2 / 31
1-2
しおりを挟む
最初に訪れた家に戻る前に、条件の提示があった。
それだって、食費、家賃、光熱費がタダになるものの謝礼と称する金額は微々たるもので、アルバイトをした方がまだマシというレベルだった。
これは断るしかないと頭の中では思っているのに親戚には切り出せない。
「兎に角君は、生活を整えて、彼のいう事を聞いていればいいから」
親戚はまるで、壊れたレコーダーの様に同じことを繰り返すばかりだ。
そもそも相手は誰なのか。
自分の祖父は高校の時無くなっているし、いったい誰の世話が必要なのだろうか?
それでも再び、今度は二人で先ほどの玄関の前に立っている。
「童《わらし》様、お世話係の者をお連れ致しました」
玄関の戸を開けると男はそう言った。
「上がっていいぞ」
先ほどと同じ、高い子供の声だった。
けれど先ほどと違い、随分と横柄だ。
「兎に角、失礼の無いよう。それからこの後何をいても他言無用に」
低い声で親戚の男はそう言うと、静かに室内に入っていった。
仕方が無く、俺は後に続いた。
先にきちんと聞けばいいのにと自分でも思うのに切り出せない。
廊下は薄暗く、奥へ奥へと続いている。
左右を見ると、柱の一本一本に入り口にあった箱と同じ紙が貼ってある。不思議な風習だと思う。
重い足取りで一歩一歩親戚の後を付いていく。
一枚のふすまの前で男の足が止まる。
クルリと無表情で振り返るとまじめな顔をして言う。
「この中にいらっしゃるのは、人ではない。
座敷童様だ。お前にはその方のお世話を頼みたい」
「は?」
座敷童というのは何かの暗喩なのだろうか。
引きこもりか何かを家事代行業者の間ではそう言うのだろうか。
それとも、もう一つのだろうか。それは本家の男がふすまを開けた瞬間、現実のものとなったのを感じた。
その部屋はいたるところに、札が貼られていた。天井にもびっしり、柱にもびっしりとおびただしい量の札が貼られている。
それはテレビで見る呪いのなんとかの様でかなり不気味だ。
黒で書かれた文字は俺は全く判読できない。かろうじて朱色で書かれた部分が文様なのだと分かる程度だ。
この異様な部屋にいるというのに本家の人間だというこの男はニコニコとゴマをするような笑顔を浮かべている。はっきり言って普通じゃない。
けれど何よりも異様だったのはそんな部屋の中心でごろりと横になって漫画雑誌に目を通している子供の姿だった。
その子供は、髪の毛はぼさぼさなものの、服は妙にセンスの良さそうなTシャツと短パンだった。
「お連れしました」
何故ここで、子供のお世話なのかと疑問に思ったが、次の瞬間、子供の口調にそれも吹き飛ぶ。
「よう、お疲れさん」
片手をあげておざなりに子どもが言う。
それを当たり前の様に見て頭を下げる本家の人間に正直ぎょっとしてしまう。
「で、そいつが新しい俺の世話係ってやつか?」
子供がちらりとこちらを見る。目が合った瞳は子供のそれとはどこか違う気がした。
「はい。是非こき使ってやってくださいませ」
まるで昭和のノリだ。それを子供に対してやっているのだ。
「こちらが座敷童様だ。
さあ、きちんとご挨拶を!」
語気を強めて本家の男に言われ思わず息を詰める。
強く言われるのは少し苦手だ。
それよりも何よりも“座敷童”というのはやはり何かの暗喩なのだろうか。
そんな思考も睨まれると止まってしまう。
「……門脇晴泰です。
よろしくお願いします。」
「おう」
偉そうな返事が室内に響いた。
それだって、食費、家賃、光熱費がタダになるものの謝礼と称する金額は微々たるもので、アルバイトをした方がまだマシというレベルだった。
これは断るしかないと頭の中では思っているのに親戚には切り出せない。
「兎に角君は、生活を整えて、彼のいう事を聞いていればいいから」
親戚はまるで、壊れたレコーダーの様に同じことを繰り返すばかりだ。
そもそも相手は誰なのか。
自分の祖父は高校の時無くなっているし、いったい誰の世話が必要なのだろうか?
それでも再び、今度は二人で先ほどの玄関の前に立っている。
「童《わらし》様、お世話係の者をお連れ致しました」
玄関の戸を開けると男はそう言った。
「上がっていいぞ」
先ほどと同じ、高い子供の声だった。
けれど先ほどと違い、随分と横柄だ。
「兎に角、失礼の無いよう。それからこの後何をいても他言無用に」
低い声で親戚の男はそう言うと、静かに室内に入っていった。
仕方が無く、俺は後に続いた。
先にきちんと聞けばいいのにと自分でも思うのに切り出せない。
廊下は薄暗く、奥へ奥へと続いている。
左右を見ると、柱の一本一本に入り口にあった箱と同じ紙が貼ってある。不思議な風習だと思う。
重い足取りで一歩一歩親戚の後を付いていく。
一枚のふすまの前で男の足が止まる。
クルリと無表情で振り返るとまじめな顔をして言う。
「この中にいらっしゃるのは、人ではない。
座敷童様だ。お前にはその方のお世話を頼みたい」
「は?」
座敷童というのは何かの暗喩なのだろうか。
引きこもりか何かを家事代行業者の間ではそう言うのだろうか。
それとも、もう一つのだろうか。それは本家の男がふすまを開けた瞬間、現実のものとなったのを感じた。
その部屋はいたるところに、札が貼られていた。天井にもびっしり、柱にもびっしりとおびただしい量の札が貼られている。
それはテレビで見る呪いのなんとかの様でかなり不気味だ。
黒で書かれた文字は俺は全く判読できない。かろうじて朱色で書かれた部分が文様なのだと分かる程度だ。
この異様な部屋にいるというのに本家の人間だというこの男はニコニコとゴマをするような笑顔を浮かべている。はっきり言って普通じゃない。
けれど何よりも異様だったのはそんな部屋の中心でごろりと横になって漫画雑誌に目を通している子供の姿だった。
その子供は、髪の毛はぼさぼさなものの、服は妙にセンスの良さそうなTシャツと短パンだった。
「お連れしました」
何故ここで、子供のお世話なのかと疑問に思ったが、次の瞬間、子供の口調にそれも吹き飛ぶ。
「よう、お疲れさん」
片手をあげておざなりに子どもが言う。
それを当たり前の様に見て頭を下げる本家の人間に正直ぎょっとしてしまう。
「で、そいつが新しい俺の世話係ってやつか?」
子供がちらりとこちらを見る。目が合った瞳は子供のそれとはどこか違う気がした。
「はい。是非こき使ってやってくださいませ」
まるで昭和のノリだ。それを子供に対してやっているのだ。
「こちらが座敷童様だ。
さあ、きちんとご挨拶を!」
語気を強めて本家の男に言われ思わず息を詰める。
強く言われるのは少し苦手だ。
それよりも何よりも“座敷童”というのはやはり何かの暗喩なのだろうか。
そんな思考も睨まれると止まってしまう。
「……門脇晴泰です。
よろしくお願いします。」
「おう」
偉そうな返事が室内に響いた。
10
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
妻のち愛人。
ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。
「ねーねー、ロナぁー」
甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。
そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる