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獣王国ヴァイス編
少しずつ、絆を深めていく
しおりを挟む「俺の話は終わったし、この部屋は好きに使っていいぞ」
「……何の話をしていたんだ?」
「内緒! それじゃ、あとは二人で話し合ってくれ。……心配すんな、アドルフ。レイモンドはこれからも、お前の心友でいてくれるってさ! な?」
「あ、あぁ。そのつもりだ」
「!」
俺が頷くと、アドルフの耳と尻尾がピンと立ち上がる。……分かりやすいな、こいつ。
「本当に変わったよなー、お前。昔は耳も尻尾も、そこまで分かりやすく動かなかったし」
「うるせぇ。さっさとどっか行け」
「扱いが雑! つーか、ここ俺の部屋だから!」
「…………」
「……分かった、分かった。邪魔者は退散しますー」
アドルフがしっしっと手を払う。アルベルトは両手を上げて、降参のポーズを取った。一見すると気の置けない友人同士に見えるが、その肩書きは普通ではない。
片や、第一旅団副団長兼、戦闘部隊隊長。片や、獣王国の王様。それも副団長の方が、一国の王を雑に扱っている状態である。
そして、その二人の友人になった俺は、第一旅団の平団員。
(冷静に考えると、いろいろおかしい)
苦笑いを浮かべつつ、部屋から出て行くアルベルトの背中を見送る。それと入れ替わるようにアドルフが部屋に入り、先程までアルベルトが座っていた場所に座った。
「……レイ。その――」
「ごめん」
アドルフが何かを言う前に、先にこちらから謝った。
「さっきお前を無視したのは、八つ当たりだった。お前に信用してもらえない自分が情けなくて、イライラして……それで、つい」
「ちょっと待て。俺がお前を信用してないなんて、いつ言った?」
「分かってる。さっきアルベルトに話したら、俺の勘違いだったってことが分かった。……獣化した獣人族の背中に乗る意味も、教えてもらった」
「! ……そうか。聞いたのか」
「あぁ。……悪かったな。リアムと模擬戦をしていた時に聞こえたアドルフの必死な声が、まるで、俺が負けることを確信しているかのように聞こえて、勝手に裏切られたと思っていたんだ」
全く、自分勝手だよな。信用されていないと勘違いして、八つ当たりして……穴があったら入りたい。心友を信じていなかったのは、俺の方だった。
「俺も、悪かった」
「何故お前まで謝る?」
「『ただ守られるだけの弱者にはなりたくない』って言ってただろ? お前。……さっき、ボス達とも話したんだ。危うく、レイを籠の鳥にするところだったと」
「俺の自由を奪うところだった、と?」
「そうだ。俺達は、お前の気持ちを考えていなかった。お前を仲間にしておきながら、共に戦うよりも守ることを優先していた。……あの時、俺に加護が与えられなかったら、レイを助けることができなかった。お前が助かったのは、獣神様のおかげだ。俺もヴェーラ達も……結局、誰もお前を守り切れていない。特に俺は、レイを守るどころか、人狼化でお前に負担を掛けてしまった」
伏し目がちにそう言った後、アドルフは黙り込んだ。……今、ここには俺しかいない。こいつに励ましの言葉を掛けられるのは、俺しかいないのだ。
その気持ちとは裏腹に、俺の口から出たのは――
「馬鹿か、お前」
そんな言葉だった。アドルフが唖然としている。それでも、口は勝手に動いた。
「加護の鑑定結果には、獣神様の言葉が記されていた。『お前達の友を想う尊い心に感服し、加護とギフトを与えた』ってな。……分かるか? これは逆を言えば、友を想う気持ちがなかったら、加護もギフトも与えられなかったってことだろうが」
「……そう、だな」
「お前は俺を助けたいと思った。だから、オリソンテから飛び出した。フェルゼン砦を無理に突破して、体力を消耗しながら、それでも俺を助けようと必死になった。獣神様はその行動を評価し、加護とギフトを授けた。――アドルフのその気持ちのおかげで、俺は助かったんだ」
アドルフは目を見開き、俺を凝視した。いつの間にか、伏せられていた耳が立ち上がり、前に向けられている。
「人狼化についても、さっきミュースがお前を励ましたばかりだろう? 俺達が成長すれば、制御する方法も見つかるかもしれない。お前だって、手掛かりが見つかったと納得していたじゃないか」
「あ、あぁ……」
「俺はもう気にしていない。過ぎたことをいつまでも引きずるな。鬱陶しい」
「…………」
また耳が下がった。……あぁ、くそ。加減が難しいな。こうなったら、ストレートに言うしかない。
照れ臭い気持ちを紛らすために、俺は勢い良く立ち上がり、アドルフの眼前に人差し指をビシッと突き付けた。
「狂狼のアドルフ。――お前は俺の心友で、相棒だ。今までも、これからも」
「…………」
「だから、堂々としていろ! お前は、この俺が認めた男なんだ!」
目を丸くしたアドルフは、俯いてしまった。そのせいで影が掛かり、表情がよく見えない。
それから口元を手で隠し、そっぽを向く。しかし、彼の耳は立ち上がっていた。沈んでいるわけでは無いらしい。
やがて顔を上げたアドルフは、俺の目をじっと見つめた。深紅の瞳がキラキラと輝いており、何かに期待しているようだった。
「俺は、レイモンドに信頼されていると、そう思っていいのか? ……浮かれても、いいのか?」
「……勝手にしろ。ただし、浮かれるな。調子に乗ったら殴る」
「殴るってお前……ちょっとぐらい浮かれてもいいだろ?」
「対応が面倒くさい。嫌だ」
「酷い」
そう言いつつも、ニヤニヤと笑っていた。いつもの調子に戻ったようだ。世話の焼ける奴め。
「今までもこれからも、俺はレイの心友で相棒……か。言ってくれんじゃねぇか」
「顔がうぜぇ。ニヤニヤすんな」
「この俺が認めた男、ねぇ?」
「わざわざ復唱すんじゃねぇ」
「なぁ、レイモンド」
「あぁ?」
「――ありがとう」
狼が、笑った。嬉しくてたまらないのだと、頬を緩ませている。狂狼の異名は返上した方がいいんじゃないか?
でもまぁ、悪くない。迷子の子供のような表情よりも、笑顔の方がよっぽど良い。
それに、俺もいつの間にか笑っていた。
(俺の言葉が、アドルフの心に届いた!)
前世では、落ち込んでいる妻に上手い言葉を掛けてやれなかったが、今世では俺の言葉で心友が元気になってくれた。
また少しだけ、絆が深まった気がした。
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