言霊の國

渡辺 佐倉

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価値観の相違

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「それの何が問題なんですか?」

ウィリアムがリツに尋ねる。

「何がって、俺が力を使う度……、そうじゃなくても、今この瞬間だってあなたの命の一部をすり減らしてるんですよ!?」

思わずリツは怒鳴ってしまう。
けれど、そんな当たり前の道理がなんで分からないのだろう。


「だから、それの何が問題なんですか?」


それが不思議そうな顔ならまだ、リツはこらえられたのかもしれない。
けれど、ウィリアムは愛を囁くみたいに、とろりと甘い笑顔で言うのだ。

「俺に寿命を削られてるんだぞ。
さすがにその位は分かってますよね」
「あなたが一人で言霊を使った場合、リツ、あなたの魂がすり減ってること位ちゃんと分かっていますよ」

すらすらと返された言葉にリツは一瞬言葉が詰まる。

「言霊使いの寿命が短いことは当たり前の事で今更ごちゃごちゃ言われる様な事じゃないんですよ」
「国のために命を懸けることは王族として当たり前の事で、この世界で御子様のために命の一部を預けるなんてむしろ名誉だと言われるでしょうね」

ウィリアムが言っていることがこの世界の本当の道理なのかは知らない。
けれど、彼がそういう考えでいる事だけは分かる。

けれど、それを許容するわけにはいかない。

「蟲を祓うために、言霊は必ず使わなきゃいけない」

まだ、この国には沢山の蟲がいる。
言霊を使わなければ多くの人が犠牲になる。

それに蟲に取り付かれた人の治療だって必要だ。
今のリツの力だけでは根本的な治療はできないけれど、対処療法的に蟲を小さくすることはできる。

すべて言霊の力を使っているのだ。

一つ一つはジャンクフードを食べたときに失われる程度の寿命が削られるだけだけれど、積み重なれば倦怠感も現れるし、命にだって係わる。


ただ、御子を信仰していると宣《のたま》うだけの人間に背負わせていい業だと、リツには思えなかった。
幼いころから繰り返し聞かされて、学校で、家で繰り返し繰り返し何度もその話をされて、世界がその前提で動いているリツの世界とは違うのだ。

自分の命を削られることを恐れてほしい。
自分の事が大切だと信じて欲しい。

それで、多分自分に対する信仰心は薄れる。
そうすれば、この人の魂は摩耗されない。

誰かの命を預かれるほど、リツの心は強くない。
リツは力の弱いごく普通の人間だ。

早くそれに気が付いて、夢から醒めて欲しかった。
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