言霊の國

渡辺 佐倉

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麗しの令嬢2

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彼が連れてきたのは線の細いという言葉がぴったりな綺麗な綺麗な人だった。

「……何だこれは」

令嬢を伴って戻ってきた騎士団長が一瞬絶句した後呟く。

室内は一面文字で埋め尽くされていた。

墨で書かれた真っ黒な文字が床のほぼ一面を這っている。
それから壁にはいくつかの文字が書かれた紙が貼り付けられていた。


「その人が、あなたの大切な人ですか?」

リツに訊ねられたその人が何と答えたのかは聞かなかった。


美しい女性はきょろきょろと部屋を見回している。

「じゃあ、はじめようか」

アラタがリツに言うと、リツは覚悟を決めた様に頷く。

「まずは、あなたの体からそれを吸いだしましょか」

アラタは言いながら自分の指先を針で刺す。
それから血を使って空中に文字を描いていく。

「アレは何ですか?」

リツにウィリアムが聞く。

「俺にも説明できないんですよ。一般的な言霊じゃないので」

彼の家に伝わる秘伝らしいですよ。

アラタが自分の血の付いた指を舐める。

令嬢の首の後ろにある塊が引き寄せられるように、ぐぐっ、ぐぐっ、と盛り上がっていく。

それから弾ける。
墨がぶちまけられたように見える。

律が彼女の首を真っ白なガーゼでふき取る。


そこにはもう何も無かった。

「奇跡だ……!!」

そう言ってから騎士団長は、ぐっと息をつめてアラタをにらみつける。

令嬢の息が整う。
それから彼女は自分で自分の首をなでて確かめる。

「すごい、すごいですわ!!」

何故!!と彼が怒鳴った声はアラタには聞こえている。

「ウィリアムさんでしたっけ? 彼女を別室にお連れしてください」

アラタが抑揚のない声で言う。


彼女に付き添おうとする騎士団長を止めたのはリツだった。

「あなたはここにいて下さい。
これからが本番ですよ」

リツが大きく息を吸って吐く。

それから柄に消去とだけ書かれたナイフが数本並んだお盆ををちらりと見て、ナイフを一本選んだ。

「本番……?」

オウム返しの様に聞いた言葉にうなづく。

「別に蟲は消えてはいません。
ただ、彼の体に住処を移しただけで」

始めますよ。
小さな声でリツがアラタに言う。

「大丈夫や。
何度でも確認のために切り刻めばええんやから」

相変わらず抑揚のない声でアラタが言う。

その時になって初めて騎士団長はアラタの息が上がっていることに気がついた。
これはまるで蟲の末期症状のようだった。

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