言霊の國

渡辺 佐倉

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ウィリアムは思ったより普通の様子で帰ってきた。

「御子様、頼まれていた書物です!」


渡されたのは綺麗な装丁がされた一冊の本だった。

「先代の御子様の手記の写しだそうです」

それを受け取る。

「御子様は何を?」

リツの手の中でバラバラにされていたのは庭に咲いていた花々だ。


「……その御子様っていうのやめませんか?
多分、ですけどこの国の正式な御子はアレにもう決定したでしょうに」

見に行かなくても、状況を聞かなくても分かる。
ウィリアムは困ったような顔をして笑う。

「リツ様とお呼びしても?」
「様もいらないですね。
カスガでもリツでもお好きな様に」
「それではリツと」

ニッコリとほほ笑んだ後、ウィリアムは「花が好きなんですか?」と聞いた。

「いえ。正直あまり興味は無いです」

だからこそこうやってボロボロにすることができる。

「メイドさんに花を摘んでいいかは聞きましたが、何か大切なものでしたか?」

リツにとってどうでもいいものでもウィリアムにとってそうかは分からない。

「いえ。この屋敷のものはすべてリツの思うがままに」

しかし、ウィリアムはニッコリと笑っただけだった。
それが本当の事なのかも分からない。

それを確認できるだけの人間関係もないし、態々力づくで聞きだす様な事でもない。

「言霊の力を色々試していました」

リツの元いた世界には言霊を使う上で厳密なルールがあった。
自分の力がどのように世界に作用するのか、教科書で書かれていた知識以上の事をリツは知らない。

何かで試さないといけない。
自分の力がこの見ず知らずの世界でどう作用するのか。
この世界の精霊と魂がどう作用しあっているのか。


ウィリアムが座ったリツの太ももの上に散らばっている花びらを一枚手に取った。
それをちらりと見てから「リツの言葉をかけられる花が少し羨ましいですね」とうっとりと言う。

まだ、夢から醒めないみたいな口調で話しかけるのか。
言霊への憧れがそうさせるのかもしれない。

リツはため息をついた後、「本を見せてください」と言った。
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