ。」
「都竹さんに聞いてみたら?婚約者があえて伝えて無い事、俺からは伝えられないよ。」

安藤は笑った。

「じゃあ、安藤もオメガがいなければ生きていけないのか?」
「んー、俺はオメガが居なくていつか死ぬ人間だろうから。」

「そんなの、探せばいいだろう。」
「俺だけの大事な人(オメガ)はもう見つけてるよ。」
「なら――」

言葉は最後まで紡げなかった。

「兄貴の番なんだよ、その人。」

安藤は相変わらず笑みを浮かべていた。

「だから、俺には番を選べないし、俺のオメガが居ないからジワジワと駄目になるだろうね。」

まるで何でもない事の様に言うのに瞳だけは真剣な表情で、少なくとも安藤にとってはそれが事実だと思っていることが分かる。

「都竹さんときちんと話した方がいいよ。
婚約者なんだろ。」

安藤は念を押すように言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嘘の日の言葉を信じてはいけない

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
嘘の日--それは一年に一度だけユイさんに会える日。ユイさんは毎年僕を選んでくれるけど、毎回首筋を噛んでもらえずに施設に返される。それでも去り際に彼が「来年も選ぶから」と言ってくれるからその言葉を信じてまた一年待ち続ける。待ったところで選ばれる保証はどこにもない。オメガは相手を選べない。アルファに選んでもらうしかない。今年もモニター越しにユイさんの姿を見つけ、選んで欲しい気持ちでアピールをするけれど……。

モブオメガはただの脇役でいたかった!

天災
BL
 モブオメガは脇役でいたかった!

【完結】終わりとはじまりの間

ビーバー父さん
BL
ノンフィクションとは言えない、フィクションです。 プロローグ的なお話として完結しました。 一生のパートナーと思っていた亮介に、子供がいると分かって別れることになった桂。 別れる理由も奇想天外なことながら、その行動も考えもおかしい亮介に心身ともに疲れるころ、 桂のクライアントである若狭に、亮介がおかしいということを同意してもらえたところから、始まりそうな関係に戸惑う桂。 この先があるのか、それとも……。 こんな思考回路と関係の奴らが実在するんですよ。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

愛孫と婚約破棄して性奴隷にするだと?!

克全
BL
婚約者だった王女に愛孫がオメガ性奴隷とされると言われた公爵が、王国をぶっ壊して愛孫を救う物語

結婚式は箱根エンパイアホテルで

高牧 まき
BL
木崎颯太は27歳にして童貞処女をこじらせているオメガの男性だ。そんなある日、体調を崩して病院に診察に行ったところ、颯太は衝撃の事実を知らされる。妊娠。しかも10週目。だけど、当日の記憶が何もない。いったいこの子の父親は? オメガバースものです。

本能と理性の狭間で

琴葉
BL
※オメガバース設定 20代×30代※通勤途中突然の発情期に襲われたΩの前に現れたのは、一度一緒に仕事をした事があるαだった。 すいません、間違って消してしまいました!お気に入り、しおり等登録してくださっていた方申し訳ありません。

けだものだもの

渡辺 佐倉
BL
オメガバース設定の世界観です 番いになるはずだった人を寝取られたアルファ×元ベータの不完全オメガ 苦学生の佐々木はバイト先のクラブで容姿の整ったアルファ、安藤と出会う。 元々ベータだった佐々木はアルファの匂いを匂いとしては感じづらい。 けれどその時はとても強いフェロモンの香りがした。 それは運命の番だからだと言われるけれど、元ベータの佐々木にはそれは信じられない事で……。 不器用な二人が番いになるまでのお話です。 明けの明星宵の明星で脇役だった安藤のお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/389891500/730549595 完全に独立した別の話ではありますがよろしければこちらもどうぞ。 短編予定で後半ちょっとだけそういうシーンを入れる予定なのでR18としています。 エブリスタでも公開中です

処理中です...