言霊の國

渡辺 佐倉

文字の大きさ
上 下
42 / 46

熱2

しおりを挟む
「これはあの不可思議な御業を使った影響か?」

静かに、聞かれた。
神の使者でも便利な能力でもない事を説明するために、ある程度の言霊の情報はあの時伝えてしまった。
迂闊だったのかもしれない。

けれどアラタの目の前の男はただ心配そうにアラタを見下ろすだけだった。

「別にすぐ戻るわこんなもん」

事実そうだった。そこまで影響の強い術式は使っていない。
命を賭けるほどの状況でもないのにそんな事をするのは愚か者のすることだ。

この熱も明日にはひく。

「せめて体重をこちらに預けていろ」

この熱じゃ立ってるのもつらかったんじゃないのか? そう聞かれるが、別にこの程度言霊使いなら慣れている事だ。
魂を大幅に削られるより、一時的な肉体の不調の方がマシ。そういう常識の中でアラタは生きてきた。

だから、意味不明に優しくされるとどうしたらいいのか分からない。
騎士団長に体を預けながら何故だか泣きそうになってしまった。

* * *

着いた宿場町はこじんまりとしていた。
馬を預けた騎士団長はこじんまりとした宿場町のこじんまりとした宿に泊まる準備をしていた。
宿帳に名前を書く彼をアラタは横で眺めている。

「ふうん。リーンって言うのあんさん」
「この世界の文字が読めるのか」
「さすがに全く読めない状態じゃ仕事ができないからなあ……」

アンタも仕事してるとこ見とるやろ。そうアラタは言う。

「君の故郷の文字と共通点はあるのかい?」
「君、じゃなくてアラタや」

きょとんとした顔でリーンはアラタを見た。

「ああ、アラタ……伴侶殿」

結婚しようという話は続いていたのかとアラタは驚く。
それほどこの国にとって御子は必要なものなのだろう。

宿の部屋は同じだったが、勿論何も無かった。
リーンはアラタをベッドに寝かせると、それ以上彼の事も、御子にについても、言霊についても何もきかなかった。
ただ、どこからか持ってきた果物を綺麗に切ったものをアラタに手渡した。

この国では果物は木の実の様なモノを除いて割と高級品だった筈だ。
ただ、そこでそれを指摘するのも野暮な気がしてアラタはリンゴと梨をたした様な味がするそれを黙って食べた。

眠気はすぐに来てしまった。
試行回数が多かった所為で思ったよりも体力を使ったのかもしれない。
それとも、切られた時に失敗されたときの傷が治りきっていないのかもしれない。

どちらでもよかった。
ただ、眠くて目を瞑る。

髪の毛を撫でられた気がした。
そんな事親にもされたことが無い。
だから、思い出が感傷になって錯覚したのではないだろう。

アラタはだるい体で、何故そんなことをするのか尋ねてみたかったけれど、言葉は上手く言葉にならず。
意識は泥の中に沈み込む様に、深く深く眠りの底に落ちて行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

人生やり直ししたと思ったらいじめっ子からの好感度が高くて困惑しています

だいふく丸
BL
念願の魔法学校に入学できたと思ったらまさかのいじめの日々。 そんな毎日に耐え切れなくなった主人公は校舎の屋上から飛び降り自殺を決行。 再び目を覚ましてみればまさかの入学式に戻っていた! 今度こそ平穏無事に…せめて卒業までは頑張るぞ! と意気込んでいたら入学式早々にいじめっ子達に絡まれてしまい…。 主人公の学園生活はどうなるのか!

魔法菓子職人ティハのアイシングクッキー屋さん

古森きり
BL
魔力は豊富。しかし、魔力を取り出す魔門眼《アイゲート》が機能していないと診断されたティハ・ウォル。 落ちこぼれの役立たずとして実家から追い出されてしまう。 辺境に移住したティハは、護衛をしてくれた冒険者ホリーにお礼として渡したクッキーに強化付加効果があると指摘される。 ホリーの提案と伝手で、辺境の都市ナフィラで魔法菓子を販売するアイシングクッキー屋をやることにした。 カクヨムに読み直しナッシング書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLove、魔法Iらんどにも掲載します。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て運命の相手を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ──────────── ※感想、いいね大歓迎です!!

どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~

黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。 ※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。 ※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。

俺のまったり生活はどこへ?

グランラババー
BL
   異世界に転生したリューイは、前世での死因を鑑みて、今世は若いうちだけ頑張って仕事をして、不労所得獲得を目指し、20代後半からはのんびり、まったり生活することにする。  しかし、次代の王となる第一王子に気に入られたり、伝説のドラゴンを倒したりと、今世も仕事からは逃れられそうにない。    さて、リューイは無事に不労所得獲得と、のんびり、まったり生活を実現できるのか? 「俺と第一王子との婚約なんて聞いてない!!」   BLではありますが、軽い恋愛要素があるぐらいで、R18には至りません。  以前は別の名前で投稿してたのですが、小説の内容がどうしても題名に沿わなくなってしまったため、題名を変更しました。    題名変更に伴い、小説の内容を少しずつ変更していきます。  小説の修正が終わりましたら、新章を投稿していきたいと思っています。

自己評価下の下のオレは、血筋がチートだった!?

トール
BL
一般家庭に生まれ、ごく普通の人生を歩んで16年。凡庸な容姿に特出した才もない平凡な少年ディークは、その容姿に負けない平凡な毎日を送っている。と思っていたのに、周りから見れば全然平凡じゃなかった!? 実はこの世界の創造主(神王)を母に持ち、騎士団の師団長(鬼神)を父に持つ尊い血筋!? 両親の素性を知らされていない世間知らずな少年が巻き起こすドタバタBLコメディー。 ※「異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ」の主人公の息子の話になります。 こちらを読んでいなくても楽しめるように作っておりますが、親の話に興味がある方はぜひズボラライフも読んでいただければ、より楽しめる作品です。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

転生先がハードモードで笑ってます。

夏里黒絵
BL
周りに劣等感を抱く春乃は事故に会いテンプレな転生を果たす。 目を開けると転生と言えばいかにも!な、剣と魔法の世界に飛ばされていた。とりあえず容姿を確認しようと鏡を見て絶句、丸々と肉ずいたその幼体。白豚と言われても否定できないほど醜い姿だった。それに横腹を始めとした全身が痛い、痣だらけなのだ。その痣を見て幼体の7年間の記憶が蘇ってきた。どうやら公爵家の横暴訳アリ白豚令息に転生したようだ。 人間として底辺なリンシャに強い精神的ショックを受け、春乃改めリンシャ アルマディカは引きこもりになってしまう。 しかしとあるきっかけで前世の思い出せていなかった記憶を思い出し、ここはBLゲームの世界で自分は主人公を虐める言わば悪役令息だと思い出し、ストーリーを終わらせれば望み薄だが元の世界に戻れる可能性を感じ動き出す。しかし動くのが遅かったようで… 色々と無自覚な主人公が、最悪な悪役令息として(いるつもりで)ストーリーのエンディングを目指すも、気づくのが遅く、手遅れだったので思うようにストーリーが進まないお話。 R15は保険です。不定期更新。小説なんて書くの初めてな作者の行き当たりばったりなご都合主義ストーリーになりそうです。

処理中です...