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がしゃーんと派手な音がして目の前に水の入ったバケツが落ちる。

見上げると走り去る制服のスカートが見えた。
朝から、下駄箱の上靴はずたずたで机の中は滅茶苦茶だった。

ここ一週間ほど嫌がらせの様なことをされていた。


ただ、それほど悲しくないし、困ってもいない。


前世で自分がやっていた手口だ。何を考えて、どう嫌がらせを進めていくか、手に取るようにわかる。
それに、正直俺のほうが上手くやる自信がある程度にはこいつらの手際は悪かった。

だからこそ普通に逃げてまわれている訳だが、最初の一手だった上靴だけはどうにもならなかった。
教科書も私物もほとんど無事だし、今も水がはねた程度だ。


正体を明かしていじめるのは馬鹿のすることだし、正体をばれないようにしてできることは限られてくる。

それに、誰がについて首謀者は知らないが、何のためにやっているのかは手に取るように分かる。
そのときどんな気持ちだったかもよく知っているし、それがどんな結果になるかも知っている。

最上級の馬鹿が、馬鹿だからこそやる行為だ。

ただ、自分のときと違うのは、やられている側が誰かから愛されるはずの無い人間だから見当違いもいいところだってだけだ。




「やあ、今日の下校、一緒に帰らないかい?」

もはや芝居がかっている台詞を前世で因縁があった男が吐く。
ちらり。見たはずのバケツの話は出てこない。
ああ、そういうことか。

もはや、これは態とやっているようにしか見えなかった。

「前世の仕返しって訳ですか?」

とはいえ、ただ記憶としての映像を知っている俺にとってはそんなものにつき合わされるのはゴメンだった。

「え?ゴメン。何のことだい?
仕返しって愛おしい君にそんな事するわけ無いじゃないか。」

愛おしい人間が職員用スリッパを履いていようがお構い無しで目の前の男は言う。

「残念ながら貴方の知っているとおり、悪役の心得は熟知していますから。」

自分のファンが暴走している事は多分分かっている筈だ。だけどそれが?何か?という気分なのだ。

もし、それを狙ってやっているとしてもダメージが無いのだ。ただひたすら無駄な時間を過ごすだけなのだからやめて欲しい。

「こんな馬鹿な事をしていても、なんの慰めにもならないでしょうに。
保健室の一件含めて全部お忘れになった方がよろしいのでは?」

俺の言った言葉の何が琴線に触れたのか、蕩ける様な笑みを浮かべる元伯爵様に、ただただ溜息をこぼすしかなかった。
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