言霊の國

渡辺 佐倉

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不可視の御子2

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「なあ、眼鏡いつもしているのか?」

男が質問を変えたけれど、その質問にもアラタは答えられない。
文字を書く手と文字を見る目。二つはアラタにとって体の中で真っ先に守らなければならない部分だ。


アラタの視力は別に悪くない。
けれど、この世界でも彫金の仕事をするとき、拡大のために眼鏡をかけることは別に珍しくは無かったからずっとかけっぱなしになっているだけだ。


他の国の御子の力が分かるまではかけ続けるべきだという事をアラタは知っている。

「この店以外の場所で会ってもええとは言ってないでしょう」
「その、ええって言い方なんか可愛いな!」

話がかみ合っていない。
最初からこの人とはずっとそうだ。

アラタの話を聞いているようで聞いていないのか、端から聞くつもりが無いのか。アラタにはいまだにどちらなのかは分からない。

アラタの事を御子だと思っているのなら、こうやって態々一人で店に来ている理由も分からない。


「そういえば、君はタナバタの準備はしたかい?」

耳慣れた言葉の様な、別の何かの様にも聞こえるタナバタは以前召喚された御子がこの国に広めた行事らしい。
七夕と花祭りとバレンタインが混ざったみたいに変化している様に思えるそのお祭りは、意中の相手に糸を編み込んで作った飾りを渡す。

吹き流しではなく、花や星の形に作られた紙細工が町中にあふれて、紙吹雪、なのか花びらなのだかよく分からないものをまくらしい。

何がどうしてそうなるのかよく分からないけれど、愛の告白を受けた場合、糸で作られた飾りを手首にかける。

その風習からなのか、この国では婚姻をするととても細かい細工の施された、腕輪を贈りあって手首に付ける。
まるで結婚指輪の様なものを手首に付けている。

彼のいう準備が、まくための紙吹雪の事なのか、誰かに渡すための糸飾りの事なのか。どちらであってもあまり答えは変わらない。

「人込み苦手なん。よお、知っとるでしょ」

アラタの言葉に、男は面白そうに笑った。

ゴホン。と師匠からの咳払いが聞こえる。

「じゃあ、また遊びに来るから!!」

アラタの師匠の方をちらりと見て、男はそう言って店を出て行った。
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