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戦争編
神の言葉、再び
しおりを挟む俺の意見は採用され、多少落ち着いたアルベルトにも事情を話して、フィデルにジーナをつれて来てもらった。……あれ? 不機嫌そうな顔だな。
「あたしは魔法の研究で忙しいんだ! せっかく調子が良かったところなのに、邪魔すんじゃないよ!」
「すみません、すみません、すみません!」
「ご、ごめんって、ジーナ!」
「どうせ呼ぶなら、研究を始める前に呼びな! 全く!」
フィデルとアルベルトが平謝りしている。……そういえばシャノン師匠も、研究に集中している時に声を掛けられると、滅茶苦茶怒ってたなぁ。
さて。俺の話に、上手く乗ってくれると良いのだが……
「大事な研究の途中で呼び出してしまって、すまなかった。しかし、ジーナさんの力がどうしても必要なんだ。……特殊なスキルの鑑定だからな。より詳しい内容を知るために、あんたの特別な鑑定魔法で調べて欲しい」
「……特殊なスキル?」
「魚人族の巫女、シエルの予知能力だ」
「ほぉ……そりゃあ、確かに特殊だね」
よし、興味を持ったな。怒りが収まったぞ。
シエルから聞いたスキルの詳細と、先ほど彼女とアドルフが激しい頭痛に襲われた出来事について説明し、その原因の解明を依頼する。
俺の話を聞き終える頃には、ジーナの機嫌も直り、興味津々といった様子でシエルを見ていた。
「――という訳で、鑑定を頼みたいんだが……どうだ?」
「……いいだろう。やってやるよ。……レイモンドがあたしに興味を持ってもらおうと、あれこれ気を回していたようだからね」
「はは……そんなに分かりやすかったか?」
「いいや。あたしが、たまたま気づいただけだ。仕方ないから、若造のご機嫌取りに乗ってやるよ」
「ありがとう、ジーナさん」
「ふん」
多分この人も、俺達に当たり散らしたことを、悪いなと思ってるんだろうな。ばつが悪そうな顔をしている。
「ほら、魚人の小娘。じっとしてな。今から鑑定するよ」
「はい。お願いします」
さっそく、ジーナが鑑定魔法を使い、シエルのスキルの鑑定を行った。……そして、目を見開いて固まる。
「――二度目、か。これが出るのは加護だけじゃなかったんだね……」
「……何言ってんだ? ジーナ。何の話だよ」
「お前はちょっと待ってな、アルベルト。まずは、本人に結果を見せてからだ」
ジーナは紙にスキルの詳細を書き、それをシエルに手渡す。その内容を見た彼女は、やがて口元を手で覆い、驚愕した。
「これは、一体……?」
「最後に書いた文章を見たんだね?」
「はい! ジーナ様、これは何ですか? あなたの特別な鑑定魔法は、毎回このような内容を見ることができるのですか?」
「いや。今回で、まだ二度目だよ。あたしがそれを初めて見たのは、つい最近……レイモンドとアドルフが授かった、神の加護を鑑定した時さ」
「何?」
「それって……!」
思わず、アドルフと顔を見合わせる。――神の言葉だ! 俺達と同じことに気づいたロッコが、ジーナに問い掛ける。
「また神の言葉が出たのじゃな? 姉上」
「あぁ」
「か、神の言葉?」
「どういうことです? 何故そんな物が鑑定魔法で見えたんですか?」
ソラン達が困惑しているが、詳しい説明は後回しだ。まずは、シエルの鑑定結果を聞かせてもらう。
スキルの内容は、最初に彼女に教えてもらった内容とほとんど同じだった。ただし――
――如何なる方法であろうとも、使用者以外の存在が未来の全てを知ることは不可能。
万が一無理にでも知ろうとした場合、その罪への報いとして、使用者に下される罰と同程度の罰が与えられる。
そんな文章が、記されていたそうだ。……さらに、シエルが言った。
「その文の下に、こう書かれています」
――罪を犯した汝らに、相応の罰を与えた。
如何なる方法であろうとも、予言の巫女が他者に未来の詳細を語ることは許されない。汝に許された方法は、未来の断片を予言として語ることのみ。
銀の狼よ。我が汝に与えた力で真実を知ることは許すが、未来を知ることは許されない。
今後、愚かな真似は控えるがいい。――我は、汝らを苦しめたい訳では無いのだ。
その言葉を聞き、冷や汗を流す。
「神様から直々に叱られちゃったよ……! これってやっぱり、言い出しっぺの俺が悪いよな? アドルフとシエル、本当にごめん!」
「だから、お前のせいじゃねぇって」
「そうですよ、獣王様。……結局、わたしが甘かったのです。スキルの使用者であるわたしが、もっとよく考えていれば、アドルフ様を巻き込むことも無かったのに……」
「いやいや」
「シエルのせいでも無い。さすがにあれは、誰にも予想できねぇだろ」
そうだ。アドルフの言う通り、彼とシエルが頭痛に襲われたことは想定外の出来事。アルベルトもシエルもアドルフも、誰も悪くないと思う。
「……ところで、レイモンド様。先ほどジーナ殿が、あなたとアドルフ殿が授かった神の加護を鑑定した、と言っていましたが……」
「あぁ。俺とアドルフは、獣神デファンス様から加護を授かっている」
「おお……! 獣神様のご加護を!」
「さすがはレイモンド様!」
ヒジリとクロマルが、またキラキラとした目を向けてくる。……そわそわするから、止めてくれ。
「じゃあ今回の神の言葉も、獣神様の言葉なのか?」
「……いや、違うと思う」
「そうなのか?」
俺にそう聞いてきたソランに向かって、逆に問い掛けてみた。
「ソランは、俺達にスキルを与えている存在が誰なのかは、知っているか?」
「あぁ、それは知ってる。ラルゴ島を守ってくれているお方が、神獣様だからな。魚人族は自然と、神話に興味を持つようになった。……オレ達にスキルを与えているのは、確か――あっ」
おぉ、途中で気づいたな。パクパクと口を動かして、驚いている。……そう。つまりは、そういうことである。
「今回の神の言葉は――おそらく、創世神ゲネシス様のお言葉だ」
もちろん、本当の所はどうなのかは、分からない。確かめようが無いからな。
だが。今回の騒動が起こったことで、俺達の様子を覗き見て、その行動を罪と判断し、罰を与える存在がいることが判明した。
どこまで見られているのかは知らないが、これからはより一層、人智の及ばない存在――神々のことを意識する必要があるだろう。
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